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イアースの地にて  作者: 涼原 一生
帝国騒動編
11/22

王との邂逅

久しぶりの更新です。

11話


 村に戻り、ローズ一家と別れる。


 太陽は空高くにあり、昼間であることを告げる。


 襟元を掴んで空気を入れ替えながら、コーレルや兵がいるだろう方向へ歩き出すバハラム。

 

 ふと、コーレルに尋ねることが出来なかった質問が脳裏に過ぎる。


―――やつを倒すには、あれに支配されていては無理だろう?―――――


「あれに支配……」

 

 その言葉をトリガーとしたのか、塵払剣の宝玉が今までに無いほど輝きを放つ。


「っ!?」


 思わず腕で目を隠す。


 それはもう一つ太陽が現れたようなほど眩く、エッガ村は数秒間その光に支配される。


「なんだったのだ…」

 

 光が落ち着き、バハラムの視界に映ったのは例の霧だった。


 しかし、それはリーサのとは異なる、乾いた血のような色、紅色だ。


「…」


「…」


 輪を作り、バハラムの頭上を時計回りに動く霧。それが何か言いだすまで黙っていたが、面倒くさいと感じたバハラムが口を開く。


「…誰だ?」


「俺は、ヴィダ・リドゥルってんだ」


 霧は変わらず停滞している。がさつで、適当なことばかり言いそうな口調だ。


「おいおい!初対面でそんなこと考えんなよ!」


「あ、いや!すまない。俺は…」


「お前のことなんて興味ねーよ」


 辛辣に吐き捨てるリドゥル。こいつも俺の心が読めるのだろうか?と考える。


「よく知ってるな、お前のガールフレンドのおかげかな?」


「リーサは幼馴染だ。偏見して悪かった」


「あー、いーよ」と、明後日の方に手を向けて言ってそうな返事をされる。


「なぜ、突然現れた?」


「…ある単語を言うとかだった気がするが、どーでもいーや」


 思い当たる節があるので、それとなくリドゥルに質問を続ける。


「自我を失わないためには…どうすれば良い?」


「知らねーよ、…はっきりしないなら、捨てちまえ!」


 変わらず、強く言い返される。


「何を?」


「全部だよ全部」


 彼がどう受け止めたのか知る由はないが、腕を組み深く考え始める。


「お前は一体…」


 質問を続けようとした矢先、霧は消えていた。


「なんだったのだ…」


 彼と話す前と同じ、未知に怯える感情を抱きながら彼を“紅霧”と呼ぶことにする。


 塵払剣は変わらず宝玉を輝かせている。


「この剣のことも調べないとだな…」


 目的はリーサの体を取り戻す。復讐のためまずはルークを倒す。塵払剣のこと。リンナさんのためお兄さんを探す。


 課題は増えていくばかりだ。



「とりあえずは目の前だ」


 己に喝を入れ、脚を動かし始める。


「ホルィド大雨林の中で、妙な衣装の男を2人見たんだ。1人は赤髪で…」


 村の出入り口、半壊した木製のくぐり門付近に兵士達がいる。


 その会話を耳に挟んだバハラムは、コーレルのところに駆け寄る。


「コーレルさんお待たせしました。何かあったのですか?」


「来たな。来た道とは別だが、ホルィド大雨林でアヴル国王らしき人物を確認したと、村人経由で情報を得た。すぐに向かう」


 冷静な口調で簡潔に説明を受ける。森を鋭く見つめるその瞳には不安と希望が宿っていそうだ。


「わかりました」


 一行は村を出て視界右側、暗雲立ち込める大陸の北東部へ進む。


ーーーーーーーー


 しばらく進むと、開けた場所で男が二人、何やら話している。


「魔王、俺は…俺の信じる道を行く」


「わかった」


 一行が辿り着いた先には二人の男の姿があった。


 赤いマントと黒いマント。ツタで視界が遮られていても、国印があるためどちらがアヴル国王なのかはわかりやすかった。


「魔王、邪魔が来たぞ」


 統治と武力を意味する、剣を持つ拳の模様を刻んだ赤いマントを靡かせる赤い長髪は、帝国の王であるアヴル・ラグ。


 そして、魔王と呼ばれた男の姿だった。


「お前は…」


「あの耳…」「魔族か…?」


 黒髪の青年。大剣を背負う男は角を生やし、逆立つ髪と背中を隠す長髪はとても奇抜だ。


 兵たちは魔族ではないかと推測するが、それは正解である。


 装備は篭手や腰蓑と軽装を纏っている。身長は並んでいるが、バハラムより少し年上に見える。


 直感で討つべき相手と判断したバハラムは足を一歩踏み出す。


 バハラムの穏やかな目、殺意が集束するように一瞬にして表情が変わる。

 

