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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第2章 俺は魔法について考察する
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第57話 俺はクロエさんに魅了される

 温室建設が終わった翌日、クロエさんに案内されてゆっくりとヴルツェルの市街を見て回った。

 大きな市場には朝から多くの店が開かれ、その日に収穫された作物を販売している。


 クロエさん曰く、半分以上はフリーグ家で働く人の店らしい。市場のいたるところに店が散っているそうだ。

 1か所に大きな店を建てた方が集客していいんじゃないか?


「この市場は小さく区画整理されていて、出せる店の大きさは決まっているんですよ。市場の外に大きな店を建てるよりは、多少客が分散しても市場内にというのがデニス様の判断です。その方が市場全体も活気が出ますからね」


 なるほど、人の流れを市場から遠ざけたくなかったんだな。


「出店しているのはその作物を育てている人達です。自分が作った物を自分で売る。買いに来る客の反応を直接感じるのは大事なことだとも仰ってます」


 それともう一つ、と言ってクロエさんは声を落とした。


「実は出店している人達で競わせているんです。売上によって来年度の店の位置が変わるんです。皆には適当に選んで場所を決めていると伝えているんで、内緒ですよ」


 可愛い。内緒ですよって言いながら両手の人差し指で口元にバッテンを作る仕草。可愛いです。


 みんな競わされてることなんて分かってると思いますよ、なんて野暮なツッコミはしません。


 ぐるっと市場全体を見回った後は、クロエさんが育てている畑を見せてもらった。

 収穫期はまだらしく青々としたトマトがずらりと並んでいる。

 結構な耕作面積がある。これを1人で担当しているなんて凄い。


「毎年1種類の作物しか育てていませんから、体を動かすだけなので楽ですよ」


 何種類も同時に育てると、別の事を同時に考えないといけないから大変だってことか。


「クロエさんは温室を使わないんですか?」


「興味はあるのですが、今回は農業を何十年もやっている3家族とデニス様の長男家族が1棟ずつ使用すると言っていました。今日の午後からソゾンさんが魔導具の使用法について講習会を開くそうなので、私も参加してきます。私もいずれは温室を使ってみたいですから」


 高価な温室だから爺さんも慎重になってるんだな。上手く行ったらどんどん温室を増やすんだろうか。


「早く温室を使わせてもらえるようになるといいですね」


「はい。しっかり勉強していつでも使えるように備えます」


 ふんすと鼻息を荒くして、力こぶを見せてくる。さっきから仕草がいちいち可愛い。また自制心が無くなりそうだからちょっと怖いぞ。


「ねえクロエ。私のスイカ達はまだ食べられないかな」


 可愛いクロエさんを眺めていると、姉さんが大声で呼びつけて来た。クロエさんは俺から離れて行ったがちょっとほっとしている。


 クロエさんが使っている畑の隣には姉さんの小さな畑がある。姉さんが居ない時はクロエさんが管理している畑だ。


 去年はここで南瓜を育てていた。誕生祭でも活躍したカボチ君はヴルツェル出身だ。

 今年は西瓜か。ウリ科に拘っているのかな。それなら来年は胡瓜か甜瓜かもしれない。


 スイカの収穫はもう少し先で、この滞在中には間に合わないだろうとクロエさんは判断した。

 残念だ。収穫したらぜひ王都に送ってほしい。




 昼食を食べに帰り、俺もソゾンさんの魔導具講習会に参加しようとしていた頃、爺さんに会わせろと客がやって来た。


 誘拐事件が起こった街を治める領主の部下と、俺達が泊まるはずだった宿屋の主人だそうだ。

 事件に対して謝罪に来た、という態度ではない。どちらかというと怒っている様子だ。


 何の用で来たのか多少の興味があるが、俺はクロエさんとの時間を優先するぞ。この滞在中にもっと仲良くなるのだ。


 講習会は温室で行われる。ソゾンさんや参加する人達と一緒にワクワクしながら玄関に向かった。


「ゲオルグ、すまない。儂と一緒に客に会ってくれ」


 外に出ようとした俺は爺さんに引き留められてしまった。


「事件の被害者に謝罪もしないような奴らと話すことはない、と言って追い出そうとしたんだ。そしたら謝罪するから会わせて欲しいと言うものでな。出かけようとしている所で申し訳ないが、少し顔を出してくれないか?」


 ええ、めんどくさいんだが。


「ヤーナさんにも声を掛けて、準備をしてもらっている。ゲオルグ頼むよ」


「儂からも頼む。儂はこれから温室に行かねばならん。儂の代わりにヤーナを助けてやってくれ」


 ソゾンさんに頭を下げられたら仕方ない。

 確かにヤーナさんを1人で行かせるのは良くないかな。


 俺が謝罪を受けると伝えると、心配した母さんが一緒についてくることになった。

 俺も私も、とどんどん参加者が増えそうだったが断った。

 あんまり大勢で押しかけても相手を委縮させるだけだからな。俺はその人達に怒りを覚えてないから威嚇する必要もない。


 先に応接室へ行くと言った爺さんと別れて、ヤーナさんを迎えに行った。

 ヤーナさんは外出せずに午後はゆっくりするつもりだったようだ。


 ヤーナさんと合流して応接室に向かう。

 応接室の手前で控えていたメイドさんに挨拶をして、ノックをしようと扉に近づいた時。


「我々は事件に何も関係していない。なのにどうして今後、輸送隊が街に泊まらないという話になるんだ」


 男性の怒鳴り声が聞こえた。


 入っていいのかな。メイドさんをちらっと見ると、どうぞ中へ、というふうな顔をしている。

 入りたくないんだけどなぁ。爺さんの頼みなんか引き受けるんじゃなかった。

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