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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第13章
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第12話 俺は父親にお礼を言う

「じゃあな、親父さんにちゃんと話しといてくれよな」


 俺の父親が酔い潰れて寝入ってしまい、屋台料理に関する話が出来ずに気落ちしていたルッツだったが、宴もたけなわとなってそれぞれの家に帰る頃には幾分元気を取り戻していた。


「明日の朝、二日酔いで寝込んでなければね」


 少し戯けて返答すると、ルッツは力無く笑ってくれた。


「大人には飲みたい時が有るらしいからな。うちの宿屋の朝も二日酔いの客ばかりで大変なんだ。まあ……近日中に頼むよ」


「うん、了解。夜道には気を付けて」


「ああ。でもこっちには、1人で3人を制圧出来る猛者がいるからな」


「魔導具はもう返してしまったので、今の私はか弱い乙女です。それに、貴方の宿と私達の学生寮は方向が真逆なので、一緒に帰る事はありません。お気を付けてお帰りください。それではお先に失礼します」


 巫山戯るルッツに優雅な一礼してみせたエルゼは、同じ学生寮に帰る人達を連れて、さっさと鷹揚亭を出て行ってしまった。


 ルッツが試合の話をした直後は随分と心乱されていたエルゼだったが、ルッツの軽口に惑わされないくらいエルゼは平静を取り戻したようだ。個人的にはころころと表情を変えるエルゼに好感を持っているが、彼女自身はそれを是としていないらしい。


「ったく、愛想が無いねぇ。せっかく仲良くなったんだから、もうちょっと愛嬌よくしてくれても良いのにな。じゃ、俺達も帰るわ」


 ルッツはベーターとロジーネを連れて鷹揚亭を出る。


 ペーターも学生寮で暮らしているらしいが、今日はロジーネを家まで送り、ルッツの家に泊まるそうだ。仲が良いのは良い事だな。


 これで鷹揚亭に残っているのはミリーとアランくん、そして俺達フリーグ家の面々だ。ミリー達は住居が隣同士だから一緒に帰る算段なんだけど……。


「眠りこけている父さんはどうしようか。このまま置いて帰ってルトガーさんを迎えに送り出すか、それともマリーの魔法で運ぶ?」


 カウンターに伏して寝入っている父さんを面倒に思いつつその処遇について切り出すと、マリーが眉をひそめて反応した。


「それは……本人に決めて貰いましょう」


 するとマリーは丸まっている父さんの背中に向けて言葉を投げかける。


「男爵様、もう宜しいですよ」


 その言葉を合図としていたのか、丸まっていた体がびくんと蠢く。


「おう、ありがとな」


 マリーに返答した父さんは徐に体を起こし、席に座ったまま両手を頭上に突き出してゆっくりと背中を伸ばす。


「エマちゃん、ビールおかわりね。つまみは何か魚系の物を」


 軽やかな声で追加注文をした父さんは、普段の酒に酔い潰れた父さんとは明らかに違っていた。


 ふーーん。ルッツ達と話したくないからって、寝たふりしちゃうんだ。


「おいおい、ゲオルグ。俺はそんな怖い表情を教えた覚えは無いぞ。ほら笑って笑って。男は愛嬌って言うだろ?」


 お手本とばかりに、父さんはにんまりと口角を上げた。


「どうせ料理の件を俺の一存では答えられないんだから、無難にやり過ごすには寝たふりが1番だろ。で、ゲオルグ達はもう帰るのか?」


 新しいビールをエマさんから受け取った父さんは、それをぐびっと飲み下して更に笑顔になる。


「帰らないのなら、マリーの優勝祝いをするぞ」


 父さんは俺達に返答する暇を与えず、更に言葉を続ける。


「だいたいマリーが優勝したおめでたい夜だってのに、マリーを独りぼっちにするなんて俺は信じられないぞゲオルグ。今からでもしっかりと祝ってやるべきだと、俺は思っている」


「あ、いえ、私は」


「遠慮する事は無いぞマリー。マリーには祝われる権利が有り、一緒に暮らしている俺達にはそうじゃないマルテ達に代わってマリーを祝ってやる義務が有るんだ。いや、義務って言うと嫌々やってるっていう雰囲気が出るけど、本心で祝いたいと思っているんだからな」


「はい、ありがとうございます。男爵様の気遣いを大変喜ばしく思っています」


 綺麗に腰を折ってマリーが礼をすると、父さんは満足そうに頷いてまたビールを口に運んだ。




 結局父さんに押し切られて、マリーの優勝を祝う祝勝会が開かれることになった。


 先程まで騎馬戦の祝勝会で使っていたテーブル席を整理し直して、父さんや姉さん達が皿や杯を持ってこちらに移って来る。


 俺達家族だけじゃなく、帰宅する気を逸したミリー達も会に参加している。金の心配なんてしなくていいと父さんが伝えたおかげかもしれない。


「突然開かれる事になった祝勝会ですが、ご参加頂いた皆さんにはお礼を申し上げます。優勝までに対戦したゲオルグ様や同級生の名誉の為に、最終日に行われる学年対抗戦でも力を尽くしたいと思います」


「うむ、マリーが活躍出来て俺は嬉しいぞ。観戦に行けないのが本当にざ。ゲオルグの分まで頑張ってくれ!」


 皆に向かってマリーが如才無く挨拶し、また新しく届いたビールを掲げた父さんがそれに応じる。


「さあみんな、好きに飲み食いして、マリーと語らってくれ。閉店まではまだまだ時間が有るんだからな!」


 これから閉店まで居座るつもりかよ。


 まあでも、俺だってマリーの優勝を祝いたいと気持ちは有ったからな。


 寝たふりに使った時間を取り戻すかのようにがぶがぶとビールを煽る父さんに嘆息しつつも、マリーの祝勝会を開いてくれた優しい父へお礼を言う事にした。

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