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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第2章 俺は魔法について考察する
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第50話 俺は再び依頼した事を後悔する

 マリーには追い抜かれ、姉さんには周回遅れ。

 クロエさんもエマさんも働いている。


 俺も動き出そう。

 いつまでも過去に引っ張られてはいけない。


 でもとりあえず剣は置いておいて、図書館に行こうかな。

 最近足が遠のいていたから、久しぶりに行って魔導具に付いてちょっと調べよう。

 まだまだ読んでいない本がいっぱいあるからね。


 剣は夜中にこっそりと。

 みんなの前で堂々と剣を振るにはまだちょっと早いかな。

 俺の心がもう少し前向きになるまで、隠しておこう。




 その日の夜からクローゼットの奥に隠していた剣が、少しだけ手前に置かれるようになる。


 何度か出し入れしているうちに、剣置き場はクローゼットを開けた直ぐそこに移動した。


 毎日毎日クローゼットから出し入れするのはめんどくさいと、ベットの下にそっと隠す。


 ある日、図書館から帰って来ると、隠していたはずの剣がベットの上に横たわっていた。


 もう、誰だよ。態々隠してるんだから、そっとしといてよ。




 毎夜剣を振り続け、気づいたら暖かい季節になっていた。


「去年は俺の領地に行ったけど、今年はヴルツェルに家族旅行するぞ」


 夏のある日、父さんがそんなことを言い出した。


「どうして急に」


 ヴルツェルに行けるのは嬉しいけど、最近素振りが楽しくなってきてるから、ちょっと困る。


「ヴルツェルの親父から孫を見せろと連絡があった。アリーとゲオルグがキュステに行ったのを、何処かから聞きつけたらしい。俺は東方伯が自慢するためにワザと漏らしたんじゃないかと思う」


「自慢って言ったって、俺は挨拶しただけだし、姉さんに至っては爺さんと会ってもないけど」


「俺が言うのもなんだけど、あの2人は仲が悪いから。実は春くらいからゲオルグを連れて来いと言われてたんだ。俺の領地での仕事が落ち着いたから、そろそろ期待に応えようかと思って」


 そんな前からせっつかれてたのか。


「またみんなで馬車の旅だ。今回は呼ばれて行くんだから親父に費用を出させた。一番良い馬車を頼んだから、マリーの馬車酔いも少しは良くなると思うぞ」


 おお、抜け目ないな。俺なら遠慮してしまいそうだ。


「代わりに仕事を引き受けてるんだから、費用を出させたってのは言い過ぎよ」


 母さんが父さんの発言を訂正する。

 なんだ、完全に無料ってことじゃないのか。


「また護衛依頼?」


「そうね。今回はお義父様が呼んだお客さんを連れての移動だから、そのお客さんを乗せるために良い馬車を用意したってわけ」


「お客さんを乗せるんだったら俺達は乗れないんじゃない?」


「ソゾンさんとヤーナさんだから大丈夫よ。みんなで乗れる大きな馬車でゆったりと行きましょう」


「爺さんが呼ぶって何の用だろう。仕事かな」


「ソゾンさんはそうね。ヤーナさんはいつもアリーがお世話になっているから是非ご一緒に、とお義父様が言ってくれたのよ」


 へぇ、爺さんも太っ腹だね。

 でも態々王都からソゾンさんを呼ぶって、凄い仕事なのかな。


「キュステのお父様の所に温室を作ったのがばれて、ヴルツェルのお義父様に怒られたのよね」


 母さんが父さんをからかっている。

 ソゾンさんがヴルツェルに温室を作るって話だろうか。それにしてもキュステにも温室を作ってたなんて知らなかったな。


「しょうがないだろ。温室を作っても、使い方が俺も領民も分からなかったんだから。マチューさんに手助けしてもらう代わりに、温室栽培が上手く行ったらキュステにも作るって契約させられたんだ。枝豆を作らないようお願いするだけで精一杯だったんだぞ」


「その契約は仕方ないとして、どうしてソゾンさんに仕事を依頼するの?」


 ヴルツェルにも腕の良い職人は居るんじゃないかな。態々王都から好待遇で呼び寄せるほどのこととは思えないけど。


「それほどソゾンさんの腕が知られているってことよ。アリーは良い師匠を持って幸せね」


 母さんが微笑んでいる。姉さんは今日も外出中だが、母さんの目にはしっかりと姉さんが映っているんだろう。きっと自慢気な顔をしているんだろうな。


「キュステの温室もソゾンさんが?」


「まあな。ガラスの製造や温室を建てるのは他の人でも良いけど、魔導具が違うんだよ。ソゾンさんの魔導具は素晴らしいとキュステでも絶賛されてたぞ」


「じゃあ今回の仕事は、作った魔導具を設置しに行くだけなんだね」


「それが、良い魔導具を作るためにはそれを置く場所にも拘る必要があるって言われてな、温室も建てるんだ。キュステの温室は立派だぞ。なんせキュステの領主は父さんより金持ちだからな」


 そんなところで自虐的にならなくても。枝豆を増産したらきっとお金持ちになれるよ。


「ガラス作りはアリーがやってるんだから、大きな温室を作ってアリーのお金稼ぎに協力してくれているのよ。ヴルツェルでは温室建設もアリーにやらせるんじゃないかしら。ほんと、良い師匠よね」


 母さんはソゾンさんの思惑をそう推測した。

 俺の依頼がそんなところにも影響を与えていたのか。もしあの剣を依頼した時に戻れるなら、絶対に止めさせるのに。

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