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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第13章
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第41話 俺は友達の実家を訪れる

「いらっしゃい!3名様で泊まりかい?」


 開けっ放しになっていた幸甚旅店の扉口を潜ると、女性の元気な声が耳に届いた。


 声の主は宿屋の受付台の近くで何かの作業をしていた若い女性だ。背が高く、すらっとした体型で、茶色の長い髪を束ねてポニーテールにしている。


 ルッツの母親、にしては若過ぎる気がする。ルッツのお姉さんか、それとも単なる従業員か。


「お客さん、運がいいね!今日から腕の良い料理人を5日間だけ雇ってるんだよ。他所の料理屋にも負けない味だから、夕食を楽しみにしててよ!」


 女性は自慢気な口調で、そのキラキラした目をルトガーさんに向けている。


 しかし、ルトガーさんは穏やかな口調で女性の期待を否定する。


「申し訳ありません。泊まり客では無く、ここの人に用が有りまして」


「なんだ、泊まりじゃないのかい」


 声の調子を落としてガッカリ感を表現した女性だったが、


「泊まり客じゃなくても食堂は使えるから、夕食時まで居るなら食べて行ってよ!絶対に損はさせないから!」


 すぐに気を取り直して、自信たっぷりの笑顔を見せた。


「ええ、時間が合えば」


 ルトガーさんもにこやかな笑みを返す。


「で、誰に用なんだい?泊まり客の殆どは、外出中だけど」


 女性は手元の帳簿を確認し始めたが、ルトガーさんは「申し訳ありません」と断りを入れた。


「泊まり客ではなく、ルッツ君はご在宅ですか?」


「え?ルッツ?」


 女性は再び笑顔を引っ込め、胡乱な目つきでルトガーさんを見ている。


「ああ、申し遅れました。私は、ルトガー。フリーグ男爵家に仕えています」


 えっ、と声を漏らして驚いている女性に、ルトガーさんは礼儀正しく一礼した。


「こちらの男子はフリーグ家の子息、ゲオルグ・フリーグ。ゲオルグ様はルッツ君と同級生でして、本日学校に姿を見せなかったルッツ君を心配して会いに来た次第です」


「それは……心配していただいて、ありがとうございます」


 女性が慌てて頭を下げる。フリーグ家と聞いて動揺しているようだった。


「もし私の言葉が信じられないようでしたら、昨日から此処に来ているはずの、アレクサンドラ・フリーグ様、もしくは従者のアンナに確認を取っていだければ……」


「あ、その……ちょっと待って下さい。とうさーーん!」


 宿屋の奥に向けて張り上げた女性の声は、とても力強く、宿屋内に響き渡った。




「まったく、はしたないから人前で叫ぶのは止めなさいと」


「でも、受付を離れて呼びに行けないじゃん」


 呼び出した父親を見下ろしながら、女性は頬を膨らませて憤慨した。


「すみません、お客様。お耳の方は大丈夫でしょうか?」


 背の小さい小太りの男性が、困り顔を作ってルトガーさんに話しかける。


 その丸くぽっちゃりした顔付きは、娘さんとはあまり似ていない。ルッツとも似ていないかもしれない。3人の共通点は髪と瞳の色くらいかな。


「ええ、元気な娘さんですね」


「ハハハ、元気過ぎて、嫁の貰い手が無いと困っていますよ」


 お父さんの軽口に対して、娘さんは鼻を鳴らしてそっぽを向いた。


「それで、ザシャ。私を呼んだ用事は?」


「その人達がルッツに会いたいんだって。私には答えられなくて」


「ルッツに?ええっと、どのようなご用件で?」


 先程娘さんに説明した話を、ルトガーさんはもう1度お父さんにも話した。


「フリーグ家の!?どうしてそれを早く言わないんだ!」


「この人達が誰かって、聞かれなかったから?」


「だからといって」


「まあまあお父さん、落ち着いてください」


 親子の間に割り込んだルトガーさんが、親子喧嘩を始めそうになった2人を引き離す。


「それで、ルッツ君はご在宅ですか?」


「朝、いつもどおりに家を出て以来、姿を見ていません。まだ帰っていないと思いますよ」


 お父さんは真面目ぶった顔で答えた。嘘を吐いているようには見えない、と思うけど、どうだろう。


「普段どおりに登校した、と?」


「ええ、普段どおりに、いつも一緒に登校している2人やアリーちゃんと共に」


「アリー様も一緒でしたか」


「ええ、勿論アンナさんも一緒に。お2人には大変お世話になりました。また後日、改めて御礼をさせていただきます」


 姉さんに対して恩を感じているらしいお父さんは、深々と頭を下げて来た。こっちは嘘っぽくないな。


「そういえば、もう1人一緒に男が居たような……」


 頭を上げたお父さんは、何かを思い出そうとして首を捻っている。


「アントン。父さんの知らない人よ」


 顔を顰めた娘さんが吐き捨てるように答えを述べた。それは、ヘルミーナさんと一緒に屋上から飛び立った生徒の名前だった。


「アントン?聞かない名だな。ザシャとはどういう関係なんだ?」


「友達の弟ってだけよ」


「本当にそれだけか?まさか彼氏じゃないだろうな?」


「だったら何?嫁の貰い手が居るとしたら、それでいいじゃない?いつもいつも、嫁の貰い手がーーって騒いでるのは何処の誰だったっけ?」


 お父さんを煽るように、娘さんはニマニマと笑っている。


「い、いかん!どこの馬の骨とも分からぬ相手に!」


「まあまあお父さん、落ち着いてください」


 多分うちの父さんも、姉さんが男友達の話を持ち出したら慌てるんだろうな。


 ルトガーさんに止めらながらも娘さんを問いただそうとするお父さんの姿を見ながら、俺は自分の父親の姿をダブらせていた。

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