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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第13章
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第18話 俺は姉さんに追随する

 広場に届く複数の爆発音。


 爆発で身を削られた積乱雲の悲痛な叫び声を想起させる雷鳴。


 徐々に薄くなっていく雨音と白い霧。


 観客達は相変わらず盛り上がっているようだが、時々歓声に悲鳴が混じっている。きっと応援するクラスの大玉が破壊されたんだろう。


 試合が始まって以来パタリと客足が途絶えた広場の屋台従業員達は、雑談に興じながら目線を訓練場の上空に集め、試合の決着を待っている。


 現状閑散としてしまっている広場だが、それも1つの試合が決するまでらしい。試合間の短い休憩時間を利用して、選手や観客達が広場に姿を見せるようになるからだ。


 そのため屋台の人々は、試合終了に合わせて料理を提供出来るように、訓練場の動向に注目しているのだ。




 訓練場上空に停滞していた積乱雲が全て吹き飛ばされ、そろそろ勝敗が決する頃合いかなと思っていると、見知った顔の連中が訓練場とは逆方向から広場に現れた。


 ルッツと、ペーターと、ロジーネの仲良し3人組だ。


 3人に会うのは昨日の祝勝会以来となる。今まで会わなかったのは、彼らが馬術施設か仮設試合場で観戦していたんだろうか。


 それにしても、昨日の去り際にアレだけ念押ししていたルッツなら、父さんとの話し合いがどうなったのかを気にして、朝イチで俺のところへやって来そうなものだが。


 俺が馬術施設の屋台の方に居るとでも思ったのかな?


 まあ早く来ようが遅く来ようが、俺の答えは変わらないわけなんだが。


「やあやあゲオルグの友人諸君!朝っぱらから元気が無いぞー!」


 いつの間にか販売店を飛び出していた姉さんが、まだ遠くの方に居る3人の下へ駆け寄って、大きく朗らかな声で話しかけていた。


「え?なになに?……ふむふむ……なるほどなるほど」


 姉さんの相槌がうるさい。


 3人の声は全く聞こえないのに姉さんの声だけ明瞭に聞き取れるってどういう事だよ。間近に居る3人の鼓膜が心配だわ。


 というか、俺の護衛はもう飽きたのかな?


「それはそれは……うんうん……そっかそっかー」


 凄く気になるんだけど。


 俺も販売店を抜け出して近くに行きたいんだけど。


「ゲオルグ。そろそろ訓練場から人が出て来るから、ダメだよ」


 何も言っていないのに、アグネスさんが渋い顔で釘を差して来た。


 そして、アグネスさんの言葉が引き金となったかのように、訓練場からぞろぞろと人が溢れ出して来る。


 屋台の店員達が一斉に声を張り上げ、自分達の料理を売ろうと動き出す。


 その騒音が姉さんの声を掻き消し、人流が4人の姿を覆い隠す。


 グッズ販売店にもお客さんがやって来た事で、俺はそれの対応に追われる事になった。


 イルヴァさんのグッズを買って行ったお客さんの1人が言うには、イルヴァさんの組が5対4で辛勝したらしい。お客さんはその試合で活躍したイルヴァさんのファンになったようで、「午後の個人戦も楽しみだ」と笑っていた。




 次の試合が始まって再び広場に静寂が訪れると、姉さんがルッツ達を連れて販売店に戻って来た。


 3人に向かって「おはよう」と言葉を投げかける。3人はそれぞれの調子で挨拶し返してくれたが、ルッツの声からは昨日までのような勢いを感じられなかった。


「アグネスごめーん。ちょっとだけ、ゲオルグ借りていい?」


「えっ、でも……」


 いきなり猫撫で声の姉さんに話しかけられたアグネスさんは、目を白黒させて返答に窮している。


 試合中は広場から客が居なくなるとはいえ勝手な行動はさせられない。しかし姉さんからの願い事を無碍には出来ない。そんな心理が鬩ぎ合っているんだろうか。


「ごめん、あとで甘くて美味しいモノ奢るからさ」


「えっ」


 アグネスさんの目の色が少し変わった……気がする。


 姉さんはその反応を了承と捉えたらしく、意識をもう1人の店員へと向けた。


「モーリッツもそれで良い?」


「ええ、甘い物は好きなので」


「ありがとう。じゃあゲオルグ、こっちに」


 姉さんの暴走は俺では抑えられないんです。すみません。


 2人に頭を下げたのち、俺は姉さんに従って広場の端っこへと歩を進めた。




 で、これから何が始まるのかな?


 俺の質問に答えたのは、いやに真面目な顔をしている姉さんではなく、いつもの元気が無いルッツだった。


「今朝うちの宿屋に警備隊がぞろぞろとやって来てさ。宿屋内を調べられて、俺を含めた従業員全員が聴取を受けて、それでバタバタして登校が遅くなって、2人は俺に付き合ってくれて……」


 ぽつぽつと事情を話すルッツの言葉に、俺は驚かされた。


 宿屋に警備隊って、それってエーデの?


「そう。王都内は狭いね。まさかゲオルグの友達が関わってたとは」


「お、俺達は何もしていない!何も知らない!それなのに……うちも、金福旅店みたいになるのかなって……」


 興奮したり、項垂れたり、ルッツの感情が荒ぶっている。まあまあ落ち着いて。


 ペーターとロジーネはルッツの背中を見守るばかりで、特にルッツの気持ちを宥めようとはしてくれない。ルッツとどう接したら良いか、2人も迷っているんだろうか。


「大丈夫。何も包み隠さずに捜査協力したのなら、絶対に父様が悪いようにはしないから。ねっ、ゲオルグ!」


 何を根拠にそう言い切れるのかは分からないが、俺はルッツを元気付ける為に「ああ、絶対に大丈夫さ」と姉さんに追随した。

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