 それを体現するように髪が逆立ち、呼応するように背中から紅い霧が放たれる。刹那、コーレルの言葉が頭の中を過ぎる。


―――目の前ばかり見ていては大切な物を見失うぞ


「バハラムだめ!その人を攻撃しないで!」


「リーサ?」


 ハッとし、反射的にリーサの声に反応してしまう。


「あの人の剣の中!私と同じのがいる!しかも絶対質が悪い!リドゥル以上に嫌かも!」


「リーサお前、やっぱりリドゥルのこと!?」


 霧は消えていた。リーサが黙ったのか。リドゥルに回収されたのか。


「バハラム、誰と話している?やはりその剣に何かいるのか?」


「…あとで話します。今はあの人たちが先です」


「必ず話してくれよ」


「ええ」


 短く言葉を交わし各々が獲物を抜き、コーレルはアヴル・ラグに。バハラムはサタンの方へ構える。


 兵士は援護できるように距離を保って陣形を作る。


「ラグ国王!!」


「…コーレルか」


 配下であるはずの兵士は王の前に立ち獲物を向ける。


 先に口を開いたのは表情に余裕のある王だった。


「リンナに伝えろ、俺はこの者と共に行くと」


 共に背を任せ合う相手、魔王と呼んだ者に親指を向ける。


「そんな突然!王たるあなたが行方不明になってからの一週間、リンナ殿下がどれほど」


「…そのリンナがいないようだからお前に言伝だ。私がこの者と行くことは決定事項だ。国政に関してはファズが代理を務めている。次の国会にはファズに出席してもらうようにも命じてもある」


「ですがラグ国王!あなた無しでは…っ!!」


 刹那。ラグは剣を抜き、突風がコーレルの髪を仰ぐ。


 剣は風を生み、草葉は斬れ、地に落ちる。


 アヴル国王であるラグの放った剣技は服従。


 命令ではなく、脅しとして力を振るった。コーレルはそれを理解し声を殺す。


 剣を鞘に納めたラグは声色を重くして言う。


「弱者の叫びは届かぬと思へ。轟かすは強者の証」


 帝国の教えだろうか、ラグがそういうとコーレルは口を閉じてしまう。


「それに…ウィーダもいる。あいつは国王になりたいと言っていた」


「ですが…ですが…!!」


「…同じアヴルでも、多くの民から認められているあいつの方が国政も上手くやってくれるだろう。俺は既に王である資格を捨てたのだ」


「そんな…」


 捨て身覚悟でここまで来たコーレルだったが。ラグ国王の決断を止める術を持っていない彼女は、リンナから賜った使命を果たせない己に失望し膝から崩れる。


ーーーーーーーー


 どうすればいい?奴を倒すべきか?コーレルさんは大丈夫では無さそうだがどうすればいい?


