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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第13章
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第16話 俺はグッズ販売店の売り子をする

 食品管理部が管理するグッズ販売店は、多くの屋台が立ち並ぶ広場の片隅に居を構えていた。


 グッズ販売店は4年生のアグネスさんを責任者として、他2人の部員が日替わりで働く事になっている。今日の担当は俺と、3年生のモーリッツさんだ。


「グッズの値段表がコレで、グッズの在庫は足元の箱ね。屋台には各グッズ2箱ずつ置いておくようにしてあるから、1箱売り切る毎に、教室に保管してある在庫を1箱分持って来るように。分かった?」


「はーい!了解です!」


 元気良く返事をした姉さんがにこりと笑いかけると、販売店の説明をしていたアグネスさんの目が激しく泳ぎだした。


「ええっと……」


 そんな縋るような目で俺を見られても困る。俺の意思では姉さんは動かないんだから。


「いやー、楽しみだなー。やっぱり食べ物を扱う屋台とは勝手が違うのかな?」


「え、ええ。1番大きな違いは『調理技術が必要無い』という点でしょうか。売られているグッズの使い方を説明する手間は有りますが、それでも食べ物の屋台を運営するよりは格段に楽だと思います」


「うんうん、グッズは出火や食中毒に注意する必要も無いしね!どうして今までこういった屋台が生まれなかったのか、不思議なくらいだよ!」


陽気に話す姉さんに怖気付きつつも、アグネスさんはなんとか言葉を紡ごうとする。


「しかし、こういったグッズを大量生産出来る組織はそう多く有りません。扇子だけ、綿布だけ、帽子だけならまだしも、光や音を出す魔導具までも纏めて揃えられるのは……」


「あはは、それは確かに難しいかもね。でも来年以降は、食べ物以外の屋台ももっと増えて欲しいなー。ゲオルグ、何か面白い屋台案は無いの?」


 上機嫌にアグネスさんとの会話を楽しんでいた姉さんが突然振り向いて俺の顔を覗き込んで来た。


 き、きゅうに面白い屋台って言われても……案が無いわけじゃないけど……


「うんうん、なんだいなんだい?」


 ええっと、的当てはどうかな?


「まとあて?……それは、魔法を放って目標を破壊しろってこと?ちょっと危険じゃない?」


 破壊までやらせると危ないけど、柔らかい素材で作った球を投げたり、鏃を柔らかい物に代えた矢を射ったり、的に当てるだけの遊びにしたらいいんじゃないかな。で、的に当たったら景品を貰える、と。


「ふむふむ。弓術は選択授業だから、習ってない生徒が不利になっちゃうね。それを考慮したら球投げ1択だけど……流石に屋台1店舗分の広さなら簡単に当てられちゃうよね。2、いや3店舗分くらいの奥行きが欲しいかな……」


 奥行きも大事だと思うけど、的が上下左右に動くだけでも、難易度は跳ね上がると思うよ。


「上下左右……なるほど。それなら的を動かす魔導具を用意した方がいいか……店員が手動で的を動かすのは、なんとなく不公平だもんね。なるほどなるほど」


 姉さんは顎に手を当てて黙り込んでしまった。何かを考える時に顎に手をやる仕草は、姉さんの中で流行っているんだろうか。


 さて、姉さんはこのまま放置して、開店準備を進めましょう。


「ええっと……本当に、このままで大丈夫なの?」


 真面目ぶった顔で行動を停止した姉さんに心配そうな視線を送るアグネスさんを説得して、俺達は販売店の準備を再開した。




 大会2日目の今日、試合に参加するのは2年生だ。


 販売店で売られているグッズには訓示や風景などを描いた物や無地の物も有るが、活躍するであろう選手の名前やクラス名を明記したグッズも売られている。


 売られているんだから、誰だって自由に購入する権利が有るんだけど……


「これください」


 本日試合に出場する試合管理部2年生の魚人族、おっとり気質でちょっと不思議なイルヴァさんが開店直後にやって来て、朗らかな笑顔で、とある商品を指差した。


 それはスポーツタオルサイズの綿布。洗濯バサミのような道具を使って、店舗の外壁に沢山吊り下げられている見本品の1つだった。


「本当にコレで良いんですか?こっちのキュステ沖の風景を描いたタオルも、イルヴァさんに似合うと思いますが」


 俺は無駄な親切心で穏やかな海の絵が描かれている商品を進めてみたが、「こっちがいいんです」とイルヴァさんは笑みを崩さずに自分の意志を貫いた。


 イルヴァさんが所望するなら仕方ないが、俺にはちょっと理解できない。


 だってその白地のタオルには、深い海のような濃い青で、イルヴァさんの名前と応援文句が描かれているんだから。


「こんな機会が無いと、自分の名前が描かれた商品なんて手に入りませんよね。あ、それと、扇子と団扇も頂けますか?」


「そっちもやっぱり、イルヴァさんの名前入りのやつですよね?」


「はい。家族へのお土産にいくつか購入します」


 うーん。やっぱり俺にはちょっと理解出来ない。


「そういえば、イルヴァさんって去年の大会ではどの程度活躍したんですか?名前入りグッズが作られてるって事は、それなりに活躍したんですよね?」


 俺はイルヴァさんの希望通りの商品を麻の小袋に詰めつつ質問してみた。


 グッズ販売を企画したのは俺だけど、商品作成には関わっていなかったので、どういう基準で名前入りに選ばれたのか知らなかった。


「ふふ、恥ずかしいので秘密です」


 うっすらと頬を赤くしたイルヴァさんが代金と交換に麻袋を受け取ってその場を立ち去ろうとしたが、


「あっ、伝言を頼まれていたのでした」


 何かを思い出して立ち止まった。


「造船所のリオネラさんが、『お姉ちゃん達の槍は作ったのに、私の腕時計はまだなの!?』とお怒りでしたよ」


 あっ、しまった。リオネラさんの依頼、忘れてた。


「ふふ、今は大会で忙しいのでと伝えて有りますが、『なるべく早くね!』と仰っていました」


 はい、頑張ります。伝言、ありがとうございました。


「いえいえ。それと、例の一文字槍ですが、今日の試合で……あ、並んでますね。では失礼します。また後ほど」


 別の魚人族のお客さんがリオネラさんの後ろに並んだのを機に、リオネラさんは立ち去って行った。


 今日の試合で、なんですか?


 そんな疑問を口に出す暇も無く、俺は新たなお客さんの希望に従って、リオネラさんの名前が描かれた扇子を在庫から引っ張り出した。

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