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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第13章
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第23話 俺は同級生の態度に動揺する

 俺が姉さんの不在に気付いたのは、翌朝のラジオ体操が始まってからだった。


 ラジオ体操中、いつもの元気で大きな掛け声が聞こえなかった。


 珍しく寝坊してるのかなとその時は思ったが、アンナさんもこの場に居ない事に気が付いて、俺は漸く姉さんの不在を理解したわけだ。


 しかし、一緒に体操をしている両親には慌てた様子が見られず、その態度が腑に落ちなかった。


「ゲオルグが夕食を食べてる頃にアンナが1度戻って来て、今日は帰れないと言伝てたからだ」


 なるほど。知ってたのなら俺にも教えておいて欲しかったな。


 それで、姉さんはどこで何を?


「経緯はよく分からないが『幸甚旅店』で料理を作っているらしい。朝になったら来てと言われてるから、これから行って様子を見て来る」


 そこはルッツの実家だったはず。様子を見に行くとは言っていたけど、俺も経緯が気になる。


「じゃあひとっ飛び行って来るけど、ゲオルグ、あまり遠くまで走りに行くなよ」


 どうやら俺は連れて行ってくれないらしい。


 まあ父さんがそう判断するのも仕方ないか。マラソンを止めて家の中でじっとしてろと言われなかっただけマシだろう。


「ではゲオルグ様。今日は家の近所を周回するだけにしましょうか」


 マリーの提案に賛同して、俺は護衛のルトガーさんと共にマラソンを開始した。




 登校時間になっても姉さんは帰って来なかった。


 未だ父さんも戻って来ていないから、何がどうなっているのかは全く分からない。


 母さんは「あの人に任せておけば大丈夫よ」と全く気にした様子も無く微笑んでいるが、俺はものすごく気になる。


 出来れば登校前に現状を把握しておきたかったが、もう帰宅を待っている時間は無くなってしまった。


 でも、流石に姉さんも学校には来るよな。姉さんじゃなくても、ルッツを探して事情を聞いてもいい。


 そうしてなんとか気持ちに折り合いを付けて、俺は学校へ向かった。




 今日は大会3日目。3年生が試合をする日。


 朝の食料仕分け作業を終えた俺の本日の仕事は、屋台の見回りだった。


 同じく見回りをするのは、クロエさんと、5年生のゲラルトさんだ。


「2人ともよろしくな。ああっと……そっちの個人戦で優勝した子は、なんて名前だっけ?」


「マルグリットと申します。ゲラルトさん、今日はよろしくお願いします」


「おう、よろしくな!」


 今日は姉さんの代わりに、マリーが護衛を担当する事になった。


 クロエさんが一緒に見回りするんだからマリーは護衛しなくていい。それよりも人手が不安な屋台を手伝って欲しいと願ったが、マリーは首を縦に振らなかった。


 それならば見回りの責任者であるゲラルトさんにマリーの参加を断ってもらおうと思ったが、ゲラルトさんは快くマリーを受け入れてしまった。


「これから開店準備中の屋台を見回って衛生指導をする。まあもう3日目だから、流石に不真面目な屋台は居ないけどな」


 つまり、大会初日でもなければ仕事はほぼ無いという事か。


「日中のバタバタしてる時は手が回らなくなるのか衛生管理が怪しくなるから、そこは注意だな」


 はい、分かりました。


「では、まずは広場の屋台からだ」


 上機嫌に歩き出したゲラルトさんを追いかけるようにして、俺達は食品管理部の拠点を出発した。




 広場をぐるっと見回ったが、ゲラルトさんの言葉通り、特に注意する点は見当たらなかった。


 ゲラルトさんは満足気に頷いている。責任者であるゲラルトさんは、今日も何も無く朝の見回りが終わった事を喜んでいるんだろう。食品管理部員として、俺もその喜びは理解出来る。


 広場の見回りを終えた俺達は、仮設試合場方面に向かう前に、グッズ販売店の様子を見る事にした。


 今日の販売店担当者は、4年生のアグネスさん、2年生のレオノーラさん、そして同級生のヘルミーナさんだ。


 ゲラルトさんとアグネスさんが話している間に、俺は並べられている商品を物色してみた。


 どうやらモーリッツさんやカトリンさんの名前入りグッズは無いようだ。


 流石に食品管理部にばかり有力選手は集まらないか。


 あれ?


 グッズから視線を動かすとヘルミーナさんの視線とぶつかったが……目を泳がせて視線を外されてしまった。それはもう、誰が見ても明らかな動揺だった。


 そういえば、朝の仕分け作業中に挨拶をした時も、いつもの朗らかな雰囲気と違ったような。


「あの、何かありました?」


「えっ、いや……私は仕事で忙しいのです!すみません!」


 ヘルミーナさんは急に屈み込んで、屋台の内側に置かれた在庫品をガサゴソと弄り始めた。


 もうグッズ販売店の売り場には商品が満載されていて、在庫品を置く隙間なんてどこにも無いのに……。


 これは避けられてますね。


 別に知らない人間から避けられるのは構わないんだけど、同級生で同僚の子から理由も無く避けられるのはズキンと心に来る。


「ちょっ「おい、ゲオルグ!次に行くぞ!」」


 ヘルミーナさんへの追求を続けようとした俺の声は、ゲラルトさんの元気な声で上書きされてしまった。


 俺がグッズ販売店から立ち去った後、ヘルミーナさんが安心した様にほっと息を漏らしていた、と広場を出たところでクロエさんが教えてくれた。

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