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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第13章
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第38話 俺は新たな登場人物に混乱する

「さて。確かお名前は、イルヴァ、といったかな?」


 副商会長に向けた笑顔のまま、その人物は私の前に歩み出て来ました。その後ろには4人組の男性が付き従っています。


 私の名を呼んだ人物の背はそれほど高くありません。アムレット商会の面々や後ろの従者4名とは、頭1つ分以上の差が有ります。


 笑みを浮かべているその顔は端正で、人族の間では恐らく綺麗と言われるであろう顔付きでした。


 年齢は若く、まだ学生と言われても納得する風貌でしたが、私の記憶には無い人物でした。


「はい、イルヴァですが、どこかでお会いしましたか?お会いしていたら、覚えていなくてすみません。お名前を聞かせていただければ、思い出すかもしれませんが」


 顔を覚えていなくて、数分前に人を不快にさせたばかりです。私は、相手の顔色を窺いながら、慎重に言葉を発しました。


「んー、こっちが一方的に知っているだけだろうね。昨日の試合は観ていたから。優勝おめでとう」


 にこやかな笑顔に加えて、パチパチパチと軽い調子の拍手まで頂きました。


 昨日の試合を観戦出来るのは、学校に通う生徒と教師だけのはずです。教師ではなさそうなので、やはりまだ学生でしたか。


 しかし、向こうは名乗る気が無さそうなので、娘の人物が誰なのか、まだハッキリとは分かりません。


 取り敢えず、『学生さん』と呼称する事にしました。


「で、イルヴァの今後なんだけど。このまま僕の実験に付き合ってもらおうよ。それが終わったら、帰っていいからね」


「なっ!」


 学生さんがこの場を仕切り始めると、副商会長がそれに反応しました。


「私はまだ、この娘から何も話を聞けていないんですよ!勝手に話を進めないで頂きたい、ラうごっ!」


 唾を飛ばさんばかりの勢いで反発していた副商会長の左脇腹に、学生さんの右拳が叩き込まれました。


 目にも止まらぬ、程ではありませんでしたが、殴られるとは思っていなかったであろう副商会長には、一瞬の出来事だったでしょう。避ける事も防ぐ事もなく、副商会長は無防備でした。


 殴られた副商会長はうめき声を上げ、左脇腹を両手で抑えながら体を曲げて、通りに膝を突いてしまいました。


「余計な事は言わなくて良いんだよ、副商会長殿。早死にしたくないのなら、ね」


 身長差によって副商会長から見下ろされていた学生さんは、苦しそうな副商会長を見下ろして、楽しそうに笑っていました。


「その他大勢の皆さんも、何か言いたい事が有るのかな?」


 学生さんは右腕をブンブンと回しています。喋ってもいいけど返事は拳になるかもよ、と暗示しているのでしょうか。


 勿論、副商会長の痛がり方を目の当たりにしている皆さんは、ひと言も発言しませんでした。


「うん、じゃあ話を進めようか、イルヴァ」


「その前に、私の質問を聞いていただけますか?」


 私の言い方が悪かったのか、学生さんは不満そうに顔を顰め、再び右腕を回し始めました。


「聞くのは良いけど、手短にね。つまらない質問だったら、副商会長殿みたいになるけどね」 


「では早速。ヘルミーナさんを捕まえて、どうするつもりですか?」


 学生さんは右腕の動きをピタリと止めて、小首をかしげました。


「さあ、殺すんじゃない?僕には路傍の石だけど、副商会長殿にとっては道を塞ぐ大岩、つまり、邪魔者だしね」


「ばっ……ころ……ちが……」


 未だに苦しんでいる副商会長が、荒れる息をなんとか抑えて言葉にならない言葉を発しています。


 しかし、一発殴られたくらいであんなに苦しむなんて、流石に大袈裟過ぎませんか?


「え、なになに?『ばっさりと斬り殺して血がどぱっと出る姿がみたい』って?ハハハ、副商会長殿は良い趣味してるね」


 ケラケラと声を出して学生さんが笑う中、副商会長は必死に首を横に振っていました。


「では副商会長殿のご希望に応えて、実験の内容はそういうふうにしようかな」


 ご機嫌な学生さんは、後ろに控えていた4名の従者に指示を飛ばしています。




「じゃあ、行こうか」


 学生さんに先導され、アムレット商会の面々と共に、私はアムレット商会の倉庫前に移動して来ました。


「い、い、今、新しい錠前を取り付けたばかりで……」


「じゃあ今すぐ開けてもらおうかな。副商会長殿、構わないね?」


「あ、ああ……ローマン、扉を開けろ!」


「は、は、はひぃ」


 漸く落ち着きを取り戻した副商会長でしたが、腹の虫は当然収まらず、ローマンに八つ当たりをしています。


「なかなか立派な倉庫だね。じゃあ先ずは、香炉だ」


 学生さんの従者の1人が、凝った飾りが彫られた木製の香炉を取り出し、倉庫の床に設置しました。


「何やら、甘い匂いがしますな。心が落ち着きます」


 香炉から広がる香りを楽しむように、副商会長がくんくんと鼻を動かしています。


「いいでしょ。僕のオススメの逸品さ。では、イルヴァにはこの香りの中で斬り合いをしてもらうよ」


「なっ!」


 学生さんの言葉に反応して心を乱したのは、私ではなく副商会長でした。

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