 己の行動もままならない状況で他人を心配するのは愚行。バハラムが戦闘において、またこの状況下で弱者であると見抜いたリドゥルは口を開く。


「しょうがねーな」


 唐突に、宝玉から声が響く。


「お前は迷ってばかりで気に食わねぇな」


 その声はリーサではなくヴィダ・リドゥルだった。


「おまけに記憶も無くして、幼馴染ちゃんの顔すら覚えてねぇときた。お前は何のために旅をしている?」


 まだ幼さの残るバハラムに、まるで理不尽を投げつけるように一方的に言葉を重ねる。


 そのたびにバハラムの心が逃げ場を無くして苦しむのを愉悦に感じているのか、リドゥルの声は段々と高くなっていく。


「俺はここから動けねぇから何でもいいけどよ、持ち主がこんなじゃ恥ずかしいぜ」


 沈黙で肯定するバハラムに、ため息をついてから言うようにリドゥルが言う。


「お前はどうしたいんだ?」


 藁にも縋る気持ちで、例の言葉を口にする。


「支配…」


「あ?」


「俺は…誰かにとって大切な人を奪うことを許さない、それが例え、神が決めたことでも」


「言うじゃねぇか」


「何でもいい、あいつを倒して、国王を…リーサを取り戻せるならなんでも」


「力は無い、目標も漠然としている。だが、覚悟はできたみたいだな」


 言葉に出たことではなくその裏、心の中で考えている目標を見て答えているのだろう。バハラムの心の中には混沌が渦巻いている。


 頭をかきながら重い腰を上げる動作が容易に想像できる。「あー」と面倒くさそうな声が聞こえる。


「そんな覇気の無ぇ声で言われてもって感じだが…まぁいいさ」


 宝玉から噴出する霧。それはバハラムを中心にあたりを覆っていく。


 サタンやアヴルは当然、コーレルの兵隊もその様子に驚く。


 王に向けていた剣をそちらに向け、兵たちは体を震わせる。


 サタンは、闇のような霧の中から己に向けての問いかけに目を向ける。


「ルークは…お前の仲間なのか?」


「…そうだな、ミラードラ・ルーク。世間で魔物と呼ばれている」


 バハラムの感覚は正しかった。仇の親玉が目の前にいる。殺さない手はない。


 ふと、トワン村でルークに伝えたことを思い出すサタン。


『今はお前の心配をするほど余裕が無い。悪いが、自分のことで手一杯だ』


『…わかったよサタン。少しの間、自由に行動していいんだね?』


『…計画の邪魔をしないなら問題ない』


 その質問を最後に、人が変わったような声色で語り掛けるバハラムの体は、物騒な姿に変容した塵払剣を右手に、双眸でサタンを捉える。


「よぉ魔王様、俺はリドゥル。ちょっと血の気があるけどよろしく」


「血の気が多いとかは聞くが、その自己紹介は初めて聞くな。姿が見えないが声だけ聞こえるのは魔法か?」


「生憎だが実体が無いんでね。今はこの体を乗っ取る形で喋っている」


「まるで霊体だな」


 挑発的に霊体というワードを発したことでリドゥル基、バハラムの体は戦闘態勢に入る。それを見越してか、サタンも大ぶりな両手剣を構える。


「なぜ襲わせた?穏やかのままでよかったじゃねぇか」


「…この世界で襲われることは仕方の無いことだ。少なくとも、俺は救いの手を差し伸べた」


「魔王様よぉ!嘘言っちゃいけねぇぜ?」


 塵払剣と大剣がぶつかり合い、耳をつんざく金属音と共に爆発が起こる。


 両者、衝撃で大きく後退する。煙が上がると眼前の大地は大きく抉れていた。


 それだけではない。雨天林の大地に溜まっていた水が水蒸気となり辺り全体にとんでもない熱気が発生する。やがて雲となりここら一帯に雨が降るだろう。


「そうか、それが塵払剣か」


「知っているねぇ」


 名の通り辺りを薙ぎ払えばすべてを塵とする爆発が起こる。


 バハラムの体はこの剣の脅威を理解したのだった。


 両者は互いに大剣を振る。


 斬り上げたバハラムの体は体勢を崩しながらも、サタンの周囲に爆発を起こす。


 その度に土が飛び散り、樹をなぎ倒し、湖が干乾び、魔物が吹き飛び、火の海がその脅威を広げていき、自然そのものを灰燼と化していく。


 かたやサタンの大剣はどうだ。


 黒い軌跡を描いた斬撃は、滑空する鳥のような速さで空中を飛びバハラムに襲い掛かる。


「ちぃっ」


 肉体は衝撃をまともに受ける。腕や胸に傷が入り、飛び火した衝撃だろうか、宝玉にも傷が入る。

 

