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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第12章
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間話 アマちゃんの干渉

「そこです!いけーー!」


「……」


「右、いや左です!そう!その調子で……やっちまえーー!」


「うるさい!」


「いっっったあああ!」


 私は両手で頭頂部を抑えながら、床をゴロゴロと転がってしまいました。


 目の奥が爆発したような衝撃でした。ああ、ダメ。久し振りに殴られて、痛みと悲しみで涙が溢れ出そうです。


「こっちは忙しいんだから!五月蝿くするならさっさと帰りな!」


 拳骨を振り抜いても気持ちは収まらなかったようで、殴った犯人はぷりぷりと怒っています。


「手見上げを持って久々にやって来た友人に対して、冷たすぎませんか?」


「アマちゃんの暇潰しに付き合ってる暇は無い」


 マギーはこちらに目線を向ける事無く、ピシャリと言い放ちました。その視線は先程までの私と同じで地上に向けられているようでしたが、観ているものは違ったようです。


 手見上げの水羊羹に全く手を付けず、何をそんなに見てるんでしょうねぇ。温くなっちゃうと美味しくないし、食べないんなら貰っちゃいますよーーっと。


「あたっ!」


「後で食べるから、手を出すな」


 艶やかな水羊羹が3つも乗っている皿に手を伸ばしたら、バシッと叩かれてしまいました。あいたたた。


 その後、マギーは大事そうに皿を抱え、魔法で冷やし始めました。どうやらマギーも水羊羹は大好きなようですが、それならそうと言ってくださいよ、まったく。


「それで、桃馬は勝ったのか?」


「あーー、いえ、まだ戦っていますね。なかなか健闘していますが、ちょっと分が悪そうですねぇ」


「そうか」


 やはりこちらに目を向ける事無く、マギーは地上を見下ろしていました。視線を動かしたのは、水羊羹の皿を見る時だけです。


 マギーには暇潰しだとくさされましたが、私は武闘大会とやらで戦う桃馬さんの応援に駆け付けたんです。決して暇でやる事が無かったから遊びに来たのではなく、桃馬さんの勇姿をこの目に焼き付けよう、って事なんです。決して、桃馬さんが無様に負ける様を笑いに来たわけではないんですよ?


「ぶつぶつうるさい」


「はーい、すみませーーん」


 仕方ありません。しばらくは黙って応援する事にしましょう。


 しかし、桃馬さんと戦っているあの娘さん。うん、面白いです。




「ああ、負けてしまいましたか。まあ相手が悪かったという事で」


 魔力を練り上げつつもそれを放出せずに体内に留め、自身の筋力を活性化させる。なかなか面白い戦い方ですが、ちょっと無駄が多いようですね。せっかく練り上げた魔力が、手足を動かすたびに漏れ出ちゃっています。あれでは持久力に難ありですね。実に勿体無い。


「で、そっちはまだ終わらないんですか?」


 マギーは同じ姿勢でまだ地上を見続けています。何がそんなに気になるんでしょうか。


 よし。ちょっとだけ、私も覗いてみましょう。


 …………。


 ふーーん。マギーが見てるのは多分あの子でしょう。桃馬さんが居る学校内の藪に身を潜めている男の子。あの顔は確か、試合前の桃馬さんに道端で殴りかかった子では?


 …………。


 えいっ!


 私がほんの少しだけ爪先に力を込めると、その男の子は弾けるようにして藪から飛び出してしまいました。ちょっとだけ脅かそうと藪を突いただけで、危害を加えようとしたわけでも無いんですけどね。


「おい、何やってんだ」


 マギーの声。怒りを爆発させる寸前の力の籠った声です。あの子に悪戯しようとしたのがバレたみたいです。


「私は何もしていませんよ?」


 出来うる限りの最高の笑顔を作って振り向いた瞬間、私の目の奥が再び爆発してしまいました。




「まったくもう。私は大した事していないのに、問答無用で殴るなんて酷いと思いませんか?」


 遅れて参上した親愛なる友ことマキナに、私は目に涙を溜めながらマギーの罪を訴えました。


「アマちゃんがマギーに殴られる時は大概アマちゃんが悪いんだよ」


「えーーん。マキナは私の味方じゃないんですかーー?」


「アマちゃんの味方をし過ぎると、私の小さな頭が危ういんだよ。私だって自分が可愛いんだよ」


 マキナは両手で頭を隠し、身を縮めて防御態勢になりました。私だって殴られたくはないけど、もうちょっと味方してくれてもいいんじゃないですか?


