閑話 アマちゃんのご褒美
最近マギーが良く笑っています。
笑えるというのはとてもいい事です。
暗く落ち込んでいる暇があったら笑うべきです。
ですが。
「笑うのとニヤニヤするのは違いますよ」
「なんだよ急に。にやけてなんかいないだろ」
そんなに頬をヒクヒクさせてたら説得力無いですね。
そんなマギーに収穫されたばかりの枝豆がいっぱい詰まった段ボール箱を見せてみましょう。
「おおっ」
そこまで興奮する食べ物でしょうか。私もずんだ餅は好きですけどね。
段ボール箱をさっと隠してみましょう。
「ああっ」
眉毛がへの字になってますね。そんなに顔芸が得意だとは知りませんでした。
出して、引っ込めて。出して、引っ込めて。
ぷぷぷ、こっちも笑顔になってしまいますね。
「ちょっとアマちゃん、ニヤニヤして子供みたいな意地悪するなよ」
にやけてませんよ、満面の笑顔です。
「前は食べ物を欲しがったりしなかったのに、どうしてそんなに枝豆を気に入ったんですか?」
「それがさあ、桃馬が持って来てくれた枝豆が美味しくてな。枝豆って夏から秋にかけての収穫だろ。冬の間は我慢できたけど、もう待てなくなっちゃって」
「桃馬さんも余計なことしてくれますね。まあこっちはハウス栽培でほぼ年中収穫できますからね」
「こっちも温室で育ててるんだけど、収穫数がまだ少なくてお供えされないんだよ」
「さっさと工業化させないからそうなるんですよ。マキナの所から腕の良い技師を転生させたらどうですか」
「何人か来てもらったけど、地球みたいに定着しなかったんだよ。みんな魔導具研究に興味を持っちゃったからな。最近来た子はまだ子供だし」
「異世界人の興味を引くものが地球に無くてすみませんね」
「そんなこと言ってないだろ。地球には美味しい食べ物が沢山あるよ」
沢山作れるようになったのは工業化したお蔭ですけどね。工業化が始まったのは私の担当区域外ですから、大ぴらには自慢しにくいんですが。
ま、地球にも魔法的な物は有るんですけどね。ふふふ、私が隠しているだけですよ。
「じゃあこれを持ってさっさと帰って下さい。ちゃんとシュバルトにも分けてくださいよ」
「おう、ありがとう」
そんなに段ボール箱を大事そうに抱える人もいないでしょうね。
「この前枝豆を渡してから1週間も経ってないんですけど」
マギーがまたやってきました。今度はシュバルトも一緒です。
「ごめん、食べ過ぎた」
マギーが謝り、シュバルトが少し怒ってますね。はあ、状況は理解出来ました。
「最初から二つに分けておくべきでした。シュバルト、すみませんね」
「いや、こちらも何度も頼みごとをして申し訳ない」
「しかし、何度も無償で渡すわけには行きません。私とゲームで勝負して勝ったら枝豆を用意しましょう」
丁度暇をしていたところなので、付き合って貰いましょうか。
「なんでもいいぞ。じゃあシュバルトは見学しててくれ」
「どうしてシュバルトを除け者にするんですか。これからマキナを呼ぶので、2対2で対戦しましょう」
「な、シュバルトはゲーム初心者だぞ。わかった、そう言って枝豆を渡さないつもりなんだろ」
全然分かってないですね。
「何を言ってるんですか。シュバルトの分は直ぐに用意しますよ。勝利のご褒美は、あなた、の枝豆です。初心者と協力して勝利を目指してください」
「なっ」
なっ、じゃないですよまったく。食べ過ぎたのはマギーでしょうに。
あ、マキナ。いま暇ですか?
うん、そう。これからゲームしようと思って。
2対2だからスポーツ系かな。
そう、マギーとシュバルト。
あ、そうなの。ちょうどよかったね。
うん、わかった。待ってる。
さすがに初見で勝負させるのは可愛そうですから、マキナが来るまで練習させておきましょうかね。
ちょっと二人とも。言い争ってないでこっち来て。
はいシュバルト、コントローラ持って。ゲームはマギーが選んでいいですよ。
テニスですね、いいでしょう私も得意です。
ちょっとお茶を準備して来るので、シュバルトにルールと操作を教えて練習しててください。
私に悪態をつくこともせず、直ぐに教え始めましたね。
マギーの態度次第ですが、最初は強く当たって、後は流れで負けてあげましょうか。
緑茶と、お茶請けにはずんだ餅を用意しましょうかね。
折角ですからマキナにも枝豆を布教しましょう。
「やったー、勝ったあああ」
あのシュバルトが子供の様な雄叫びを上げています。やったー、何て言うキャラじゃないでしょ。
はあ、疲れました。いったい何試合やったんでしょうか。
多少手を抜こうが何をしようが、シュバルトさんが下手すぎて簡単には負けられませんでした。
サーブもまともに打てないくせに、こっちが明らかに手を抜くと怒るんですから。負けず嫌いですね。
もし次やることがあったら別のゲームにしましょう。
「アマちゃん、このお餅、もう無いの?」
3皿目のずんだ餅を食べ終わったマキナが、更なる要求をして来ました。
まだありますけど、お腹大丈夫ですか?
気に入ってくれたことは嬉しいですが、餅は食べ過ぎると太りますよ。
「よしよし、感覚は掴んだ。次はもっと上手くやれる。もう一戦やろう」
こっちにも気に入ってくれた方が居ますね。シュバルトが、テニスゲームを。
もう私は疲れましたよ。一旦プレイを止めてお茶を入れなおして来ます。マギーと対戦していて下さい。
「ちょ、アマちゃん。これからの対戦には関係なく、枝豆は貰えるんだよな?」
あげますが、手を抜くとシュバルトに怒られますよ。
マギーもシュバルトのミスをカバーして頑張ってましたからね。
しかしシュバルトがここまでゲームに熱くなるとは想定外でした。
「転生者の事で2人に相談しようと思ってたのに、そんな時間が全くないんだよ」
4皿目のずんだ餅を頬張りながら、マキナが愚痴っています。
すみません、こんな予定では無かったんですけど。
どんな転生者ですか?
ふむふむ、マキナの世界に多大な貢献をした人で、そろそろ寿命で無くなると。
優秀な魂なら、私がいくらでも受け付けますよ。
そうですかそうですか。なんでみんな、剣と魔法の世界に魅かれるんですかね。




