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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第13章
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第13話 俺は姉に話を切り出される

 マリーの祝勝会を終えて鷹揚亭から帰宅すると、可愛い妹達が俺達の帰りを待ってくれていた。


 瞑りそうになる瞼を必死に持ち上げている2人は、立ったままでも眠ってしまいそうな状態だったが、俺達の試合結果を聞くまでは寝ないと頑張ってくれていたようだ。


 そんな2人をこれ以上休ませないのは忍びない。帰宅が遅くなると2人に伝えていなかった事を悔やみながら、出来るだけ手短に自分とマリーの試合結果を説明した。


「兄様、ざんねん。でも、マリーおめでと」


「うん……マリー……おめでとう……」


 普段から落ち着いているサクラの口調はいつもと然程変わらなかったが、カエデは明らかに元気が無く、電池が切れる寸前のなんとか前に進もうとする時計の秒針のように、途切れ途切れになりながらも必死に自分の感想を口にしていた。


「大丈夫か、カエデ。待っててくれてありがとう。もう寝ような」


「うん……兄様…………」


 しかしカエデは何かを言いかけた途中でついに力尽き、前方に倒れ込みそうになったところを横に居た母さんに抱きかかえられ、母の腕の中で安らかな眠りに落ちた。


 カエデの穏やかな寝顔を確認したのち、俺はしゃがんでもう1人の大事な妹と目線を合わせ、その小さな頭に手を伸ばした。


「遅くまで起きていてくれてありがとう。応援幕も、ありがとう。おやすみ、サクラ」


「うん。おやすみ。おきたら、カエデにも」


「ああ。明日起きたら、ありがとうって言うからね」


 応援幕を作ってくれたお礼を言う前に力尽きたカエデを想うサクラの優しさに感極まりつつサクラの頭を撫でてやると、サクラは嬉しそうに口角を持ち上げた。


 サクラを愛でる儀式が終わると、サクラもカエデのように母さんに抱き上げられて寝所に運ばれていった。


 明日起きたら朝一番に、必ず2人に御礼を言おう。


 お礼を言われて喜ぶ2人の笑顔を想像しつつ、俺も風呂に入ってさっさと寝ようかなと考えていると、


「ゲオルグ、ちょっと話、いい?」


 とサクラと俺のやりとりを朗らかな笑顔で見守っていた姉さんに声を掛けられた。


 因みに父さんは祝勝会が終わった後も鷹揚亭に残って1人飲み続けている。父さんは俺達を介してルトガーさんに迎えを頼んでいたから、完全に酔い潰れて独りでは帰宅出来なくなるまで飲み続けるつもりなんだろう。マリーの優勝の他にも心を動かす何かが有って、それで飲みたい気分になったに違いない。


 でも、俺達と一緒に帰っていたら、カエデとサクラの健気な姿を見られたのに。俺は酒を呑んだ事が無いけど、2人の姿は多分、お酒を呑みまくるよりも心が満たされる事なんじゃないかな。いや、実に勿体無い。


 そんな大事な場面を見逃した父さんの事はさておき、俺は風呂の順番をマリーに譲って、姉さんに連れられて食堂へ向かった。


 同行したクロエさんが飲み物を用意してくれているのを待たずに、姉さんは話を切り出した。


「今日ゲオルグを2回も襲った犯人なんだけどね。無事に捕まえて、警備隊に突き出しておいたから」


「え?」


 想定外の話を切り出されて、俺の頭は直ぐに対応出来なかった。


「なんだ。殴られた事はそんなに気にしてなかったんだね。それならいいんだ。思い出させちゃってごめんね」


「あっ、いや。急に言われて驚いただけで……それで、そいつは何処の誰なの?」


「それがその子は何も喋らなくてね。取り敢えず警備隊に引き渡して、そっちで調べてもらってる。明日の午前中に1度警備隊に顔を出すつもりなんだけど、ゲオルグも一緒に行く?」


「あーー、気にはなるけど、午前中は食品管理部の仕事が目一杯有るから、抜けられないかな……」


「それなら学校へ行く前に顔を出そっか。早朝でも夜勤の人が居るだろうから、詰所までマラソンしてもいいしね」


「うん、じゃあそれで……でも、本当にその人が犯人なの?」


「ゲオルグが襲われた現場を見ていたクロエが、しっかり顔を覚えてたから、ね!」


 姉さんに同意を求められたクロエさんは、運んで来た紅茶を俺達に差し出しつつ「間違いありません」と自信たっぷりに答えた。


「まあ目撃証言以外にゲオルグを攻撃した証拠は無いんだけどね。その子は黙秘を貫いてるし。で、その子は校舎の裏手に有る藪に隠れていたみたいで、そこから飛び出して来たのを私達が偶然見つけて捕縛したんだ。教師でも生徒でもない人が学校内に身を潜めているってだけで十分罪でしょ。だから、ここは不法侵入罪で警備隊に引き渡して、それから余罪を追求したらいいってデリアが」


「デリア……って、ダミアンさんの娘さんだっけ?」


「そうそう、デリアは私と同い年で、武闘大会では警備管理部の部長をやってるよ」


 そういえば、未だにデリアさんなる人物に出会った事が無い気がする。警備管理部員には何人か会ったけど、あのちょっと面倒なゲルトさん達を束ねる人物とはいったいどんな人なんだろうか。


「じゃあ明日の朝はそれで」


「うん。出来れば父様も連れて行きたいんだけど、二日酔いで動けないかもね」


 今日はもうブレーキを踏むつもりが無いみたいだからな。父さんには期待せず、母さんに同行を頼んだ方が良いかもしれない。


「犯人の話はこれで終わりね。で、また別の話になるんだけど」


 クロエさんに紅茶のおかわりと甘い御茶請けを要求した姉さんは、


「ルッツだっけ?あの子達の希望を叶える一案が有るんだけどね」


 と微笑みを崩さずに再び話を切り出した。

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