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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第2章 俺は魔法について考察する
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第49話 俺はマリーの背中を追い掛ける

 姉さんが開発した言霊、呪縛を見せてもらった。

 続いて火魔法を2種類。でも火魔法の方は呪縛ほどの目立った特徴は無い。以前剣に入れてもらった魔法と変わらない気がする。


「火魔法の2つは魔導具に込めてみないと分からないね。発動速度と魔力のシコウセイを調節したんだ」


 指向性はソゾンさんの受け売りかな。難しい言葉を使いたいお年頃だ。

 俺が問題にしていた部分を魔導具の改良じゃなくて、魔法に手を加えて解決しようとしたってことだな。


「じゃあ剣を取ってこようか?」


 どういう風に変わったのか見てみたい。


「あの剣じゃダメなんだ。赤鉄鉱じゃ性能を発揮できないんだよね。だから宝石が手に入るまでのお楽しみってことで」


 なんだ、結局魔導具も改良が必要なのか。


「どんな宝石を探してるの?」


「ルビーかガーネットだね。師匠の知り合いの宝石商さんに頼んでるんだけど、なかなかいいのが見つからなくて」


「赤い宝石ってことか。なら草木魔法用は青い宝石かな」


「そうだね。実はもうサファイアを買ってるんだ。加工前の原石だからって少し割引して貰っちゃった」


「じゃあもう短剣の方は作れるの?」


「宝石を優先させたからまだ剣の素材を買ってなくてね。師匠は在庫を使って良いって言うんだけど、自分で購入したいじゃない?」


 ぐっ、依頼者として心が痛い。


「普通の素材でも良いよ。子供用の剣は大人になったら使い辛いから」


「いいのいいの。これはもはや私の戦いなんだから。じゃ、これから師匠の所に行ってくるよ」


 姉さんはまったく話を聞かず、種が入った袋を回収して飛行を開始した。

 動き出した途端にバスケットを持ったアンナさんが現れて、姉さんに付き従った。いったいどこに隠れてたんだ。


 飛び去る2人を見送り、残された土人形に近づく。南瓜の蔓はまだしっかりと絡まっている。


 これは姉さんの戦い。


 水魔法を覚え、氷結、草木と毎年新たな目標を掲げていた姉さん。今年は魔導具作りと言うことだろう。

 姉さんの中では理論上完成しているようだから、後は時間の問題か。


 俺の戦いってなんだろう。

 頑固に剣を否定することが俺の戦い?

 使えないかもしれない魔法を追い求めるのが俺の戦い?

 姉さんの背中を見て、姉さんに背中を押されて、俺はどうしたいんだ?


「ねえ、ゲオルグ様。これって何なの?」


 土人形をべたべたと触りながら考えていると、背後から声をかけられた。


「姉さんが新しく考えた草木魔法だよ」


 振り返らなくても分かる。マリーだ。

 マリーは二人きりだと敬語を使わない。様付けで呼ぶのは変わらないけど。


「ああ、やっと完成したんだね。誕生日に合わせて魔法だけでも完成させるって頑張ってたから」


 そうなんだ。もうとっくに完成してたよって雰囲気だったけど。


「それ、俺に言わない方がいいんじゃない?黙ってた方がかっこいいのに、とか姉さんは言うと思うけど」


「ゲオルグ様が何も言わなければ、アリー様にはばれないよ」


 確かにそうだけど、いつの間にそんな小悪魔的な顔を覚えたんだろう。随分大人っぽい。

 人の事は言えないけど、マリーって子供っぽくない時あるよね。


「このままだと可愛そうだから、移動させよっか」


 マリーは土人形に触り、魔法を発動させた。


 地面がうねり波を打つ。波に押し出されるように土人形が横にスライドしていく。

 倒れることなく移動した場所は花壇の近く。木も植わっていて敷地内で一番緑が多い所だ。


「土葬」


 移動させることに集中していたマリーが、続いて言霊を発した。


 移動を止めた土人形が、今度はゆっくりと沈んでいく。

 真下の地面が抉れているんだ。抉れた分、土人形を取り囲むように周囲の土が盛り上がる。

 土人形から離れているにしても全く振動を感じない。

 滑らかな動きに驚嘆する。


 盛り上がった土は一定の高さに達した時、頭上から土人形を呑み込むように襲いかかった。


 土人形を取り込みながら平坦な地面に戻っていく。

 あっという間に均され、普段よりも整った地面が完成した。

 姉さんが土人形を作った場所も人形分抉れていたが、もちろんそこも元通りだ。


「南瓜も取り込んじゃった」


 巻きついていた南瓜が可愛そうだから移動させようって話じゃなかったのか。


「ふふ、まだ続きがあるよ」


 そういってマリーが綺麗な地面を指さす。


 ぴしっと言う音が聞こえた気がした。


 地面がひび割れる。

 その隙間から南瓜の蔓が飛び出して来た。

 スイカを食べた時に種を飛ばすように、地面が南瓜を吐き出したんだ。


 吐き出された南瓜を見に行くと、地上に出ているのは蔓の部分だけ。根っこはしっかりと地面に根付いているようだ。

 割れた地面もいつの間にか修復され、最初からこの場所で南瓜が育ったように錯覚する。


「後は水を撒いて、周りに煉瓦で囲いを作って、ルトガーさんに肥料を貰って来よう」


 疲れを見せず、水魔法を使用する。いつの間に水魔法を覚えたんだ。姉さんもまだ水魔法を練習していたころじゃないか?


「農業って楽しいね。他の魔法は無理でも土魔法はアリー様に追いつける自信が有るんだ」


「水魔法の修得はマリーの方が早いと思うよ」


「アリー様が道を切り開いてくれるからね。後を追う方は楽だよ」


 そういう考え方もあるのか。後を追う方が楽、ね。


「でも私もただ後ろを付いて行ってるだけじゃないよ。新しい魔法に挑戦しながらも、土魔法を磨いているんだ。さっきの土葬は母に習ったの。男爵様の得意魔法なんだって」


 マリーが眩しくてちゃっと顔を見れない。

 知らない間にマリーが成長している。

 もう昔みたいに体調を崩すことは殆ど無くなり、ニコルさんも診察に来なくなった。今の所マリーの弱点は馬車酔いくらいだ。


 昔は成長が遅く、歩くのも喋るのも俺の方が先だったのに。


「じゃあルトガーさんに肥料と煉瓦を貰いに行こっか」


 マリーに促されて歩き出す。


 初めて見たマリーの背中は、大きく、頼もしい。


 でも、遠く感じた。

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