第2話 俺は祝勝会に参加する
「あっ、2人とも遅かったね。会議が長引いたの?」
鷹揚亭の扉を開けた俺達に最初に反応したのは、鷹揚亭のホールスタッフではなく、入口近くのテーブル席に陣取っていたミリーだった。
「会議はそんなに長くなかったけど、広場の屋台が全部閉まるまで待ってたからね。日が沈んで魔導具の燈が灯されても、ずっと賑やかだったよ」
「そっか。じゃあ私達も広場でゆっくりしていれば良かったかもね」
遠くの席で他のお客さんに対応していたエマさんに会釈だけしておいて、ミリー達12人が囲っている席に近づく。
近くの席をくっつけて皆が座れるように作られた長テーブルには、皿や杯が所狭しと並べられている。しかしその皿に乗っている料理はどれも僅かばかりで、最近新しく料理が運ばれて来た様子は無い。ミリー達は既にお腹が満ち足りているのか、食べる手を止めてお喋りに移行しているらしい。
「ゲオルグ君、マリーちゃん、いらっしゃい。隣の席をくっつけるからちょっと待ってね」
「俺も手伝います」
「あっ、私はカウンター席で」
4人掛けのテーブル席に手を掛けたエマさんがマリーの発言に可愛らしく首を傾げた。
「カウンター席も空いてるけど、一緒じゃなくていいの?」
「はい、クラスが別なので」
俺もここに来る道中説得を続けたが、同じ卓は囲めないとマリーは首を横に振っていた。
「もう!そんな事気にしなくていいのに!ね、みんな」
ミリーが11人のクラスメイトに視線を向けると、皆が賛同の意思を示した。
「うーーん、今日はやっぱり遠慮しとく。クラスメイトだけで楽しんで」
頑固なマリーはやはり首を横に振った。
ミリーは不服そうに頬を膨らませていたが、隣の席のアランくんに宥められて、それ以上マリーを勧誘しようとはしなかった。
「ではマリーちゃんはあちらの席へ。先に注文聞いておいてもいいかな?」
マリーは全く悩む事なく「いつものでお願いします」と答え、2つ並んで空席となっているカウンターへ歩を進めた。
「ゲオルグ君1人だけだと、テーブルくっつけるより椅子だけ運んだ方が良いかな?」
「んーー。空いてるのならテーブル使ってもいいですか?」
長テーブルの長辺は全て埋まっているので、椅子を加えるなら短辺になってしまう。所謂お誕生日席になるのは少し気恥ずかしい。
「どうぞ使って」
エマさんと一緒にテーブルと椅子を移動させた後、「俺もいつもので」と注文して席についた。
「この会の費用は参加者全員で均等に割るって話だったからゲオルグの分の料理を残しておいたんだけど、やっぱり先着した12人で割って、ゲオルグの分は別にしようか?」
隣の席になったルッツがとんかつが一切れだけ残った皿の1つをこちらに寄せて来る。料理はすっかり冷めてしまっているが、それでも鷹揚亭の料理は美味しそうだ。
「いや、俺も色々食べたいし、全部貰うよ。俺が今頼んだ分だけ別会計にしよう。……それで、やっぱりヴィム達は来なかったんだね」
ルッツが「というか、あれから誰も会ってないんじゃないかな」と答えると、近くの席のみんなも「会っていない」と口々に返して来た。
ヴィム達はエステルさんに治療してもらった後から、完全に姿を消したらしい。俺達の決勝戦を見る事無く、帰宅したんだろう。
ヴィム達と仲直りしたいという思いは有るが、八百長を阻止した俺達を相当恨んでるだろうなという不安も有る。今後どんな顔をしてあの7人と付き合っていけばいいのかと、俺は落ち込んだ気分にさせられた。
「はい、いつもの果実水。料理はもうちょっと待ってね」
そんな暗い気分もエマさんの笑顔を見るとコロっと忘れてしまうんだから、我ながら現金だなと思う。
「じゃあゲオルグの飲み物も来たし、改めて」
ルッツがテーブルの中央に向けて腕を目一杯伸ばし、杯を掲げる。それに倣って皆も杯を中央へ。チラッとカウンター席に目を向けると、こちらの声が聞こえているのか、マリーも杯を小さく持ち上げていた。
「ミリー達の勝利に!」
「「「乾杯!」」」
(マリーの勝利にも、乾杯)
騎馬戦を勝利したミリー達に向けて杯を掲げた後、俺は1人でこっそりとマリーにも杯を向けた。
「なあゲオルグ。屋台料理の話なんだけどな」
果実水を片手に残してもらった料理を胃袋に収めていると、ルッツが申し訳なさそうに話題を振って来た。
いつのまにかペーターが俺の正面に、ロジーネが俺の右隣に移動していて、3人で俺を取り囲んで逃がさない構えになっていた。
「是非ともお姉さんに口添えを」
ぐいっと身を乗り出して来るルッツから逃げるように体を逸らせながら、どう話を持って行こうかと俺は考えを巡らせた。




