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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第2章 俺は魔法について考察する
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第51話 俺はヴルツェルへの旅路で縛られる

「さて少年。我々にとって有益な情報では無かったらどうなるかわかっているだろうね。我々としても手荒な真似はしたくないのだよ」


 そう言いながらも誘拐犯は、持っているナイフをヤーナさんに向けて反応を楽しんでいる。

 ヤーナさんは手足を縛られ身動きできない。猿轡のせいで声も出せない状態だ。ただ取り乱した様子はなく、冷静に事の流れを見守っている。


 俺も捕まり縄で縛られている。ヤーナさんを助けようとして見つかってしまった。


 どうしてこんなことになったのか、ちょっと思い返してみよう。




 ヴルツェルへの旅路は順調だった。

 雨の中進む日もあったが、雨音と車輪の音を聞きながら過ごすのも悪くない。


 馬車も快適。

 只でさえ良い馬車を用意して貰ったのに、ソゾンさんが手を加えて更に揺れなくなった。

 乗り物酔いをするマリーを心配して改良してくれたんだけど、衝撃を吸収する道具とか車体を水平に保つ道具とか、魔法を使わずに動く道具だ。機械と言ってもいい。

 なんでそんなこと知ってんの?


「昔頼まれて作った物を改良したんじゃがなかなか上手くいったのぅ」


「新しい馬車を作って売り出さないんですか?」


「儂は武具専門の鍛冶屋じゃ。なんでもかんでも手を出してたら要らん恨みを買うぞ」


「その割には温室作ったり、魔導具を作ったりしてますよね」


「不特定多数に販売するのと、知り合いに頼まれて作るのは違うんじゃよ。子供達を育ててた頃は多少無茶をしたが、今は2人で生活できる分を稼げればええしの」


「私は孫にお小遣いをあげたいから、もっと稼いで欲しいんですけどね」


 金なんか要らないんだとかっこつけたソゾンさんにヤーナさんが本音をぶつける。

 どこの家庭も孫には優しくしてしまうんだね。


「馬車に付ける道具は調節が大変じゃから一般販売はせんのじゃ。この馬車のやつも後で取り外すからな。キュステとヴルツェルの温室で稼げるんじゃから、それで許してくれ」


 ヤーナさんの機嫌を取るように謝っている。

 どこの家庭も妻が強いようだね。


 そう、多少のトラブルは有ったけど、順調な旅路だった。

 5日目の夜に着いた宿場街で、事件は起こった。




 道中、ヴルツェルの爺さんの計らいで高級な宿に泊まっていた。

 事前に予約していたようだ。移動費も宿泊費も無料だと父さんは喜んでいた。


 5日目の夕方にギースバッハという宿場街に着くと、街の門の所でヴルツェルの関係者だと名乗る人物が迎えてくれた。


「予約した宿の手違いで宿が取れなくなってしまいました。別の宿を用意したので案内します」


 ちょっと訛声のその人に先導してもらい、俺達は変更された宿へ向かった。


 宿に着くと、恰幅の良い主人に歓迎してもらった。

 案内した人物は、変更になったお詫びに宿代だけで無く夕食も無料、各々個室を用意するのでゆっくりしてほしいと言い、帰って行った。

 親父も気が利いてるな、と父さんは大げさに感動していた。


 宿に着いて一息つくと、夕食の準備が出来たと宿の人が呼びに来た。

 初めて来た街だから散策したかったけど、料理が冷める前にどうぞと強く言われ、断れなかった。


 料理は美味しかったけど、量が半端なく多かった。勿体無いから頑張って食べたけど、結局残してしまった。

 俺と父さんとソゾンさんは満腹で動けず、各自に割り当てられた部屋で横になっていた。残った人たちはしばらく食堂でお茶をしていたらしい。


 横になってすぐに眠気が襲ってきた。どうせ満腹で動けない。外も暗くなってしまって散策に出かけることも出来ない。

 俺は眠気に抗うことなく、ゆっくりと目を閉じた。




 早く眠りについたせいか、深夜に目が覚めた。

 ちょうどいいからトイレに行こうと部屋を出た。


 トイレは1階と3階。俺が寝ていた2階には無かった。迷うことなく1階のトイレに向かう。夕食前にトイレに行っていたから場所は覚えている。

 深夜に1階のトイレは利用しないでくださいと言われていたような気がするが、それは忘れていた。


 1階には受付兼食堂、厨房、トイレ、従業員の部屋がある。

 トイレにしばらく籠って廊下に出ると、トイレに来た時には閉まっていた部屋の扉が開いていて、中から声が聞こえた。


 扉の隙間から縛られているヤーナさんが見えた。


 助けに行こうと思ったが覆面している大人の姿も見える。

 声からすると男性。しかも聞き覚えのある訛声。俺達をこの宿に案内したやつだ。


 丸腰で助けに行っても相手にならない。父さん達を呼びに行こう。

 ゆっくりと後ずさりをして扉から離れ、距離を取ったところで振り返ると、もう一人の誘拐犯と鉢合わせた。

 覆面しているが体型で誰かすぐに分かった。せめて体のラインを隠す服を着ようか。




 こうして俺は誘拐犯に捕まり、ヤーナさんの目の前に転がされる状況となった。


「そのドワーフの女性をどうするんですか」


 とりあえずヤーナさんのような猿轡をされる前に、大声で話を振ってみる。


「大声は止めろ」


 誘拐犯はナイフを取り出し、ヤーナさんの顔に向けながら俺に警告する。ヤーナさんが僅かに首を横に振った。


「すみません。静かにするのでナイフを仕舞ってもらえませんか?」


「嫌だね。もう少しでこいつを運ぶための迎えが来る。それまでは静かにしてろ」


「その女性をどうするんですか」


 音量を落としてもう一度質問する。


「さあ。俺はこの女性を誘拐しろと言われただけだ。心配しなくてもお前も一緒に連れてってやるよ」


 今すぐに殺すつもりは無いってことか。


「ドワーフ族が嫌いなんでしょうか。それともヴルツェルに温室が立つと困るんですか?」


 ちょっとでも情報が欲しい。


「ふ、さすがはフリーグ家の子供か。だが好奇心は早死の元だ。色々なことに手を出すと各所に恨みを買うからな」


 馬車内でソゾンさんが言っていた話だ。

 ソゾンさんに恨みを持つ人達なんだろうか。


「なあ。ヴルツェルのフリーグ家は温室を建てて何を育てようとしているんだ?」


 恰幅が良い方の誘拐犯が俺に質問してきた。


「フリーグ家の放蕩息子が枝豆を広めて儲けている。今度は実家で新しい作物を作るつもりなんだろ。君も何か聞いてるんじゃないのか?」


 世間では父さんは放蕩息子って言われているのか。過去にどんなことがあったんだろう。


 それにしても、新しい作物ねぇ。


「もし新しい作物の情報を教えたら、僕達を解放してくれますか?」


 俺のこの言葉をきっかけに、少しだけ流れが変わった。

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