第54話 俺は誘拐犯に伝えた嘘を明かす
「説明しよう。ルバーブの葉や根を食べると、お腹を下してしまうのだ」
ぽかんとしている姉さんにルバーブについて説明する。
「可食部分は葉柄なんだけど、生で食べたら酸味と独特な香りで嫌がる人も多いんだって。砂糖で煮詰めてジャムやソースにして食べるらしいよ」
俺から情報を得た奴らも、一口食べて拒絶するんじゃないかな。
「へえ、よく知ってたね」
「グリューンでマチューさんに会った時に聞いてたんだ。エルフ族では下剤として用いることもあるらいしよ」
「じゃあ薬として売り出せばいいんじゃない?」
「大量に消費するような薬じゃないから、量産しても売れないんじゃないかな」
前世から通して下剤って使ったことない。必要な人が限られる薬だと思う。
だいたいこの世界では魔法でなんとか出来そうだけど。
「いたずらに使えそうだね」
姉さんが悪い顔をしている。ここにも犯人がいたか。
「割と独特な臭いがするらしいから、口に含む前に異変に気付くんじゃないかな」
「そっか。じゃあゲオルグはわざと使いづらい植物を教えたんだね」
ささっと話題をすり替えられた。悪戯に使っちゃだめだよ。
「ルバーブは食べたことないからクロエさんに育ててもらおうと思ってたんだ。事前に用意していないと、咄嗟にルバーブなんて思いつかないよ」
「クロエがお腹壊しちゃうよ」
「ちゃんと調理したら大丈夫だから。個人用にちょっとだけ育てて、知らない人が食べないようにするし」
「なら気を付けるように私からも言っておくね」
俺もクロエさんに、姉さんが悪戯用に持って行かないよう注意を促しておこう。
姉さんにした説明をみんなにも行った。
母さんは感心し、父さんは自分の領地でも育てようかと考えていた。グリューンも標高が高い所だから育てられると思うけど。
「ああ、その植物なら革の鞣しに使えるぞ。金属の錆びとりにも効果があるから、育てたら根を少し分けてくれ」
ソゾンさんは俺よりもルバーブの事を良く知っていた。何をさせても達者な人だな。
目の色を変えた父さんとルバーブについて語り合うソゾンさんを見て、ヤーナさんが愚痴を溢した。
「何でも出来て凄いなって思ってるでしょ。家事は一切やらないし、会計はどんぶり勘定だし、子育てもしなかった。ゲオルグ君はあんな大人になっちゃだめよ」
人質にされかけたヤーナさんは心を乱すことなく、気丈に振る舞っている。
「それは、ヤーナさんに甘えているだけじゃないですか?」
縛られた時のヤーナさんの堂々とした態度を思い返し、俺もヤーナさんを頼もしく思ってしまう。
「あんなお爺さんに甘えられても嬉しくないから。1人でだって何も出来ないのよ。私が外泊して帰って来た時の絶望感を分かってもらえないのが歯がゆいわ」
ヤーナさんの印象が変わる勢いで愚痴を連発する。もしかしたら事件の影響で心が乱されているのかもな。
師匠もいいところがあるよ、と会話に割り込んできた姉さんに後は任せた。
お互いにソゾンさんの長所と短所を言い合っている。馬車内にソゾンさんも居るんだから、もうちょっと音量を落とした方がいいんじゃないかな。
「ねえアンナさん。ヤーナさんはすぐに助けなかったソゾンさんを怒ってるのかな。ソゾンさんだけ連れて行って、ヤーナさんは王都に返した方が良かったんじゃない?」
ヤーナさんの相手を姉さんに任せて、アンナさんに確認する。
「大丈夫ですよ、たまにああやって不満を発散してるんです。誘拐の件だって事前に色々と身を守る魔導具を渡されていたみたいですよ。だから、本気で嫌ってる訳じゃないです。ただ、人にはお勧めできない夫だというのも本音でしょう。私もソゾンさんみたいな夫はごめんです」
普段の優しいヤーナさんも、夫に厳しいヤーナさんも、どっちもヤーナさんということかな。
「アンナさんはどんな人がいいの?」
なんか聞いちゃいけない雰囲気をずっと感じていたけど、アンナさんは独身のはずだ。地球ではまだまだ若いアンナさんでも、この世界では少し行き遅れ気味。
「ゲオルグ様が大人になるまで待っているんですよ」
え、俺?
アンナさんは良い人だと思うけど急にそんなことを言われても困る。しかもまだ5歳だよ、大人って10年は先だよ。
「ふふふ、冗談ですよ。そんな困った顔をしないでください。今は良い人も居ませんし、アリー様が一人前になるまでは結婚なんて無理ですね」
冗談ですよと言って小悪魔的に微笑むアンナさんが素敵すぎる。
前世から計算して21歳の俺だったら告白していたかもしれない。しかし今はまだ5歳だぞ、ちょっと落ち着け。
姉さんがアンナさんの様子を観察して仕草を真似ている。そういう部分の師匠はアンナさんなのか。大人に成長した姉さんに微笑まれたら、惚れてしまいそうだ。
「ゲオルグを貰ってくれてもいいのよ。アンナと結婚したら遠くへ行く心配も無いし、口出ししやすいし」
今から嫁姑問題を考えているらしい母さんが俺をアンナさんに推薦する。
その推薦理由はいかがなものかと思うが、街を出るまでの怒りを忘れてくれたようでほっとした。




