第26話 俺は雲を目指して飛行する
「ゲオルグ様、雲の拡大が止まって、風に流され始めています!」
マリーの飛行魔法を使って校舎を飛び越え、そのまま学校の敷地外へ出ようとしたところで、マリーが声を荒らげた。
イルヴァさんが魔法の使用を止めた、そういう事だろうか。
「魔力が尽きたか、もしかしたら窓の無い建物に移動したのかもしれません。あの魔法は間に障害物が有ると、使用が困難になるので」
マリーは早口で自身の見解を述べた。
イルヴァさんは個人戦で優勝する実力者だ。そうそう魔力切れを起こすとは思えない。何か別の問題があって魔法を維持出来なくなったと考えるべきか。
しかしまだ、雲の直下までには距離が有る。今は雲に移動されると困るぞ。
マリー、この距離からあの雲に干渉して動きを止められるか?
もしくは、マリーだけで先に行くか。降ろしてもらえれば、俺はクロエさんと走って行くし。
「ゲオルグ様達を抱えたままで雲への干渉は無理です。2人を降ろしている時間は勿体無いので、このまま行きます」
空中にいる現状、俺は何も出来ない。それはクロエさんも同じだ。口は出せるが、マリーの判断に従うしかない。
「少し急ぎます。風に注意して、ゆっくり呼吸してください」
自身を持ち上げて空を移動する飛行魔法を使う時、それとは別に風魔法を併用して、向かい風を反らしているらしい。それが無いと呼吸と体温調節が難しくなるのだとか。
しかし別の魔法を併用していると、飛行魔法に使う魔力に制限がかかってしまう。単独飛行ならまだしも、今は3人で飛んでいる。マリーは俺とクロエさんも風から守ってくれているんだ。
それで、飛行魔法の速度を上げるには別の場所に使う魔力の比重を少なくする必要が有るらしく……。
さ、さむい。
暖かい日和なのに、手先が凍える。服の内側に手首を突っ込み、末端の凍えを緩和させよう。服の隙間から風が入り込まないように、なんとか隙間を閉じようと考える。
呼吸は、まだそれ程苦しくない。顔周りの風操作はまだ続けてくれているのかもしれない。
それでも速度は段違いに上がっている。
マリーの気遣いに感謝しつつ、俺は出来得る限りの寒さ対策を講じようとした。
「雲が流れる前の位置は、この辺りだと思います」
マリーが空中で動きを止めた。直下は王都を南北に貫く大通り沿いで、複数の建物が建ち並んでいる。
イルヴァさんが作ったと思われる雲は、大通りを東方向に進んで位置していた。
うーん、どうしよう。せめて雨跡か落雷跡でも有れば良かったが、雨を降らせる前に魔法は切れてしまったらしい。
魔力の痕跡とかは、流石に分からないよね?
「すみません。魔法を使っている最中であれば、その発信元を特定出来たでしょうが……」
うん、やっぱり無理か。下に降りて聞き込みでもしてみる?
「ゲオルグ様、後ろからルトガーさんが飛んで来ています」
クロエさんが後方に目を向けている。
ルトガーさん?なんで?たまたま俺達を見つけたんだろうか?
俺の疑問には2人も答えられる筈はなく、俺達は少しの間、空中でルトガーさんの到着を待った。
ルトガーさんは学校の周囲を彷徨きながら、俺の帰宅時間を待っていたらしい。
父さんから護衛を任せられているとはいえ、学校の許可無く校内に入る事は出来ない。許可は取れなかったようだ。
だからといって帰宅する事も出来ず、何か有った時には何時でも校内に踏み込むつもりで周辺を散策していたら、校内から飛び立った俺達を見つけて追い掛けて来たらしい。
「それで、坊ちゃま達は何を?」
同級生のヘルミーナさんが居なくなり、探している。
俺達とは別にゲラルトさんとイルヴァさんの2人組も、ヘルミーナさんを捜索している。
そのイルヴァさんが魔法で作った雲がこの辺りに出現した。
何か有ったのかもと飛んで来たが、これからどうするか相談中。
「なるほど。私は暫く校門の前にも居たので誰か目にしているかもしれません。その3人の情報を教えていただけますか?」
俺は手短に、しかし出来るだけ正確に3人の情報を伝えた。
「その魚人族の女性らしき人物は確かに校門から出て来ましたね。2人組ではなく、5、6人の集団でしたが」
やはり学外に出ているのは間違いないか。
ゲラルトさんは一緒では無かったんですか?
「大柄な人族の子は複数居ました。しかし風貌からでは判断出来かねます」
なるほど。ゲラルトさんも俺と並ぶと大きくて目立つけど、魚人族程は目立たないか。
それならヘルミーナさんも分からないよね。
「そうですね。ですが、この辺りでイルヴァさんが居るかもしれない場所には見当が付きます」
え、なんで?
ルトガーさんは右手の人差し指を、斜め下方向へ向けた。
「あそこの建物はアムレット商会の王都支店です。近くに倉庫も有ります。可能性が有るとしたら、あそこかと」
アムレット商会。それはヘルミーナさんの父親が商会長を務める商会の名前だった。
「それと、その商会は昨日旦那様とダミアンさんが訪ねた商会でもあります」
ついでとばかりにポロッと漏らしたルトガーさんの言葉に、俺は耳を疑った。




