第3話 俺は痛みを隠そうとする
寝返りの時期を無難に過ごし、ついにハイハイ出来るようになった。
これで移動出来る。何処まででも進んで行けるぞ。
まあ部屋からは出られないんだけど。
部屋から出ようと扉や窓に向かうと、見張ってる乳母に回収されるからな。
あ、そうそう。乳母さんの名前がマルテであることが判明した。
その他に乳兄弟がマリー、名前からして女の子だよね。それから姉がアリー、母がリリーだと思う。
じっと集中して聞いていれば、固有名詞は分かるんだな。会話に何回も出てくるから。
固有名詞以外は難しいな。自分で喋って、間違っていたら訂正してもらわないとダメだね。
文字は全く読めない。普段暮らしている部屋であんまり文字を見ないんだよなぁ。
時計とかカレンダーがあれば数字も学べそうだけど、それもない。地球と時間の流れが異なる可能性はあるけど。
まあ子供部屋はこざっぱりとした方がいいのかね。子供は何でも口に入れるっていうから。
ん?どうしたの、マリー。何かして遊ぶ?
マリーも俺に慣れたのか泣かなくなった。
でもたまに体調を崩すんだよね。体調崩すと治るまで隔離される。今日は久しぶりに帰って来たから嬉しそうだ。
俺は体調崩さないよ。治癒魔法のお陰でいつも元気。
さて、何をして遊ぼうかな。
おもちゃとかないんだよね。積み木でもあればいいんだけど。ハイハイで追いかけっことかする?
はいはい、叩かない叩かない。
眼は危ない。何でも触ろうとしないで。
よし、そんなに触りたいなら俺は逃げる。マリーが追いついたら勝ち。追いつく前に向こうの壁に行けたら俺の勝ちね。
よーい、どん。
どうだ、俺のハイハイは。追いつけないだろ。腕だけじゃなく足も上手く使って推進力を得るのがミソだ。この速度で移動すると普通の子はきっと擦過傷になるぞ。勝手に治癒する俺には関係ないけどな。
タァッッチィ。
いえーい、俺の勝ち。
よいしょ、よいしょ。ハイハイって上手く方向転換出来ないよね。真後ろを向くのに時間がかかる。
旋回中もまだ追いつけないか。だいぶ差がついたみたいだな。
って、おいいい、動いてないじゃないか。
追いかけっこを理解してくれなかったんだな。もうちょっとゆっくり、付かず離れずを意識したら良かったのかも。
さて、マリーの元へ帰るか。ほんと、やることないな。
お、姉さんいらっしゃい。
今日はどんな魔法かな。
最近はどんどん器用になっていくよね。火と土を色んな形に出来るようになった。人型とか動物型とか。動物の詳しい種類まではわからないけど。土でブロックを作ってくれたら、積み木の代わりになるんだけどな。
手ぶらなところを見ると、土魔法じゃない。
「ゲオルグ」
名前を呼ばれたから姉さんの方を向く。
「あうう」
急に風が吹いて顔に当たる。思わず目を瞑って、声を出してしまった。
室内で風?これも魔法?
姉さんが笑っている。風が当たった時の俺の顔が面白かったのかな。
気に入ったみたいで風を連発してくる。目を開けられないんだけど。
マルテ、助けて。
乳母のマルテに向かってハイハイで逃げるぞ。
姉さんが逃げる俺の後ろから風を吹かせる。追い風となってハイハイのスピードが上がる。
ちょ、ちょっと速すぎる。次の手を出すのが間に合わない。
「ああうう」
手が出ず、手首、肘、肩とついて、転んでしまう。そのままゴロゴロと横になって回転しながら、マルテのところまで転がされた。
手首をついた時に捻ったかな、泣くほどじゃないけどちょっとだけ痛い。
痛いのが顔に出ていたのか、マルテが俺を抱き上げる。心配しているんだろうが何を言っているかわからない。
痛くないよ、大丈夫だよ、元気だよ。
満面の笑みで元気アピールをする。大丈夫だから姉さんを怒らないでね。
姉さんが近寄って来た。心配してくれたのかな。大丈夫、もう痛くないから。
姉さんの魔法技術は進歩しているみたいだけど、たまに力加減を間違える。その度に俺は怪我したり火傷したりするんだけど、俺は全力でフォローしている。
ちょっと火の勢いが強過ぎて、手に割と目立つ火傷をしたことがあった。マルテもその場に居たからすぐに見つかって、結構な騒ぎになっちゃったからな。多分怒られたんだろう、一時期姉さんがしょんぼりしてた。姉さんのそんな顔は見たくないから、俺は頑張っています。
どう?安心した?楽しかったアピールを受け取ってくれ。
理解してくれたのかマルテが降ろしてくれた。その後マルテは姉さんを呼んで、話を始めた。怒らずに魔法の調整方法を教えてね。
ふぅ、アピールも疲れるな。ちょっとゆっくりしよう。
どうしたのマリー。ちょっと疲れただけだから大丈夫だよ。
痛い痛い、叩かないでよ。だから眼はやめて。
「あうう」
これは危ない、マルテ助けて。姉さんよりも、自分の娘を叱ってくれ。