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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第13章
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第8話 俺はカーステンの虚言を聞く

「貴女達はこちらに付くべきでは無かったと私は考えています。特にイーナ、貴女は1度ミリー達を裏切っているのですから、これ以上罪を重ねてはいけなかったのです」


「申し訳ありません……しかしカーステン様が、エルゼ様の手助けをしないと全てバラすからなと……なので」


「はぁ……またカーステンですか……」


 試合開始時間が迫ったために控室から訓練場へ移動している最中、騎馬戦参加者から離脱した同郷の3名と小声で話し合っていたエルゼは、不快な親族の名を聞かされて深く溜息を吐いた。


「しかしそれはイーナだけの事情でしょう。貴方達が裏切った理由は、やはりお金ですか?」


 両眼に涙を浮かべて陳謝して来るイーナから一旦目を逸らし、エルゼは2名の男子に質問した。


「それも有りますが……イーナから話を聞いて、エルゼ様とイーナの為にと」


「俺もそうです。これ以上イーナ1人に重荷を背負わすわけにはいかないので。金は……二の次です!」


「貴方達の考えは分かりましたが、少し声量を落としましょうか」


 興奮して声を荒らげそうになった男子を制しながら、エルゼは周囲の様子を窺った。


 エルゼ達は訓練場へと向かう集団の最後尾に陣取っていたが、誰も後ろのエルゼ達を気にしている様子は無かった。前方を歩く者達は皆、最前列で交わされている試合管理部員とゲオルグ達の会話に集中しているようだ。


「ふぅ……大丈夫なようですね。ところでイーナ。貴女はカーステンの恐嚇に抗う事が出来ますか?」


 イーナは質問の意図を汲み取れなかったようで、涙が溜まった目を瞬かせていた。


 エルゼがもう1度話しかける。それでなんとか内容を理解出来たイーナは首を横に振った。


「私がカーステン様の意思を蔑ろにすると、エルゼ様が」


「私の事は考えなくて大丈夫です。私を抜きにして考えてください。カーステンに反抗すると、何か貴女に不都合が生じますか?」


「それは……わかりません。おそらく何か、厳しい罰を与えるかと思われますが」


「そうですか。ところでもう1度確認しますが、カーステンは今回の件で貴女に『エルゼの手助けをしないと全てバラす』と言って来たんですよね?」


「はい……申し訳ありません」


「謝る必要は無いので、しっかりと思い出してくださいね。その前の、カーステンに騎馬戦の秘密を話す事になってしまった原因は何でしょうか?話さなければ家族に危害を加えるとでも言われましたか?」


「いえ……準決勝再試合が終わった後に『第3王子の部隊を打ち破るとは、エルゼの邪魔をするつもりか!』と恫喝されました……それで」


(いつも私に絡んで来て、邪魔をしているのはどちら様でしょうね)


 こちらの反応を窺っているイーナにエルゼはゆっくりと頷いてみせ、そのまま話を続けるように促した。


「それで『北方伯は今後、第3王子と友誼を結ぼうとしている。その役を俺とエルゼが担い、第3王子に勝利を献上する予定だった。しかしお前達は第3王子に勝利してしまい、その役を果たそうとするエルゼの邪魔をしてしまったのだ。これはエルゼにとって良くない結果だ。お前も、エルゼの成功を願っているのだろ?』と諭すように言われて……」


「はぁ……」


 エルゼが思わず漏らしてしまった溜息に、イーナが肩を震わせて反応する。


(第2王子を産んだ第2妃は、現北方伯が大切に思っている姉君ですよ?そんな縁が有るにも関わらず、どうして北方伯が、第2王子と次期王位を争う関係の第3王子と、友誼を結ぶ必要が有るのでしょうか。私もそんな役を頂いていませんし、これは明らかにカーステンの虚言です。農家の娘として生まれたイーナであれば、他の2人よりもそういった知識に疎いと考えたのでしょうね。その目論見は当たってしまいましたが)


 虚言を使ってイーナを惑わそうとした親族の性根の悪さに辟易としながらも、エルゼは「なんでもありません。続きをどうぞ」とイーナに微笑みかけた。


「カーステン様は『今まで俺はエルゼに色々とちょっかいをかけて来たが、今回の北方伯の希望を叶える為に俺は心を入れ替え、エルゼに謝罪し、共に手を携える事にしたのだ。勿論、お前達にも謝罪しよう。それで、もしお前がエルゼを慕っているのなら、エルゼに力を貸してやって欲しい。第3王子に勝利を譲れば、それがエルゼの貢献に繋がるはずだ。何か、この結果を覆せる情報を持っているなら教えて欲しい』と頭まで下げて懇願されまして……」


「それでカーステンに共感して、秘密を話してしまったというわけですか。貴女は感受性が豊かなのでしょうね。それに記憶力も良い。今の話ぶりも、カーステンの姿が目に浮かぶようでした」


「いえ……褒められるような事は何も」


「いえ、貴女の家族が人質に取られているといった状況では無いと分かりました。これはとても大事な事ですので、貴女のお陰でしっかりと確認出来て良かったと思っています。貴方達も、大丈夫ですね?」


 黙ってイーナの話を聞いていた2名は首肯で返した。


「よろしい。ではカーステンの要求通り、貴女には『私の援護』をしてもらいます。それと、もし貴方達がお金に執着していないのであれば、イーナを助けてあげてください」


 エルゼは少しだけ歩みを緩めて前を歩く集団から距離を取る。


 イーナは何も言わず、エルゼと歩調を合わせた。2人の男子もイーナから離れなかった。


(ふぅ。こちらはようやく作戦会議です。そちらはもう結果が出ている頃でしょうか)


 エルゼは更に声を潜めて、屋台で出会った帽子の子から授けられた作戦をエルゼ達に説明した。

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