第24話 俺は見回りの仕事を続ける
仮設試合場周囲の屋台を見回り終えた俺達は、続いて馬術施設方面へ足を運んだ。
といっても、馬術施設周辺に有るのは俺の屋台とエマさんの屋台の2つだけで、見るべき物は少ない。
「姉さん、見ました?」
俺は見回りついでに、うちの屋台で働いてもらっている村の先輩方に質問した。
「いえ、今日はまだ見ていませんね。何かあったんですか?」
クロエさんと一緒に応援幕を持って俺の応援をしてくれていた4年生の先輩が、皆を代表して答えた。
俺は手短に事情を話し、姉さんに会ったら俺が探していると伝えるようお願いした。
勿論エマさんも姉さんと会っていないらしい。エマさんも快く俺の頼みを引き受けてくれた。
一通り屋台を巡った俺達は、一旦食品管理部の本部へ戻った。
その道中でも周囲を注意深く観察してその姿を探したが、姉さんもルッツも見つけられなかった。
本部でマルセスさんに見回り結果を報告した後に少し休憩を取り、再度広場に向けて出発する。
特に仕事の無い生徒達が登校して来て、試合開始前の屋台が忙しくなる時間だ。俺も昨日はグッズ販売店で大変だった。
俺達が屋台に到着すると、すでにたくさんの人が広場に集まっていて、美味しそうな匂いが広場内に拡散していた。
混雑しているこの場所で4人が固まって動くのは効率が悪いからと、俺達は3組に別れて屋台の見回りを行った。
俺はマリーと一緒。
俺の斜め後ろを歩くマリーは真剣な目付きでキョロキョロと視線を動かし、周囲の様子を窺っている。
クロエさんやゲラルトさんと別れた事で護衛としての意識が強くなったようだ。頼もしい限りだね。
試合開始の時間となり、今回の見回りも食品管理部としては問題無く終了した。
2度ほど屋台の店員と客が揉め事を起こしたが、それは内容的に警備管理部の仕事だった。
広場が落ち着いたところでそろそろ別の場所へ移動しようかと話していると、「ヘルミーナさんが居ません」とクロエさんが指摘した。
少し遠い位置に有るグッズ販売店に目を向けると、確かにアグネスさんとレオノーラさんしか居ないようだ。
売り切れた品の在庫を本部に取りに行ったのではないか、と俺は昨日働いた経験からそう思ったが、クロエさんはそれに説明出来ない違和感を覚えたらしい。
「じゃあちょっと寄ってくか」
ゲラルトさんの了承を得て、グッズ販売店のアグネスさんに質問してみた。
「在庫品を取りに行ったんだけど」
ああ、やっぱり。
「でももう出て行ってから随分経つのよね。どこで寄り道してるのやら」
あらら。それは話が変わるぞ。
「お客さんもいなくなったし、そろそろ探しに行こうかと思ってたところなのよ」
「そうか。なら俺達が探してやるよ」
ゲラルトさんが口を挟んだ。
「見回りの俺達の方が動きやすいからな。ついでに警備管理部にも声をかけとくか」
「そこまでしなくても。きっと疲れて、サボりたかっただけでしょ」
「いや、ヘルミーナは昨日見回り組だったんだけどな、なんの文句も言わずに1日真面目に働いてたぞ。在庫を取りに行くついでにサボるような不真面目な人間じゃねぇよ」
「ふーん。じゃあゲラルトに任せるわ。もしサボってたら、私が怒ってたって伝えておいて」
「はいはい。怒りを鎮めるには甘いモノがいいぞ、とも伝えておくな」
学年が違うが幼馴染みだという2人は、気安い口調で笑い合っている。
警備管理部の簡易テントには4年生の獣人族、ゲルトさんがいた。ゲラルトさんと名前が似ているややこしい人だ。
「おう、ゲルト。大将はいるか?」
「訓練場の中だ」
「そうか、ならゲルトでいいか」
またまた気安く話しかけるゲラルトさんを、ゲルトさんは嫌そうな顔で睨んでいる。
名前が似ている以外にも、何か俺の知らない因縁が有りそうだな。
「というわけで、うちの1年の行方を一緒に探してくれよ」
「断る。俺達は広場から離れるべきではない」
「今は人が居ないんだから、いいだろ?」
「試合が終われば、また人で溢れる」
「そうか。残念だったなクロエ。ゲルトは協力してくれないらしい」
心底残念そうな声色のゲラルトさんに話題を振られたクロエさんは、驚いた様子で目をパチクリさせていた。そんなクロエさんは抜群にかわいい。
ゲルトさんもその可愛さにやられたようで、うぐっと呻き声を上げている。
「まあ一応言っといたから、気になったらあそこのグッズ販売店でヘルミーナの風貌を聞いてくれや。じゃあな」
くくくっと笑いを噛み締めて、ゲラルトさんは俺達をテントから連れ出した。




