表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第13章
894/907

第59話 俺は商会長に凄まれる

「アムレット商会長の想像通り、休怠香を大量に買ってくれたその人が、手紙の依頼主だった」


 意を決したドゥフト商会の若旦那が、ぽつりぽつりと言葉を落とした。


「うちも普段は、手紙の配達なんて仕事は請け負っていない。でも、その仕事は報酬が良かったし、常連からの依頼だったから引き受けて。アレックスに、手紙を持って行かせたんだ」


「手紙の内容については確認していますか?」


 話が途切れたのを見て、ダミアンさんが質問を挟む。


「勿論手紙の中は見ていないし、どんな内容なのかは聞いていない。その目的も。確認したのは、届け相手の名前と、届け先の宿名だけだ」


「アレックスさん。君はどうですか?」


 ダミアンさんに話を振られたアレックスは、未だに若旦那の上着を握り締めている。


「私も、手紙の内容は知りません。ただ……」


「ただ?」


 アレックスは言い辛そうに若旦那を見上げた。


「構わないから、話しなさい」


 アレックスに微笑みかけた若旦那の表情は、この人に出会って初めて見る穏やかな顔だった。


「手紙を渡した相手がその場で開封して中身を確認した後、『ラッツは元気か?』と聞かれたのですが、『分かりません』と答えました。その後少し王都の事を聞かれたので、暫く会話をして帰りました」


「ラッツ、とは人名ですか?」


「分かりません。手紙の依頼主の名ではありませんし、私の知り合いには居ません」


「ではその、依頼主の名を教えて下さい」


「その人の名は『カサンドラ』といいます」


「どのような人物ですか?」


「その人は、薄い黒色の長い髪を、綺麗な髪留めで束ねています。だぼっとした服装を好んでいる少しふくよかな女性で、年齢は40歳前後じゃないかと……」


「なるほど。その人物の身元確認を急い「ダミアン、ちょっと失礼」」


 いつの間にか、父さんがダミアンさんの隣に並んで、アレックスと対面している。さっきまで部屋の隅でルトガーさんと密談していたのに。


「実はその名前と風貌に心当たりが有るんだけどね。もしかして、その女性は西方伯邸で働いている人じゃないかな?」


 父さんの言葉を聞いて、ダミアンさんはぎょっと目を見開いた。


「いえ、職場は料理店です。注文されたお香を何度か配達に行ってますが、西方伯邸からはかなり遠い位置に有ります」


「いや」


 それまでアレックスに会話の主導権を渡していた若旦那が、アレックスの言葉を否定した。


「昔、王都の西方伯亭で働いていたとは聞いた事が有る。数年前にそこを辞めたみたいだが」


「なるほどね。それで得心したよ」


「何がですか?」


 満足そうに独りで頷いている父さんに、ダミアンさんが胡乱な目を向ける。


「エーデが口走った『ラッツ』の正体さ。後でこっそり教えるから」


「はあ。まあ私も話の流れで正体の予想は付きましたが。では、その『カサンドラ』が休怠香を買い占めて手紙の配達を依頼した、で間違い無いですね」


「ああ、間違い無い」


 若旦那に続いて、アレックスもその内容を肯定した。


「では後程その料理店へも行く事にしまして……はぁ、まだまだ事件解決には至りそうにないですね」


 ダミアンさんが力無い笑顔を父さんに向けたが、


「なーに。そろそろ黒幕を引っ張り出せるだろうよ」


 その父さんは満足気な笑みを返していた。


 話を纏めると、アムレット商会には地下で捕まえた男が、ドゥフト商会にはカサンドラなる女性が、それぞれ接触していた。別々の人間を差し向けるとは、黒幕さんは随分と慎重派だな。


「おい、話が終わったのなら、さっさと私達を解放しろ」


 アムレットの商会長がそろそろ我慢の限界のようだ。


「あー、そうですね。続きはアムレット商会の方で」


「なぜだ!店は関係無いだろ!」


「ええっと、先程ゲオルグ君が話してくれた中に、ローマンさんが登場しましたよね?」


 イルヴァさんの記憶を話した時だ。アムレット商会の副商会長に命ぜられて、小間使いをさせられていた。


「ゲオルグ君が地下で捕まえたあの人物を、ローマンさんがどこかで見ているかもしれません。話を聞いた後、教会地区の警備隊詰所にご同行頂いて、面通しをしたいと思っています」


「なるほどな。しかし、ローマンはもう帰宅している時間だ」


「では、ローマンさんの自宅まで向かいましょう。商会長さんも、出来ればご一緒に」


「分かった。私もアイツに言いたい事がある。しかしヘルミーナは家に帰させて貰うぞ」


「はい。しかし、私の部下を護衛として付けますよ」


 意外と素直に、商会長はダミアンさんに従った。ヘルミーナさんの帰宅を優先した結果だろうか。


「ゲオルグくん、あの……」


 足早に部屋を出ようとする商会長に背中を押されていたヘルミーナさんが、俺の近くで無理矢理足を止めた。


「その……色々と、ありがとう」


「うん、元気で良かった。先輩達には俺から連絡しておくから、今日はゆっくり休んでね」


俺は精一杯の笑顔を返した。マリーが何も行って来なかったから、変な顔にはなっていなかったはず。


「はい……」


「じゃ、またあし「おい!私の可愛い娘を泣かせるなよ!」」


 凄む商会長に守られながら、ヘルミーナさんは教会を出て行った。


 出て行く時にポロポロと涙を落としていたが、アレは多分、俺のせいじゃないはずだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