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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第13章
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第63話 俺はニコルさんに怒られに行く

「では、ソゾンさんの準備が済み次第、警備隊詰所に向かいます。ゲオルグ様、お気をつけて」


「うん、ありがとう。マリーも夜間飛行、気をつけてね」


 魔導具解析の依頼を聞いたソゾンさんが快諾してくれたため、予定通りマリーとは別行動となる。


 俺とルトガーさんはこれから診療所だ。ニコルさんと顔を合わすのは気が重いが、こればっかりは放置出来ないから仕方ない。




 まだ煌々としている診療所の入口の扉を潜ると、受付担当の看護師さんがホッとした様子で笑顔を向けて来た。


「すみません。イルヴァさんを迎えに来たんですけど」


「はい、お待ちしてました。特に、ニコル先生が……」


「ハハハ。やっぱり、怒ってます?」


「まあ、初診の患者さんが怯える程度には……」


 その程度が良くわからないけど、怒っているのは間違いないようだ。


「新しく頼み事をするのは、流石に止めた方がいいですよね?」


 一応念の為にカテリーナさんの診察を願い出ておくべきだろうと、父さんに言われているんだけど。


「ええっと……多分駄目だと思いますが、内容次第ではないかと」


 流石に看護師さんも苦笑していた。うん、俺もダメだと思ってるよ。


「では、こちらへ」


 看護師さんの誘導に従って、俺達は診療所の奥へ歩を向けた。


 向かった先は、院長室。ニコルさん専用の個室だ。


 看護師さんと共に中へ入る。ニコルさんは仕事机に齧り付いて何やら書き物をしていた。


「ニコル先生。ゲオルグ君達が戻りました」


「そう。それならさっさと退院してもらって」


 ニコルさんは机に向けていた目線を上げず、淡々と答えた。


「畏まりました。医療費は後程フリーグ家に請求する。それでよろしいですか?」


「ああ、いつものようによろしく」


 ふむ。静かに対応するニコルさんが不気味過ぎる。怒鳴り散らされるのは勿論嫌だが、こういう雰囲気も居心地が悪くて困る。


 父さんの頼み事を伝えるのは、やっぱり止めようかな……。


「それと、ゲオルグ君が『新しく』頼み事をしたいと」


 べキッ!


 ニコルさんの右手が、手元の羽根ペンを圧し折った。


「私は今は忙しいから、どうしてもと言うなら、後程書面で、お願い」


「はい!すみませんでした!」


 俺は秒速で頭を下げ、回れ右して院長室を出て行った。ふー、なんだあの威圧感は。抵抗する気が1ミリも起こらず、逃げる事だけしか考えられなかった。


「やっぱりダメでしたね。紙とペンは有りますけど、どうしますか?」


 看護師さんの優しい微笑みが心に染みる。お言葉に甘えて、書面に残しておこう。


「では私が書類を作りますので、坊ちゃまはその間にイルヴァさん達の退院準備をお願いします」


「はい、お願いします」


 ふぅ。ルトガーさんに任せておけばニコルさんを刺激するような文章にはならないだろう。書類でニコルさんを怒らせた時に責任を擦り付ける為では決してないのだ。




 ルトガーさんと別れて病室に入ると、最初に聞こえて来たのは穏やかな笑い声だった。


「あ、ゲオルグ様。ヘルミーナさんは見つかりましたか?」


 病室内に居たクロエさんが、入口に立つ俺に気づいた。


 その声に釣られて、複数の眼が俺を視界に捉えていく。


 それらの眼の主は食品管理部の面々。イルヴァさんとゲラルトさんのベッドを囲んで、皆で談笑していたようだ。


「お、おいゲオルグ!早くこれを外してくれ!」


 クロエさんに続いて食品管理部の面々が俺に声をかけてくる中、それらの声を掻き消す勢いで、ゲラルトさんの声が室内に拡散した。


 ゲラルトさんは魔植物によって口元から足先まで簀巻きにされていた筈だけど、今は口元を覆っていた魔植物が外されていた。


「申し訳ない。ゲラルトの口から直接事情を聞きたかったから、クロエ君に外してもらったんだ」


「口だけじゃなく、全部外してくれ!もう我慢の限界だぞ!」


 ゲラルトさんが冷や汗を垂らしながら、モジモジと身体を震わせている。どうやらトイレに行きたいらしい。何時間も、ずっと我慢していたのか。


「漏らしても大丈夫ですよ。その魔植物は排泄物を吸収してくれる便利な子なので」


 草木魔法を自由に使える人が居れば必要箇所を緩めて締め直す事が出来るけど、魔導具で操作するしかない俺やクロエさんでは細かい操作が出来ない。だから長時間拘束する時は漏らす事前提の仕様なのだ。


「クロエからもそれは聞いたけど!漏らしたくないんだよ!はやく!」


 苦悶の表情を浮かべるゲラルトさんが流石に可哀想になった。ゲラルトさんを捕縛した姉さんの許可は得てないけど、もういいだろう。


 魔導具を使って拘束を解くと、ゲラルトさんは看護師さんに連れられてノロノロと病室を出て行った。急ぎたいけど、走ると漏れてしまうのかも。


「単独行動してイルヴァ君を危険に晒した罰だ。ったくアイツは」


 眉間に寄った皺を手でほぐしながら、マルセスさんが愚痴を溢している。我慢したのは自分の意志なんだから、罰になるんだろうか?


「それで、ヘルミーナ君は?」


「あ、はい。無事見つかりましたが、色々と複雑でして。どこまで話して良いか」


「そうか。無事に見つかったのならそれでいい。話せるようになったら、本人から聞こう」


「ありがとうございます」


 他の人達も強く追求しては来なかった。ニコルさんの怒気に震えた俺には、皆の優しさがありがたい。

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