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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第2章 俺は魔法について考察する
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第53話 俺は事件の裏側を教えてもらう

「ゲオルグ、怖い思いをさせてすまなかった」


 誘拐されかけた日の夜が明け、早朝に街を出発した馬車の中で父さんに謝られた。

 その横で、母さんが凄い形相で父さんを睨んでいる。


「まあ首を突っ込んだのは俺だから、しょうがないよ」


 睨まれ続ける父さんが不憫に思い、ついフォローに回ってしまう。


「ヴルツェルに着いたらお義父様にもきちっと謝罪して貰いますからね」


 俺がフォローしようが母さんの怒りは全く収まらない。

 爺さんが悪いわけではないから、怒りをぶつけるのは可愛そうだ。

 ぶつけるなら俺を脅迫した犯人にと思うが、俺が目覚めた時には既に捕縛されたらしいから、もはや何かをする事は出来ない。




 実は今回の旅程で何かが起こるかもしれないと、父さんは事前に知らされていた。


「最近ヴルツェルから王都までの街道に不審な行動をしている者がおる。お前たちが王都からヴルツェルに来る日程を調べていたそうだ。どこかの誰かがお前たちにちょっかいを出すつもりだろう。馬車移動は止めて飛んで来た方が良いかもしれん」


 爺さんからそう言われたが、父さんは折角の家族旅行だからと強行した。

 ソゾンさんやヤーナさんを含め、飛べない人も居るからね。

 母さんには言わず、何かあったらジークさんとソゾンさんだけで対応しようと思っていたみたい。

 余計な心配をかけたくなかったそうだが、黙っている方が母さんも怒るよね。


 爺さんも各街の冒険者ギルドに対応を依頼したり、アイスクリーム屋の店員に注意を促したりと動いていたらしいが、証拠もなく計画内容も分からないから後手に回ってしまったようだ。


 そして5日目の宿場街に着いたら、宿が変わったと見知らぬ人間が現れた。

 事情を知っている3人は、ここだと察したらしい。


 実は俺もなんか変だなと思っていた。

 それまでの道中で泊まった宿では、どの宿でも態々責任者が父さんに挨拶していた。

 爺さんの名前で予約していたらしく、いつもお世話になっていますと挨拶に来たんだ。爺さんの影響力が凄いって話。

 それなのにこの街では宿が変わり、しかも宿屋の関係者が直接謝罪に来ない。怪しいよね?


「あの関係者とか言う人、ちょっと怪しい。宿が変わるなんてありえるのかしら」


 俺と同じ理由で怪しんだ母さんに、慌てて父さんが口を滑らす。


「そ、そうだな。うん、怪しい。もしかしたら有名な職人であるソゾンさんに何かしようとしているんじゃ」


 無理矢理ソゾンさんが狙われていることにしようとしている口振りだった。


「ならあの不審者を捕らえて口を割らせましょう」


 目の座った母さんが腕をぶん回して馬車から出ようとする。


「待って待って、どうせあいつは下っ端だから。ちょっと泳がせて様子を見よう」


「それで子供達に危険が迫ったらどうするのよ」


 止められてイラつく母さんをなんとか宥めようとしているが、猛獣使いでも無理だろうね。


「まあ今捕まえても、こちらが暴行の罪に問われるかもしれん。少し様子を見るのがええじゃろう」


 標的かもしれないと指摘されたソゾンさんも、様子見に賛成を示した。

 ソゾンさんは喋りながら、馬車内に置いてあるアイテムボックスを開けてごそごそしている。ヴルツェルで魔導具を取り出すためにソゾンさんが持参した物だ。何をやっているんだろう。


