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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第13章
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第49話 俺は像の内部に侵入する

「ルトガー。お前が付いていながら、どうしてこんな騒ぎになるんだ!」


「申し訳ありません。少し、白熱し過ぎました。まさかこれ程大事になるとは」


 顔を真っ赤にして怒鳴る父さんに対して、ルトガーさんは素直に謝罪した。


 ルトガーさんが全面的に悪い訳では無いが、その引き金を引いたのは間違いなくルトガーさんだ。俺1人では、マギー様の像の秘密を見つける事は無かっただろう。


 ルトガーさんの横に並んで怒れる父親の声を聞き流している俺の周囲では、警備隊の面々が頻繁に行き来している。教会関係者から話を聞いたり、教会内部から様々な物品を外に運び出したり。


 その外を取り囲むように近隣住民が輪を作って野次馬している。小声で話す警備隊員の声は届いていないだろうが、大声で怒鳴っている人間の声は野次馬に筒抜けだな。


「おまえがゲオルグを止める役目だろうが!それなのにおまえが……」


 父さんの怒りは当分収まりそうにない。


 幸甚旅店に戻ったマリーや診療所のイルヴァさんをずっと待たせてるのに。学校に戻ってもらったクロエさんとも連絡したいのに。


 すっかり日の沈んでしまった夜空に、父の怒声がいつまでも拡散していた。




 頭から血を流して倒れたアレックスは、回復魔法の魔導具で問題無く復活した。傷痕も残らず、記憶もしっかり残っていたのは僥倖だ。


 俺がアレックスを治療している間に、ルトガーさんは魔植物を使って司祭服の男性を取り押さえていた。


 そこまでやる必要は無いんじゃないか、とその時は思っていたが、結果的に司祭服の男性を逃さずに済んだんだから、ルトガーさんの判断は間違っていなかった。


「ゲオルグさん、付いて来てください」


 真剣な顔を作ったアレックスに先導されて、俺はマギー様の像の内部へと侵入した。勿論、司祭服の男性が口にしたマギー様からの天罰、なんて無かった。ルトガーさんは像の外で、司祭服の男性を監視している。


 像内部の壁際には本棚がいくつも設置されていて、それには古めかしい書籍や紙束が綺麗に整頓されて並べられている。本棚に囲まれた空間の中央には地下へと続く石造りの螺旋階段が有った。


 アレックスは螺旋階段の壁側に取り付けられた魔導具の照明器具に明かりを灯しつつ、慣れた足取りで階段を下って行った。


 階段を降り切ると石造りの通路に繋がった。それは長い一本道の通路で、その左右の壁には木製の扉が点在している。


 そして通路内には、甘ったるいお香の匂いが籠もっていた。


「私が初めてここに降りて来たのは今年の4月でした」


 通路を進みながら、アレックスが話してくれた。俺は左腕の袖で口元を抑えながら、アレックスの後ろを付いて歩いた。


「去年、生まれ故郷の村を離れて王都に来た私は、血縁を頼ってドゥフト商会で働き始めました」


「故郷では各家に小さな祭壇が有って、毎日マギー様に1日の終わりを報告する事が習慣でした。住み込みの部屋に簡易な祭壇を持ち込んで、王都でも毎日のお祈りを欠かさないつもりでした」


「ドゥフト商会で働き始めて半月もしない頃、先輩のグレーテさんに誘われて、この教会の礼拝に参加しました。近くで教会を見上げた事は有りましたが、中に入るのはこの日が初めてでした。あの大きなマギー様の像を見てとても驚いた事を良く覚えています」


「その日から、グレーテさんと一緒に毎日教会でもお祈りするようになりました。朝は部屋の祭壇、夜は教会、といった感じです。グレーテさんはドゥフト商会に就職して以来、毎日お祈りを欠かしていなかったそうです」


「教会で毎日お祈りをしていると、顔見知りが増えました。司祭様やシスターさん達のような教会関係者だけじゃなく、私達同様頻繁にお祈りに来る人とも。アリーさんも、その1人でした」


 姉さんが頻繁に教会に来ていたなんて、全く知らなかった。


「同じ名前という事も有って、私はアリーさんと良く話すようになりました。あっ、私はアレックスと呼ばれていますが、本名はアレクサンドラなんですよ」


 アレックスは少しはにかんで、照れくさそうに笑っていた。


「そして、去年の冬頃、グレーテさんがここの秘密を見つけてしまったんです」


 声の調子を落として話すアレックスは、とある扉のドアノブを掴んでいた。

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