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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第13章
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第57話 俺はダミアンさんに苦言を呈される

「ええっと、その、すみません。どちら様ですか?」


 アルバンさんが不安気な表情を浮かべている。父さんがその名を口にしたが、知人というわけでは無かったのか。


「初めまして。私はフリーグ男爵家の当主をしております」


「あっ、あの……」


 何かを言い掛けたアルバンさんだったが、妻のミアさんに肘打ちされて、慌てて口を閉ざした。


「はい、恐らく『その』フリーグ男爵家です。どうです?噂通りですか?」


 父さんはにこやかに話しかけたが、アルバンさんは恐縮して黙り込んでしまった。


「だいたい噂通りの男ですから、気にしなくていいですよ。ではザシャさん、後はお願いしますね。少し煩い場所ですが、お友達とゆっくり過ごしてください」


 父さんはアルバンさんの態度を特に気にする様子もなく、ザシャさんの背中を押して送り出した。


「おじさん、おばさん、あの……」


「ゲオルグ、ちょっとこっちに」


 止まった涙を再び流しそうな表情で話し始めたザシャさんを見守っていると、父さんに腕を引っ張られた。


 なんだなんだ。ザシャさんとグレーテさんの話を俺も聞きたかったのに。


「お前はこっちだ」


 父さんに誘導された先では、ダミアンさんがアムレット商会親子の取り調べを行っていた。


「では本当に、副商会長の行方はご存知無いと」


「あんな裏切り者の行き先など知らんと、店に来た警備隊員にも何度も言っている。倉庫で倒れていた連中が知っているんじゃないのか?」


 口調は荒々しいままだが、アムレット商会長は先程よりずっと落ち着いていた。


「現在も私の部下が取り調べを行っている最中ですが、黙秘を貫いていましてね。お嬢さんが保護されたと言う話を聞いて、我々は話を伺いに来たわけですが」


「娘だって知る由が無かろう。ずっとアイツから逃げ回ってたんだから。そうだろ?ヘルミーナ」


 父親からの問いかけに対して、ヘルミーナさんは無言で頷いて答えた。


「うんうん、ヘルミーナは何も知らないよな。もういいだろ?これ以上の質問は出来れば明日にして頂きたい」


「しかし「ダミアン、ちょっと時間を貰えるかな?」」


 ここで父さんが口を挟んだ。


「まだ何か話が?」


 アムレット商会長が眉を釣り上げて不快感を顕にしている。ダミアンさんは口を閉ざして、身振りで父さんに話を促した。


「いえ、私じゃなくて、息子の方でして。ほらゲオルグ、さっき言ってた事を話しなさい」


 え?さっきって、何のこと?


 父さんは軽い調子でウインクして、ザシャさんにやったように俺の背中を押し出した。


「男爵の息子?全然似てないな」


「あ、あはは。よく言われます」


 胡乱な視線を向けて来る商会長に少しビビリながら、俺は父さんの意図を必死に考えた。


 しかしアムレット商会の倉庫前で1度顔を合わせているが、向こうは何も覚えていないらしい。


「いったい何のようかね。私達は早く帰りたいんだが」


「すみません。ええっと……その……じ、実は今日、僕はずっとヘルミーナさんの事を探していまして」


「何故娘の事を?」


 商会長の目付きが険しくなった。大事な娘に近寄ろうとする小虫と認識されたのかもしれない。少し、話の切り出し方を間違えたな。


「えー、僕はヘルミーナさんと同級生でして、今、学校で開催されている武闘大会を運営する委員会にも同じく参加していまして」


「それが?」


「今日の午前中、ヘルミーナさんが仕事を抜け出して、行方をくらませました。僕は同じ委員会の先輩達と二手に別れて、ヘルミーナさんを探す事になったんです。先程教会の地下で見つけるまで、色々有りました」


「そうか。それはご苦労さま。父親が礼を言っていたと、その先輩達にも伝えてくれ」


「それがですね。先輩のひとりが、アムレット商会の倉庫で血塗れの状態で、意識を失って倒れていたんです。商会長も発見時には立ち会っていましたよね」


「ああ、あの魚人族の娘か」


 この話に激しく反応したのは、黙って俯いていたヘルミーナさんだった。


「大丈夫だよ。優秀な女医さんのおかげで、食事も会話も出来るくらいに回復してるから」


 ヘルミーナさんはホッと胸を撫で下ろした様子で、笑顔を見せてくれた。


 しかし、今度はダミアンさんが「そんな報告は受けていませんが?」と絡んで来る。確かに、イルヴァさんと会話が出来るようになったとは伝えていなかった。


「すみません。診療所を出てから色々と有ったので。で、その倉庫で倒れていたイルヴァさんから聞いた話なんですけどね」


 俺はイルヴァさんから聞いた話を、一緒に居たルトガーさんやマリーから補足されながら、出来るだけ正確に話した。


 イルヴァさんがゲラルトさんと共に学内を捜索し、アムレット商会に向かい、ゲラルトさんと別れ、倉庫内で誰かと戦った話を。


 少しだけ声を張ったから、同じ室内に居る者達全員の耳に入った事だろう。


「なるほど、西の連中の口車に乗せられたのか、あのバカは」


「そういう話は、もっと早く聞きたかったですな」


「おいまさか、そのお香って……」


 話を聞いていた人々が口々に言葉を漏らす。


 商会長は怒り、ダミアンさんは呆れ……ドゥフト商会の若旦那は驚愕していた。


「はい。この休怠香ですが、ドゥフト商会さんで、仕入れていますよね。仕入れると直ぐに常連客が買い占めたから在庫はもう無いと、伺っていますが。さて、常連客とは誰でしょうか?」


「それは……」


 言い淀む若旦那に、部屋中の視線が向けられていた。

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