「でも、水羊羹をもう1つ貰えると、味方になるかもしれないんだよ?」


 腕の隙間からチラッとこちらを見上げて来る可愛らしいマキナには申し訳ないんですが、1人3個までなんですよ。


 もう水羊羹が無いと伝えると、マキナは絶望して床に倒れ伏してしまいました。まあマギーの分が近くの棚に置かれて冷やされているんですけど、流石にアレに手を出すのは匹夫の勇ってやつです。


「はぁ。ひんやりとして、つるんとして、程よく甘くて……。お腹いっぱい食べたいんだよ」


 相変わらず食いしん坊ですねぇ。私もあれは大好きですが。勿論マギーも。


「おっと、桃馬さんの試合が始まったようですね。次は、団体戦ですか」


 そうこうしている間に次の試合が始まったようです。沢山集まった人が2手に分かれて魔法を撃ち合っています。さっきの試合で桃馬さんと戦った娘も居ますが、どうやら桃馬さんとは敵同士なようです。


「そういえばマギーは?」


「さあ?私を殴った後から姿を見ていませんが、シュバルトのところじゃないですか?」


 客を置いて出かけるなんて、非常識ですよね。


「ふーーん。あっ、あの娘。ちょっと面白い事やってるんだよ」


「どれどれ……ああ、あの端っこで1人立ってる娘ですね。前の試合で桃馬さんを降した娘です。ちょっと荒削りですが、良い素質を持っていますよね」


 その娘は、桃馬さんとの試合とは違った行動を取っていました。先程は魔力を内へ内へ留めて力にしていましたが、今回は積極的に魔力を放出しています。しかも研ぎ澄まされた強い魔力を。


 それが向かう先は、他人が放った魔法。


 他人の魔法に魔力で触れ、その内部に潜り込み、あるいは外部から包み込んで、その魔法に干渉する。


 流石にまだ完全に魔法を奪取するまでには至っていないようですが、火力を高めたり軌道を変えたりと、なかなか器用に干渉していますね。


 なんとなく、それらの干渉で桃馬さん側が有利になっているような気もしますが。


「あの娘も凄いけど、アマちゃんならもっと上手くやれるはずなんだよ」


「そうですね。私なら完璧に操れます」


「マギーとどっちが」


「それは勿論私ですね」


「こっちが言い終わる前に宣言するなんて、よっぽどの自信なんだよ」


 ふふふ。まあここはマギーの世界ですから、勿論マギーの方が有利です。だがしかし、私が本気を出せば!


「じゃあじゃあ、あの娘達の魔法に干渉して欲しいんだよ」


 ふむ。マギーが指差す下界には、5人の子供達が居て、どこかへ向けて必死に魔法を放っていました。


「あの娘達の魔法、途中で打ち消されて可哀想なんだよ」


「なるほど。では少しだけ、私の力を見せてあげましょう!」




 はっはっは。どうですかどうですか私の力は!


 ちゃんと見てましたか!?


 高揚した気持ちを抑え切れずに勢い良く振り返ると、そこには鬼の形相をしたマギーが仁王立ちしていました。


「ああ、見てたよ。お前の魔法が何かを壊して試合を終わらせたところをね」


 それはいつもみたいに大声で叫んで非難するでなく、静かに、しかし腹の底から響き渡るような重低音でした。


「あ、あはは。あれは私の魔法ではなく、あの娘達が発動した魔法にちょっとだけ手直しを」


「それで?」


「それでそのぅ……すみませんでした!」


 私は必死に頭を下げました。それはもう必死に。私の親愛なる友が既にその場から立ち去っている事など全く気が付かないくらい、必死に。


「あんたには色々言いたい事が有るんだけど」


「はい、お怒りはごもっとも。申し訳ありませんでした。なんなりと仰ってください」


「私の水羊羹、1つ無くなってるんだけど?」


「え?」


 顔を上げて棚に目を向けると、皿の上の瑞々しい水羊羹が、確かに2つになっていました。


 その原因はすぐに思い当たりました。そして、あれはマギーの分だと説明しなかった自分の迂闊さにも気付かされたんです。


「ちょ、ちょっと待ってください!それは誤解です。私ではありません!」


「じゃあどうして無くなってるんだろうね。私は食べてないんだけど?」


 な、な、な、なんで勝手に食べちゃったんですか、マキナぁぁ。


 なんとかマギーを説得し、マキナの身柄確保および新しい水羊羹の献上を約束した頃、地上では桃馬さん達の次の試合が終わっていました。

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