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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第2章 俺は魔法について考察する
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第58話 俺は来客の話に介入する

 爺さんに呼ばれて応接室に来たが、怒鳴り声が聞こえる室内に入るのは気が引ける。


 俺が戸惑っていると、母さんが先陣を切ってくれた。ありがたい。

 母さんの後に俺、ヤーナさんの順で入室する。


 俺達が入っても怒声は相変わらず続いている。

 それに立ち向かっているのは爺さんとその次男、つまり俺の伯父さん、それに使用人と護衛が多数。わりと多勢だな。

 爺さんは黙ってソファーに座り、聞き流しているようだ。隣に座る伯父さんが怒声に反論するよう経緯を淡々と説明している。


 反対側のソファーに座っているのは領主の部下と宿屋の主人。ソファーの後ろには護衛が立っている。


 さっきから声を荒げているのは部下の方。上司から色々言われてきたんだろう、大変だな。


「お義父様。出て行ってもいいですか?」


 入室したこちらに気付いた様子も無く話し続けられる事に痺れを切らした母さんが文句を言う。少し怒ってますね。母さんまで冷静さを失うと大変なことになるから止めて欲しい。


「ああ、リリーさんすまないね。そちらの方が気付いて謝るまで待っていたんだが。謝罪するつもりは無いようだから、退室して頂いて結構」


 黙って話を聞いていた爺さんが、俺達に退室を促す。冷静に笑顔を作ろうとしているが怒りの感情が漏れ出している。


「ちょっと待ってくれ。被害者だと紹介もされずにそれはないだろう。謝罪の意志はあると何度も伝えたはずだ」


「被害者二人の容姿は既に息子から伝えてある。遅れて入室して来るともな。入室した彼らが貴方の視界にも映った筈だ。彼らが来たら直ぐに謝ると言っていたではないか。しかし被害者が入室しても、紹介してくださいとか、謝罪させてくださいとか、被害者を気遣った言葉を言わず自分達の主張ばかりする。そういう態度なら話をする必要はない、ということだ」


 異議を唱える領主の部下に、爺さんが抑えることなく怒りをぶつける。我慢していた分、堰を切ったように喋り倒しているな。


 このままにしておいてもいいんだけど、平行線のまま時間だけが過ぎていくだろう。

 ヤーナさんも困った顔をしているし、ちょっとだけ介入しよう。


 ソファーに近寄り、爺さんの隣に座る。爺さんの反対側には伯父さんだ。


「なにかご用でしょうか?」


 皆が俺に注目して喋るのを止めた所で、ずっと黙っている宿屋の主人に向けて発言する。

 爺さんの向かいに領主の部下、伯父さんの向かいに宿屋の主人。俺から一番離れて座っているのが宿屋の主人だ。


「我が主から伝言だ。領地で起こった事件について謝罪する。よし、これでいいな。謝罪は済んだからこちらの話を聞いてもらおう」


 領主の部下は自分勝手な人だな。ちらっとこっちを見ただけでメモを見ながら謝罪して、頭も下げなかった。嫌々来たのは分かるけど、仕事としてそれはどうなのか。


「俺は領主から伝言ではなく、そちらの御主人から謝罪がほしいのですが。貴方の宿が予約を取り下げなければ我々は宿を変えず、犯罪被害を受けずに済んだわけですよね」


「こちらとしも犯罪者に騙された立場です。同じ被害者なのです。被害者同士で頭を下げる意味は無いでしょう」


 黙っていた宿屋の主人が答えてくれた。領主の部下は嫌そうな反応を見せる。話されるのを嫌がっている感じか。


「どういう風に騙されたのか教えてください」


「フリーグ家の使いの者だと言う人間が宿に来て、泊まる予定の客がその日に街へ到着しなくなったと伝えて来たんです」


「それで、はいそうですかと了承したんですか?」


「そう言われたんだから確認しようが無いでしょう」


「その日に到着しなくなったと言われたんですよね。では次の日に改めて部屋を用意した方が良いのかとか、数日後に来るのかもう来ないのかとか、気にならなかったんでしょうか」


「確認する前にその使いの者が出て行ったと聞いています」


「ギースバッハにはフリーグ家がアイスクリーム屋を出店していますよね。その店に確認しに行くなり、冒険者ギルドを通してヴルツェルに確認するなり出来たと思いますが」


「我々は日々多くのお客様に対応します。1人1人の解約理由にそこまで踏み込んで対応する時間がありません」


「なるほど。貴方がフリーグ家の事をどうでもいいと考えていると、よく分かりました。謝罪をする意志も無いようなので、これで失礼しますね」


 そういってソファーを飛び降りる俺に、領主の部下が声を荒げる。


「我が領主の謝罪では不満だというのか」


「何をそんなに怒っているんでしょう。貴方たちは何をしにここに来たんですか?」


「我々は輸送隊の宿泊拠点を移そうとしているフリーグ家に苦情を言いに来たんだ。我が領主とフリーグ家は長い間信頼関係を築いてきた。この程度の事件でその関係が崩れることをこちらは望んでいない」


「宿屋の御主人もそういう考えですか?」


「はい、昔からのお得意様ですので、これからもと考えています。決してどうでもよいとは思っていません」


 領主の部下と比べて、宿屋の主人は落ち着いている。ここで議論しても意味がないでしょとでも考えていそうな態度だ。爺さんが怒っているのはそういう所だと思うんだが。


「そうですか。大切な客だと思っているなら今後はしっかりと確認した方が良いですよ。頑張って築いた信頼関係も、崩れるのはあっという間ですからね」


「ではこれからは出来る限り確認するように改善しましょう。そうすることでこれからの関係も継続して頂けると言うことでよろしいですね」


「それを決めるのは俺じゃありません。少なくとも俺は貴方達を信用できません。貴方達の態度を見て、貴方達も犯罪にかかわっていたんじゃないかとすら思ってしまいます」


「そういうことだ。こんな小さな子供を含めて、我々は貴方達を信頼出来なくなった。何を言われても今後の方針は変わらん」


 爺さんが話の主導権を握ってくれた。領主の部下が更に発言しているが、宿屋の主人はソファーに深く腰掛け黙り込んでしまった。

 この2人は仲が悪いのかな。もうちょっとお互いが協力し合わないと上手く行きっこない。人選ミスだね。


 大声を聴きながら俺はソファーから離れ、そっと部屋を出る。後は爺さんが上手くやるだろう。

 これ以上めんどくさい話に巻き込まれるのはごめんだ。さっさと温室の方に行って、講習会に参加しよう。

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