第61話 俺は師匠に弟子入りする
王都について数日考えた俺は行動に出た。
「ソゾンさん、俺に魔石を使った魔導具作りを教えてください」
ソゾンさんの鍛冶屋に乗り込み、接客が終わり一息ついたソゾンさんに頭を下げる。
俺に出来ること、俺がやりたいことを考えた結果だ。
帯同してくれたジークさんには既に目的を伝えてある。最近俺についてくるのはジークさんが多くなったな。
「ふむ。教えるのは構わんが、まずは簡単な鉱石の魔導具を作ったらどうじゃ」
「でも俺は、鉱石に魔法を込めることが出来ません」
「魔導具は鉱石だけ、魔石だけで完成するじゃない。石だけだと魔法の指向性を調節することが出来ない。焦る気持ちは分かるが、まずは安価な鉱石で魔導具作りを学んだ方が良い」
俺は焦ってると思われているのか。
確かに急な申し出ではあるが、俺なりに熟考した結果なんだ。
「分かりました。では俺に鉱石を使った魔導具作りを教えてください」
「うむ。フリーグ家の子供達は素直でやりやすい。うちの孫達もそれぐらい聞き分けてくれればいいんじゃ」
何かの琴線に触れたらしい。ちくちくと愚痴が零れてくる。お孫さん達すみません。ここはそうですねと受け流します。
「いかんいかん、こんなことをヤーナに聞かれたら怒られるだけじゃすまん。鉱石を用意して来るから、どんな魔導具がいいか考えておけ」
倉庫へ移動するソゾンさんを見ながら、魔導具について考える。
一応作りたいものを考えてはいたが、魔石を使った魔導具で考えていたからな。
鉱石だとどういう風に作ればいいか。
「ほれ、これが赤鉄鉱。黄銅鉱、水晶、黒曜石。アリーの練習用に置いてある石じゃ。これならいくら失敗しても構わんぞ」
ぼーっと考え事をしていた俺に次々と鉱石を見せてくる。形も大きさもバラバラ。これを削ったり磨いたりなどして魔導具に使用するそうだ。
「赤鉄鉱って赤くない石もあるんですね」
ソゾンさんに赤鉄鉱だと説明されたグループには赤の他に黒や銀の石がある。
「そうじゃな。でもこいつらをガリガリ削って粉末にすると分かる」
何やら白い板を取り出したソゾンさんは、その板に銀色の鉄鉱石を擦りつけた。
「どうじゃ、赤いじゃろ。赤鉄鉱と呼ばれる石は、こうやって擦って粉末にすると赤い色が出るんじゃ。この擦って出来た線を条痕と言う」
確かに板に擦って出来た線は赤い。それが赤鉄鉱だと判断する材料なんだな。
「ちなみに黄銅鉱に似た鉱石で黄鉄鉱がある。見分け方の一つは条痕じゃ。黄銅鉱は黒っぽい緑、黄鉄鉱は黒じゃ。しっかり条痕を覚えて、商人に騙されないように気を付けろ。買う前に条痕はさせてもらえ。させてもらえなかったら、その商人は騙そうとしていると思え」
なるほど。図書館に鉱石の図鑑あったかな。石の名前についている色と条痕の色が違うなんて覚えられるだろうか。
「姉さんも、これを覚えているんですか?」
「土魔法が使えると、別の方法で判別出来るんじゃ。アリーとマリーにはそっちを教えている。条痕は土魔法が使えない種族にとって必須の知識じゃぞ」
やっぱり魔法は便利だ。でも一言文句を言ってもいいよね。
「鉱石はどのような方法で名付けられたんでしょうか。名付け方を一貫してほしかったですね」
「さあ、誰が名付けたのかは知らんの。いろんな人が適当に付けた名前を統合したのか、神がこう呼べと神託を下したのか、もしかしたら転生者が異世界から持ち込んだ名前なのかもしれんな」
「なるほど、神や異世界からもたらされた物なら、今更命名法を統一なんて出来ませんよね」
なんか今、とんでもないことを言われた気がする。
どうして急に転生者だなんて。話の流れでぽろっと出ただけだろうか。それとも俺の知らない転生者のことをソゾンさんは知っているのか?
「転生者が知識を持ってくるって考え方は一般的なんですか?」
俺が転生者だとばらしてもいいから、ちょっとだけ踏み込んでみよう。
「その昔、魔石を利用する魔導具を開発したのが異世界からの転生者だったと言われている。他にも大型の帆船を建造したドワーフが転生者じゃったそうじゃ。ドワーフ族にとって転生者は割と身近な存在なんじゃよ」
新しい魔導具、新しい帆船、そういった新技術を転生者がもたらす。
「今の時代にも、異世界からの転生者が居るんでしょうか?」
「さあな。居るとは思うが名乗り出ない限り詮索しないのがドワーフ族の決まりじゃ。転生者が持つ特別な力が、人々の反感を買うこともあるからの」
なんだか話を聞いていたら、ソゾンさんも転生者じゃないかって思ってしまう。でも詮索をしてはいけないんだな。
俺が転生者だと名乗り出たら、ソゾンさんも明かしてくれるんだろうか。
「そんなことよりもどんな魔導具を作るのか考えたのか。ずっと喋っているとあっという間に夜になってしまうぞ」
そうだった。色々疑問が湧き出て来て本題から逸れてしまった。
俺はソゾンさんにどんな魔導具を作りたいか説明する。
「それなら鉱石を何個か使って、温度を上げる役割と温度を維持する役割を持たせた方が、温度を一定に保てるだろうな。素材には熱伝導率が高い銅を使った方がいいか。また面白そうな物を考えたな」
ソゾンさんがワクワクしている。
夏休みの自由研究を手伝っている父親みたいだ。だいたい子供より大人の方が本気になるよね。




