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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第13章
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第9話 俺はエルゼ視点で試合を振り返る

 訓練場に入場したエルゼは、熱気渦巻く観客席を見上げていた。


 観客達に晴れやかな笑顔で愛想を振りまくミリー達とは対象的に、エルゼは真剣な面持ちでその赤い双眼を観客に向けている。


(この中に、あの方がいらっしゃれば……)


 期待と不安が綯い交ぜになった内心を無理矢理押さえつけて、エルゼは屋台で出会った帽子の子を探していた。


(あの話が上手く行っていれば、観客席に居て何やら大きな布を掲げているという話でしたが……なるほど、アレですね)


 エルゼの視線の先には白地に赤い縁取りがされた大きな布が有った。選手に見えるようにその布を持ち上げているのは3人。その中央の陣取って選手達に片手を振っている人物こそが、エルゼに希望を与えた帽子の子であった。


(そうですか、騎馬戦の結果は覆らなかったのですね。これで、イーナ達も安心して行動出来ます。本当にありがとうございました)


 エルゼは帽子の子から見えるように両手を思いっきり振った。それは帽子の子を見つけた合図であり、帽子の子に対する返礼であった。


 両手を振るエルゼを見つけた帽子の子も、お返しとばかりに両手を振っている。持っていた布は両脇の2人に支えられ、ゆったりと風に靡いていた。




「おいエルゼ。随分と陽気だな」


 試合開始前に両組が整列すると、カーステンがエルゼに話しかけて来た。エルゼはあえてカーステンと距離を取って並んだのだが、カーステンはわざわざエルゼの目の前に移動して来たのだ。


「観客に愛想を振り撒くくらいなら、俺にも振り撒いてくれよ」


 ニヤニヤと表情を崩して、カーステンは楽しそうにしている。


 何がそんなに楽しいのか理解したくもなかったエルゼは、口を真一文字に結んでカーステンから目を背けた。


 その視線の先に居た1組の女の子と偶然目が合うと、女の子は肩をすくめて眉尻を下げてみせた。エルゼにはその行動が、カーステンを非難しているように見えて、少し気分が楽になった。


「ふんっ、まあいい。どういう結果になるか、期待してるぞ」


 審判が1分間の試合準備開始を告げて選手達が自陣に下がり始めるまで、カーステンはその印象の悪い目付きでエルゼを見続けていた。




 試合は10組の優勢で進んでいる。たった今、10組が1組の2つ目の大玉を破壊したところだ。


 八百長を依頼されているヴィムはこの状況をヤキモキしている事だろう。


 しかし、エルゼはこれを楽しんでいた。


(先程使わせてもらった嵐球の魔導具は、不勉強な私でも理解出来るほどに強力な風魔法でした。私の才能では一生かかっても使えない魔法でしょう。やはりゲオルグの魔導具は素晴らしく、無能と称されるべき人ではありませんね)


 顔が綻びそうになるのを抑えながら、エルゼは別の魔導具に魔力を込める。エルゼが保持する魔力は少量なれど、防衛用の魔導具を再利用するには不自由しなかった。




「おい!何やってんだお前!」


 ヴィムの叫び声が訓練場内に木霊する。怒声を向けられたゲオルグは、1組の大玉をじっと見つめて固まっていた。


「お前がぼーっとしてる間に、大玉が1つ壊されたぞ!」


 魔導具で作り上げた炎の壁が消失した隙を突かれて、こちらの大玉が破壊されたのだ。消失する前に壁を張り直すという話であったから、それを違えたゲオルグの行動に、ヴィムは戸惑っているようだった。


(八百長したがっているヴィムにとっては喜ぶべき状況ではないのでしょうか?)


 エルゼはヴィムの内心を訝しみながら、飛来して来る火球を迎撃していた。


 ヴィムと数回言葉を交わしたゲオルグが改めて水の壁を作り出して1組の攻勢が少し弱まったが、これで戦況は2対1となった。




 時間は進み、ミリー達5人が協力して作った雷槍が大玉を穿ち抜いた。これで3対1。


 新しく風の壁を作り上げたゲオルグと相談したヴィムは、これからは防御重視で行くとエルゼ達13人に向けて宣言する。なぜか1組の攻撃の手が緩く、このままでは勝ってしまうとそろそろ焦ったようだ。


 八百長に反対するミリー達5人はヴィムの指示など聞く気も無く、水壁の前に陣取って攻撃を繰り返していた。


「残り5分!」


 風魔法で拡散された審判の声がエルゼの耳にも届いた。


(あと5分。ここでヴィムを裏切ってミリー達と一緒に攻勢に出るのはどうでしょうか。まだ様子を見るべきか、迷いますね)


 このまま10組が勝利してしまえば、エルゼ達がカーステンの指示に抗う必要は無いのだが、エルゼは穏便に済ませるつもりは無く、なんとかしてカーステンに一矢を報いようと心に決めていた。


(ですがやはりここが良い頃合いで……え?)


 思案に耽っていたエルゼはイーナに声をかけられて現実に引き戻される。周囲はざわつきながら、イーナが指差すところと同じ地点に目を向けている。


 ふわり、ふわり。


 少しだぼっとさせた衣を優雅に靡かせながら、同学年魔力検査1位の人物が、空へと登っていた。

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