 しかし負傷はバハラムだけではない、サタンはその左肩が円形に抉れていた。


「サタン?」


 ラグは彼の荒い呼吸を聞き振り向くが、サタンが左手で持つ大剣も抉れていることに気が付く。


 そして、彼らの体と剣は瞬く間に再生し元の姿を取り戻す。


「怪物だ…!」


「お前たち!」


 ふと兵士が零す。それに頷くように他の兵士もバハラムから距離をとろうと一歩引く。コーレルは事情を知っているため部下である兵たちに怒鳴るが、彼らの恐怖は引かない。


 だが、それだけで彼の力に寄り添うことは難しい。ただ剣を振るうだけの兵は自然と二人から距離を取った。


「治療魔法を使ったようには見えない」魔法の瞬きも見えなかった。サタンの肉体再生を疑問に思ったのはコーレルだけだった。


「サタンさんよぉ!民衆からは怪物止まりですってよぉ?聞いて呆れるぜ!」


「レーディス!」


 彼らの剣のぶつかり合いが激しくなる中、ラグが何かを呼ぶ。それはすぐに地に足をつける。


「お呼びですか」


 ズシン。と大地が鳴く音。地表に小さな亀裂が走ったのは空より降りし黒龍の元。


 居合わせる人々はその震動に体勢を崩し、地に手をつける。


 その場のどの剣よりも巨大な一本角は漆黒を宿し、双翼は闇を抱擁したように何よりも黒い。


 四肢が支える巨躯は軽くトワイライトを超え、蛇のような尾は先端に鋭い刃を携える。

 

 忠誠を誓った主に仇名すバハラムに顔を近づけ臭いをかぐ。


 それは絶滅種が一体《大剣黒龍(ネロケドゥラン)》だ。コーレルや兵は見知った顔の龍で、小声でその名を呼ぶ。

 

 その震動を皮切りにバハラムの意識が、塵払剣の姿が元に戻る。疲労から倒れそうになるバハラムを抱えたのは駆け寄ったコーレルだ。


「コーレル…さん…」


「今のあなたでは勝てない。感情に任せて命を捨てるような真似はするな」


 何かを望むようにラグの方を見つめるが願いは叶わない。


 彼の鋭い眼は既に敵意を持ってコーレル達を見つめ、呼び寄せた黒龍にまたがる。

 

 意識が薄いバハラムの様子を伺うように、黒龍は背を向けながら彼の方に視線を向ける。


 やがて命令で飛翔し、サタンとラグは暗雲の中に消える。


「…すみません」


「…謝られても困る。ただ、この世界の生き方を言っただけだ。それよりもバハラム、またあれを使ったな?」


 コーレルの言葉をすべては聞き取れず、俺の意識は途絶えた。


ーーーーーーーー


「…?」


 不思議な感覚。夢の中であることはすぐに理解した。


 少し歩くと、誰かが血を流して倒れている。


 バハラムは駆け足でその者に近づく。そして、近くにもう一人が、血を滴らせる剣を持っていることに気づく。


「ひっ!?」


『殺したいだろう?こんな夢を見る程に、憎いだろう?』


 その者はバハラムと同じ姿、声だった。しかし確かに異なる特徴がある。


 体全体に赤い線の模様、まるで返り血を浴びたような綺麗な赤色。剣を死体に向けて問いかける。


「違う!」


『何が違うって?』


「殺したいほど憎い…だけど!殺したいとは言っていない!」


『じゃあ殺してしまえ』


「なんで…なんで」


『殺さないとお前が殺される』


「誰に…」


 それはバハラムに顔を近づける。額と額がくっつきそうになるほど。


『殺して、残った魂も、その行く先も全部殺してしまえ』


「そんな…俺はそんなことしない!」


『素直になれよ、人間は、お前はそんなに強くなれない』


「俺は…俺は…」


『答えが遅い、じゃあ殺されるしかないな』


 もう1人の自分が剣の先を向けてこちらに向かってくる。


「はあっ!!」


瞬間、眼が覚め現実に戻される。窓の外は暗く、起きるには早い時間であることがわかる。


「あんなことしない、俺は…」


 右手で額を抑える。


 血の気が引くほどの感覚を抱きながら、壁にもたれかかる塵払剣に気づくこと無く部屋を出ていくのであった。

支配…リドゥルを自発的に呼ぶことが出来る単語。それに気づいたバハラムは今後も使うことだろう。


ヴィダ・リドゥル…塵払剣の宝玉部分に元から宿っている魂。バハラムのことが気に入らない様子。


サタン(魔王)…アヴルと共にいた魔族。


レーディス…アヴル国王のペット。かつて世界を脅かした三黒龍の一種。その末裔である。


大剣黒龍…大剣に似た巨大な角を備える黒龍。四肢や翼は圧倒的筋力によって自重を支えている。

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