第55話 俺はマリー達と合流する
父さんのお説教が漸く終わった頃、新たに複数の人物が教会にやって来た。
警備隊のダミアンさんと、その部下数人だ。
教会周辺の土地はダミアンさんが所属する警備隊詰所の管轄外だったはずだけど、大きな事件だから応援に来たんだろうか。
ダミアンさんはチラリとこちらを一瞥して頭を下げたが、特にこちらと接触する事無く、今も忙しそうに働いている警備隊との合流に向かった。
「ゲオルグ君!」
ダミアンさんの部隊を見送っていると、周りを囲んでいる野次馬から名前を呼ばれた。
声を上げたのはザシャさんだ。ザシャさんを幸甚旅店まで送って行ったマリーもその横に並んでいる。
手招きするザシャさんに呼ばれて近寄ると、
「グレーテとアントンが事件に巻き込まれたって聞いたんだけど!大丈夫なの!?怪我はしてない!?」
酷く焦った様子でまくし立てられた。
どこからそんな話を聞いたのかな。俺は連絡を取る暇が無かったし、グレーテさん達の家族からザシャさんに連絡が行ったんだろうか。
「大丈夫ですよ。2人とも怪我はしてません。ただ……」
「ただ!?何!?」
「ちょっと話し辛いので、こっちに来て下さい」
興味津々な表情でこちらの話に聞き耳を立てている野次馬が周囲に沢山居る。こんな所で話すのはちょっと忍びない。
俺は近くで野次馬の管理をしている警備隊員に許可を取り、グレーテさんを連れて父さん達の所へ戻った。マリーも俺達の後をついて来ているが、無言なのが少し怖い。
「あっ……男爵様、その節はどうも……」
「ああ、幸甚旅店の。どうですか?食堂は繁盛していますか?」
先程まで般若の風貌だった父さんが、えびす様の表情になってザシャさんに愛想を振りまいている。
「え、ええ。お陰様で、今日は宿泊客以外のお客さんも噂を聞いていらっしゃって」
「それは何より。それがずっと継続出来るように、マルテからしっかり料理を学んでくださいね」
「はい。家族従業員一同、男爵様への感謝を忘れず、精いっぱ……って!違うんですよ!うちの話より、グレーテ達は!?」
父さんのえびす顔に釣られて少し興奮具合が改善していたのに、友人の危機を思い出したザシャさんは再び声を荒らげた。
「グレーテと言うと、ゲオルグが捕縛した女性だったかな?」
「はっ!?捕縛!?」
惚けた様子の父さんが、俺に話を振って来た。振るのはいいんだけど、もう少し言い方を穏便にして欲しかった。
「捕縛ってなに!あんた、か弱い女性に何やってんの!」
あうあうあう。
目の据わったザシャさんが、俺の両肩を掴んでガシガシと揺さぶって来る。そのせいで、口を開く暇も無い。
「ザシャさん。それでは坊ちゃまが言い訳する事も出来ませんので、落ち着いてください」
ルトガーさんがやんわりと止めに入ってくれて、俺に降り掛かった災難は漸く終焉した。
その間、父さんは声を殺してニヤニヤと笑っていた。危ない事をした俺への小さな罰として、あの発言をしたんだろう。ムカつくけど、それで気が済むのならそれでいいや。
「ふー、ふー。よし、落ち着いたから、しっかり説明して」
落ち着いたと言うザシャさんだったが、その両手は俺の両肩を掴んだままだった。
「そんな……グレーテはそんな話、一言も……」
ザシャさんと別れてからの話を一通り説明し終えると、ザシャさんは項垂れ、ぽつりぽつりと涙を落とし始めた。
「私じゃ助けにならなかったかも知れないけど……それでも……」
ザシャさんはそれから暫く、無言で地面を濡らし続けた。