「なにかあった時は儂も戦えるから大丈夫じゃ」


 そういって自らに色々な魔導具を装備していった。成金がごてごての装飾品を身に着けているようで可笑しな姿だった。


 ソゾンさんの変貌ぶりに毒気を抜かれたのか、少し落ち着きを取り戻した母さんはマルテとアンナさんに指示を出していた。


 街に入ってから宿までは特に変わったことは無かった。


 宿に入り、全員に個室が与えられた。小さな子供にまで個室を宛てがうのは不自然だ。

 母さんがぴりぴりと神経質に反応していた。父さんが無料だからと説得して、なんとか感情は抑えられていたけど。

 男性と女性で階が分けられている宿の様で、男性が2階の部屋、女性が3階の部屋となった。


 宿屋の主人に案内され部屋に向かう。俺はソゾンさんの隣に案内された。俺の反対側に父さんたちの部屋が並んでいる。


 もっとも階段近くの部屋に割り当てられたのがソゾンさん。3階ではヤーナさんが階段側。

 階段側の部屋の作りが変だとソゾンさんが察したらしい。そこで何かあるとしたらソゾンさんかヤーナさんだと思ったそうだ。

 部屋割りに意味があったなんて俺は気付けなかった。


 夕食後、俺は本当に食べ過ぎて早めに部屋へ籠ったんだが、父さんとソゾンさんは食べ過ぎたふりをしていたらしい。

 父さんは部屋の窓から飛行魔法でこっそり抜け出し、冒険者ギルド経由で爺さんと連絡を取ったそうだ。

 ソゾンさんも魔導具を使って部屋の壁や天井を調べ、細工をしていたらしい。


 そしてみんなが寝ている間に犯人がヤーナさんの部屋に忍び込み、ヤーナさんを縛って1階にある従業員の部屋へと連れて行った。階段側から部屋へと侵入する隠し扉が有ったらしい。

 俺とマリー以外は誰も寝ずに監視をしていたと聞いて驚いた。姉さんも何か感じ取っていたようだ。


 俺から情報を聞き出したナイフの誘拐犯が宿屋から出ると、ジークさんが尾行。連絡を受けた爺さんが手配した冒険者や警備隊の人と合流し、誘拐犯が街を出ようとしたところを捕らえた。

 犯人達の拠点まで尾行しようと考えていたようだが、暗い街道で追跡するのは難しいと判断して捕縛したようだ。捕縛後は警備隊で取り調べを受けている。


 誘拐犯の1人が出て行ってしばらくすると、1台の馬車が到着した。

 馬車から降りて来た2人が太った誘拐犯と合流し、捕らえた俺達の部屋に近づいたところで父さん達が登場。

 父さんと母さんとソゾンさんの3人で、誘拐犯を捕縛したようだ。

 俺は物音で起きることなく眠っていたけど。


 馬車に残っていた者は争う音で失敗に気付き馬車を走らせた。こっちはアンナさんを含めた数人が追跡し、街から出ようとしたところで捕らえられた。


 太った誘拐犯は案の定宿屋の主人だった。脅されて協力していたんだ、と訴えているらしいが、どうだろうね。従業員も全員街の警備隊に連れて行かれた。


 事件後に話を聞いた限りでは主犯は分かっていない。捕縛された誘拐犯は見知らぬ男に依頼されただけだと言っているようだ。


 俺は警備隊などから話を聞かれることはなかった。

 ヤーナさんが全部見聞きしていたし、ソゾンさんがヤーナさんに持たせていた魔導具を使って盗聴し、それをみんなで聞いていたようだ。

 姉さんが開発中の音声を拾う魔導具と、冒険者ギルドでも使われている通信用魔導具を応用しているらしい。


 誘拐犯がルバーブの事をメモした紙だが、誰も持っておらず、宿屋中を探しても出てこなかったそうだ。

 外に出たナイフの誘拐犯が誰かに渡したか、もしくは何処かに隠したのかと思ったが、街を出るまで怪しい行動はしていなかったとジークさんが証言している。

 何らかの方法でメモ紙を依頼主に渡したんだと思うが、誘拐犯が口を割らない限りどうしようもない。


「ゲオルグの考えた新しい作物が他の誰かに利用されると思うと、嫌な気分だよ」


 姉さんが不快感を露わにしている。折角寝ずに起きていたのにマルテに止められて犯人確保出来なかったことも、怒りに影響していると思う。


「大丈夫だよ姉さん。与えた情報通りに調理すると下痢しちゃうからね」


 姉さんがキョトンとしている。我ながら気の利いた情報を渡せたと感心する。

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