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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第13章
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第32話 俺は目覚めた患者と対面する

 ギゼラさんとの密談を終えて病室に戻り、中年の警備隊員からアムレット商会の様子を聞いていると、俺達が運んで来た4人のうちのかな1人が目を覚ました。


 イルヴァさんが眠るベッドの斜め前、反対側の壁沿いで最も入口から遠い位置に有るベッドの患者だ。


 俺はリュックから補水液と栄養剤を取り出して、中年の警備隊員に手渡す。回復魔法の魔導具を使った後にそれらを口にするのは必須の行為だ。


 ううう、と呻き声を上げながらモゾモゾと動いているその男の両側に、中年の警備隊員と若い警備隊員が移動する。


「おい、見えてるか?我々は王都警備隊だ。話は出来るか?」


 ベッドの上の男に、制服姿の若い警備隊員が声をかけたが、


「うあああ!」


 突然若い警備隊員が悲鳴を上げ、床に倒れ込む。彼の制服の一部が真っ赤に燃え上がっている。


 同時に、男がベッドの上に飛び起きた。


「貴様!」


 中年の警備隊員が男に飛び掛かる。男は右手を警備隊員に向けて火球を生み出すが、


「呪縛!」


 火球が動き出すよりも先に、マリーの言霊が病室内に広がった。




「貴様、警備隊員に手を出してどうなるか、分かっていないのか?」


 中年の警備隊員が、ベッドの上の男を非難する。


 ニコルさんに香炉を見せていたダミアンさん達も騒ぎを聞いて駆け付け、中年の警備隊員と共にベッドを取り囲んでいる。


 男はマリーの放った草木魔法で拘束されている。拘束に使っている植物は、シビルさんお手製の、魔力を吸収する魔植物だ。これでもう、男は魔法を使えない。


「どうして警備隊員を攻撃した?単に逃げようとしただけか?それとも警備隊員に恨みでも有るのか?」


 中年の警備隊員の質問に、男は答えない。口や耳は縛っていないので、会話は出来るはずだが。


 男の火魔法で燃やされた若い警備隊員は、制服は焦げてしまったが、ルトガーさんが水魔法ですぐに消化した為、軽度の火傷で済んでいる。


 回復魔法の魔導具を使うまでもないとダミアンさんに断られ、彼は今、ニコルさんの診察を受けている。そのため病室には居ない。


「貴様の魔法のおかげであいつは大火傷だ。診療所に燃え広がった可能性も有る。放火は大罪だぞ」


「衣類を焦がす程度の威力しか込めてない。あの若いのは騒ぎ過ぎだ」


 放火と言われて、男が反応した。飄々とした声色だ。表情は見えないが、もしかしたら笑っているのかもしれない。


「室内で火魔法を使った時点で、放火と見做されるぞ」


「乱暴な話だ」


「警備隊を攻撃する方が乱暴だろうが!」


「なあ、そんな事よりも、このウネウネ動いて気持ちの悪い植物はなんだ?それに、さっきから全く魔法が使えないんだが」


「そんな事とはなんだ!貴様のその態度は「まあまあまあ」」


 次第に声を荒らげていた中年の警備隊員を宥めるように、ダミアンさんが声を発した。


「ここで騒ぐと、他の患者の迷惑でしょう。続きは詰所で行いましょうか」


「……畏まりました。すぐに退院の手続きをして来ます」


「面倒なので、他の2人も連れて行きましょう。魚人族の娘さんは、まだ入院していてもらいましょうかね」


 ダミアンさんの指示を受けて、警備隊員が動き出す。


 深く長く息を吐いた中年の警備隊員は、ひと足先に病室を出た。他の警備隊員が2人がかりで、縛られた男を担ぎ上げる。


「ふんっ。そいつは生きてるのか?」


 担がれて視野が広がった男が、俺達が囲っているベッドを見下ろしている。


 案の定、その表情は笑っていた。


「生きているから、なんだって言うだ!?」


 ニヤニヤとしたその笑みにムカついて、俺はつい声を出してしまった。


「さあ。なんだろうな」


 男は答えず、人を苛つかせる笑みを浮かべたまま、警備隊員と共に病室を出て行った。


「ああいう輩は、理由も無く人を挑発して楽しむんですよ。気にしたら負けです。後は我々に任せてくださいね」


 ダミアンさんが、あの男とは違う、優しい笑みを向けて来る。


「それでですね。出来れば他の2人も縛ってもらえませんかね?詰所へ運ぶ途中で目覚められると大変なので」


「わかりました」


 俺が答えるよりも早くマリーが動き出し、まだベッドで眠る2人を束縛する。


「我々は3人を連れて全員で詰所へ戻ります。そちらの魚人族の娘さんはゲオルグ君にお任せしますが、後ほど必ず、詰所へ連れて来てくださいね」


 力を込めて、必ず、と発したダミアンさんに、俺は了解しましたと返答した。




 イルヴァさんが目を覚ましたのは警備隊が帰ってから随分と経った後、そろそろ夕暮れ時になろうかという頃合いだった。


 目覚めたイルヴァさんは横になったまま、眉尻を下げて悲しそうな表情を作り、


「お腹すきました」


 と口にした。

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