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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第13章
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第51話 俺はアレックスに怒られる

「ゲオルグさん、初対面の女性と話す時はもうちょっと慎重に言葉を選んだ方が良いですよ!」


 アレックスがぷりぷりと怒っている。


 頬を膨らませて怒るアレックスはとても可愛らしいが、怒られる原因には納得がいっていない。何か注意事項が有るのなら事前に伝えておくべきだ、と俺は思うのだ。


「カテリーナさんはとても繊細なので、ああいった言葉は今後……」


 俺達はカテリーナさんに別れを告げて退室し、廊下で足を止めている。


 部屋に入る前は甘ったるい香りが廊下を支配していたが、現在ではそれが薄れて、心地良い木の香りに換わりつつあった。


 カテリーナさんの部屋で焚いたお香の香りが、廊下の天井にも有る通気孔を通じて拡散しているんだろう。俺としてはこっちの香りの方が好みだから、換わってくれるのなら喜ばしい。


「ちょっと!聞いてますか!?」


 別の事を考えながら小言を聞き流していたのがバレたらしい。


 俺はごめんごめんと平謝りして、アレックスの機嫌を取る事に努めた。


「ほんと気をつけてくださいよね。カテリーナさんは繊細なんですから」


 はいはい、何度も聞いたよ。すみませんでした。




「ところで、なんで俺をあの部屋に連れて行ったの?カテリーナさんと俺を会わせた理由は?」


 謝罪を続けてアレックスの怒気が収まったところで、俺は質問を続けてぶつけてみた。


 他にも『カテリーナさんはどんな人なのか』とか『なんでベッドの上から動けないのか』とか聞きたい事は有ったけど、取り敢えずこの質問で。


「あ……それは……司祭様が何を守ろうとしているのか……知って欲しかったからです」


 アレックスは視線を彷徨わせながら慎重に言葉を選んでいる。


「カテリーナさんが、そうなんだね。カテリーナさんはどういう人なの?」


「カテリーナさんは、司祭様の一人娘です。カテリーナさんの為ならどんな事でもやるんだと、司祭様は常々言っています」


「大切な一人娘を、どうしてこんな暗い地下室に?」


「カテリーナさんは……数年前にとある事件で大怪我を負って……独りでは出歩けない身体になってしまったんです」


 アレックスは苦虫を噛み潰したような顔をして、とても言い辛そうにしている。


 独りでは出歩けないから地下室で暮らす、ってのは納得出来ない言い訳だけど。


「ふむ。まあ言いたくないなら言わなくても良いけどさ」


「ごめんなさい」


 俺がそれ以上追求して来ないと知ると、アレックスはホッとした様子で顔色を戻した。


「それじゃあ別の話にするけど、アレックスはなんで倉庫の片付けを放棄して此処に来たの?まさか、カテリーナさんにお香を届けに来ただけじゃないよね?」


「倉庫の片付けはもう終わっていまして、前日に約束していたお香を届けに来たんです。夜じゃないとなかなか礼拝堂が無人にならないので……でも、そのついでに」


「ついでに?」


「アリーさんが今日此処に来ていないか、確認したかったんです。カテリーナさんが言うには、アリーさんは来ていなかったようですが」


「姉さんも、此処の事を知ってるのか」


「はい。アリーさんから此処の事を聞いて、私に接触して来たんじゃなかったんですか?」


「いや、姉さんからは何も。姉さんは秘密主義者だからね。俺達がドゥフト商会に来たのは別件でね」


「あ……そうだったんですか。それなら今日慌てて来る事無かったんですね。アリーさんが此処の事をバラしたんじゃないかと、アリーさんを無駄に疑ってしまいました……」


 眉を八の字にしたアレックスが、ガックリと肩を落としている。


 コロコロと表情が変わる子は見ていて飽きないね。


「それじゃあ、別件というのは?」


「グレーテさんが家に帰ってないって聞いたから、探しに来たんだよ。まあカテリーナさんの話だと、いつもの時間に此処に来たみたいだけど。いつもの時間っていうのは、ドゥフト商会の仕事が終わった後って事だよね?」


「はい、仕事の有る日は毎日その時間の筈です。でも今日は弟さんともう1人が一緒に……まさか、グレーテさんが、口外してる!?」


 今気づいたのか。


 アレックスは驚愕の表情で固まってしまった。グレーテさんがそんな事をするなんて思っていなかったんだろう。


 恐らくグレーテさんは、アントンさんと多分ヘルミーナさんの2人を此処に隠すつもりなんだと俺は予想している。隠したい2人をカテリーナさんに引き合わせた理由は全く分からないが。


「恐らく、まだヘルミーナさんは2人と一緒に此処に残っていると思うんだけど、他の部屋を調べる事は出来る?」


「出来ますが、私では入れない部屋がいくつか有りまして……待ってください、足音が聞こえませんか?」


 聴覚を研ぎ澄ませるように、アレックスは目を閉じて押し黙った。


 会話を止めると、確かに靴音が耳に届く。テンポ良く、コツコツと。足音の主は1人だけか?


「これは、誰かが階段を降りて来ていますね」


「上で待ってたルトガーさんが待ちくたびれて降りて来たのかな?」


「いえ、音の発生源は反対方向です。実は、通路を真っ直ぐ進むとシュベルト様の教会にも繋がっているんです」


「なるほど、2つの教会を繋いでいるのか」


「でも、あちらの出入口は数年来使われていないと、司祭様が……隠れて様子を見ましょう」


 アレックスは俺の服を引っ張って、カテリーナさんの部屋ではない、近くの別の部屋へと侵入した。

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