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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第13章
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第58話 俺は別の話を思い出す

「ゲオルグ、それもいいけど、それじゃないやつ」


 皆の前でひと通り話し終えて、ドゥフト商会の若旦那に皆の視線が集まっている中、父さんがこっそり耳打ちして来た。


 休怠香を買い占めた常連客について、若旦那はまだ何も喋っていない。


「え?どれのこと?」


「ほら、アリーが探ってた、手紙の」


「え?手紙?」


 ああ、そういえば、姉さんが幸甚旅店の従業員から聞いた話が有った。幸甚旅店に止まっていたエーデに手紙を届けた人物の話。


 今日は色々有り過ぎて、すっかり忘れていた。頭から抜け落ちていたから、誰が手紙を運んだのかを確定するには至っていないんだけど。


「当たりは付けてあるんだろ?」


「まあ、おおよそは」


「ならよし!」


 急に大声を上げた父さんか、俺の肩をポンポンと叩いて側から離れた。


 父さんが大声を上げるものだから、若旦那に向いていた皆の視線がまた俺に刺さった。その光景を見て、ずっと口を噤んでいた若旦那はホッと胸を撫で下ろしている。若旦那の隣りにいるアレックスも同様だ。


「なにか?」


 ダミアンさんが疑問を口にする。出来れば俺じゃなく、父さんに聞いて欲しいんだけど、父さんは離れた位置でルトガーさんと何やら密談している。


「ええっとですね。幸甚旅店に止まっていたエーデについての話なんですけどね」


「はあ。そっちも大事な話では有りますが……どうしましたか?お嬢さん」


 経験豊富なダミアンさんは、俺が切り出した話に動揺した人物を、目聡く捉えていた。


「い、いえ。なんでも……」


 アレックスは慌てて首を横に振ったが、その行動は誰の目にも怪しく映ったはずだ。


「アレックス。君は何も悪い事をしていないんだから、素直に話して。君は数日前、誰かに頼まれて、幸甚旅店に手紙を運んだよね?」


「い、いえ。運んでいません」


 そう答えたアレックスは、若旦那の上着に右手を伸ばして強く握り締めた。


「ドゥフト商会の子が手紙を持って来た、と幸甚旅店の従業員が証言しているから、顔を合わせれば直ぐに君だと判明するよ。それでも、違うと言い張る?」


 実際はドゥフト商会だと明言していないが、まあ、概ねアレックスで間違いないだろう。うん、たぶん。


「でも……」


 アレックスは右手の先に視線を送る。視線の先の若旦那は、じっと口を閉ざしている。


「いったい何の話だ。私達に関係の無い話は、私達が帰ってからにしてくれないか」


 僅かな時間会話の中心から外れたアムレット商会の商会長が、痺れを切らして口を挟む。しかし、残念ながら無関係では無いのだ。


「商会長にはまだお話出来ていませんでしたが、アムレットの副商会長がこの手紙の件に関わっているんです」


 俺に代わってダミアンさんが商会長に事情を説明した。


 エーデが学内で俺を攻撃して来た件。エーデが泊まっていた幸甚旅店に指示書となる手紙が2通届られた話。その手紙の2通目を届けたのが、アムレット商会で働く丁稚だった事。


 商会長は南部から王都に今日到着したばかりだから、これらについては全く知らないようだった。


「手紙を配達する業務なんて、私の店では請け負ってないぞ!誰がそんな仕事を許可したんだ!」


 一時期平穏だった商会長の心は、再び荒ぶり始めている。


「彼は否定していましたが、恐らく副商会長でしょう。誰かに依頼されて丁稚に手紙を届けさせた。まさか、副商会長自ら指示書を書き示した、とは思えませんが」


「ふん!あの馬鹿にそんな度胸も頭も無いわ!おおかたそれも、西の連中の口車に乗った結果だろう。我が弟ながら短慮過ぎる!」


「まあまあ商会長、少し落ち着かれて」


「おい!ドゥフトの息子!さっさとその手紙の依頼主を吐け!おおかた、手紙の依頼主と香を買った常連客は同一人物なんだろ!?」


 アムレットの商会長が狂犬の勢いで噛み付いたが、ドゥフトの若旦那は無表情と無言を貫いている。


「ヘルミーナさんは、何か知ってるんじゃない?」


「なんだと!?」


 俺がヘルミーナさんに話を振ると、商会長が過敏に反応した。


「おい小僧。うちの可愛い娘がそんなくだらない犯罪に関与してるとでも言いたいのか!?貴族の子供だろうが、許さんぞ!」


 商会長の全身から憤怒のオーラが噴き出している、ように見える。それくらい、今の商会長には迫力が有った。


「ははは、すみません。今日の朝イチに学校で顔を合わせた時、ヘルミーナさんの態度が少し余所余所しかったのを思い出して、何か隠しているのかと想像したんです。丁度昨日、父さんとダミアンさんがそちらの副商会長さんに話を聞きに行っていたので、その件で何か知ってるんじゃないかなと」


「なんだと!?」


 俺に向けていた威圧感を消した商会長が、視線を愛娘へ向ける。


「ヘルミーナ。これ以上私を心配させないで欲しい」


「……ごめんなさいお父様。叔父様に口止めされて……実は最近、ガラの悪い人達が叔父様に会いに来ていて、何を話していたから分からないんどけど……」


「どんな奴らかな?もし名前や人相が分かるのなら、全て話しておくれ」


 ドゥフト商会の若旦那や俺に向けていた言葉使いとは真逆な穏やかさで質問する商会長は、少し気味が悪かった。


「名前は、分かりません。でも、ひとりだけ、その人物の居場所が分かります」


「なるほど。そいつは、どこに居るのかな?」


「その人は教会の地下で私達を襲って、ゲオルグ君の魔法で捕縛されました」


 ああ、あいつか!


「その者は今、この地区を担当する警備隊の詰所に運ばれて取り調べを受けている筈ですね。絶対に逃さないよう、連絡しておきましょう」


 ダミアンさんが短い指示を出すと、その部下の人が勢い良く部屋を出て行った。


「そいつから情報を得られたら、黒幕も直ぐに分かるな。ドゥフトの息子、早めに喋って警備隊に協力しておいた方が、後の心証が良くなるぞ。それに、黙っていたらいつまで経っても夕食にありつけまい」


「……分かりました」


 アムレット商会長からの説得を受けて、ドゥフトの若旦那は漸く口を開いた。

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