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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第13章
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第62話 俺は魔導具の解析を頼まれる

「まあ!アリーさんのお父様ですか!初めまして、いつもアリーさんから、お父様の楽しいお話を伺っています」


 病室内に居る人々をアレックスがカテリーナさんに紹介すると、カテリーナさんは父さんに対して強く反応した。


 俺が自己紹介した時は反応しなかったのに、と思い返したが、フリーグという家名も姉の話もしなかったんだから、弟だと気付けなくても仕方ないか。


「初めまして、カテリーナさん。アリーは秘密主義でして、残念ながらカテリーナさんの事は何も伺っていませんが」


「ふふふ。アリーさんは私との約束をちゃんと守っていてくれたんですね。嬉しいです」


 香炉から拡散する爽やかな香りと共に、病室に穏やかな空気が流れている。カテリーナさんもすっかり落ち着いたようだ。


「カテリーナさん、お水をどうぞ」


 どこからか水の入ったコップを持って来たアレックスが、左手にコップを摑んだまま、右手一本でカテリーナさんの体を起こした。


「ありがとう、アレックス」


 口元に運ばれたコップに口をつけるカテリーナさんを見て、俺は動揺してしまった。


 まず目に入るのはその頭部。髪が一本も生えていない。魔法を使えなくなった姉さんと一緒だ。


 それと、両眼を横断する一本の傷跡。恐らくカテリーナさんは、その傷によって両眼を失っている。視力を失った結果、カテリーナさんは嗅覚が敏感になったんだろうか。


 しかし、グレーテさんは『エルフの回復魔法も試した』と言っていたはず。回復魔法なら、魔力の方は兎も角、両眼の怪我は治せたんじゃなかろうか。姉さんだって回復魔法の魔導具は所持してるはずだけど、使わなかったのかな?


「ところでカテリーナさん。私達は貴女の身体を治す手助けをしたいと考えていますが、貴女は御自分の病態をどの程度理解していますか?」


 ゆっくりと水を口に含んで掠れた喉を潤し、再びベッドに横たわったカテリーナさんを、父さんが真面目な顔で見下ろしている。


「どの程度?恐らく全て理解していますよ。回復魔法では治らない事も、他人の魔力を吸わないと生き長らえない事も」


 カテリーナさんは取り乱す事なく、穏やかな口調で答えた。


「なるほど。他人の魔力を、吸っていたんですね?」


「魔導具を介して、ですけどね。高名なドワーフの先生に作っていただいた魔導具を使って、生命維持に必要な魔力を補充していました」


 ペラペラと内幕を話すカテリーナさんには、何か裏が有るんだろうか。それとも単に、何も考えていないのか。


「その魔力の出所はご存知ですか?」


「ええ。死罪を言い渡された極悪非道な犯罪者達の魔力です。私をこのような身体にした犯罪者の類が、私の命を救っている。面白い話だと思いませんか?」


 何が面白いのか、俺には全くわからなかった。


「さあどうでしょう。では、そのドワーフの先生とやらのお名前はご存知ですか?」


「いいえ。父から話を聞いただけで、お会いした事も有りません。詳しくは父に」


「なるほど。では、ドワーフの魔導具は何処に有りますか?」


「犯罪者から魔力を吸い取る魔導具の場所は知りませんが、私が寝ていたベッドが私に魔力を供給する魔導具ですよ。出来れば明日までに、私をベッドに帰して欲しいですね。でないと私は死んでしまいます」


 カテリーナさんが死を口にすると、アレックスは唇を噛みして項垂れた。


「残念ながら貴女を地下に帰す事は出来ないので、早急にベッドをこちらへ運びましょう。因みにここは警備隊詰所の医療施設です。貴女はここで暫く生活する事になります」


「そうですか。出来るだけ長く生きられるよう、皆さんよろしくお願いしますね」


 カテリーナさんは朗らかな声で挨拶したが、あの取り乱した姿を見ている医者と看護師達は、中途半端な返事していた。




「では警備隊で例のベッドを運ぶように、隊長と話して来ます」


 カテリーナさんのお世話の仕方を教えるアレックスと医者達を残して病室を出ると、先導役兼監視役を務めた若い警備隊員が早速動き始める。


「うん。よろしく。ついでに、犯罪者から魔力を吸い取る魔導具の事も司祭から聞き取るように伝えて欲しい」


 父さんの意見を了承して、若い警備隊員は駆け出した。


「こっちもやれる事をやろう。ゲオルグ、彼らが使っていた魔導具の解析は出来るか?」


「多分出来ると思うけど、出来れば熟練の専門家にも見てもらいたいかな」


 率直な意見を返すと、そのとおりだな、と父さんは頷いた。


「熟練の専門家となると、やっぱりソゾンさんだな。ルトガー、呼びに行ってくれるか?」


「かしこまりました。坊ちゃま、私が居ない間に無理をなさらないように」


「お前が居て、こうなったんだろうが……」


 顰めっ面で苦言を呈する父さんに、俺は1つの懸念材料を伝えなければならなかった。これ以上待たせると、本気で怒られそうだから。


「父さん、実はニコルさんの診療所に……」




「では、先にソゾンさんの鍛冶屋へ。そこでソゾンさんの了承を得られたら、マリーがソゾンさんを運ぶ。で、俺はルトガーさんと一緒にニコルさんの診療所へ行って、怒られて来ます」


「うむ。ニコル先生とは今後も良い関係を続けたいから、よろしくな。俺はアレックスの話が終わったら、アレックスを連れて教会に戻る。集合場所はこの医療施設にしよう。では、またな」


 呆れ顔の父さんと別れて、俺達3人は真っ暗な夜空へ飛び立った。

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