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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第12章
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第50話 俺はプフラオメの実力を知る

 優雅に、耽美に、観客に見せつけるようにゆったりと、プフラオメは空へ空へと浮上した。


 置き去りにされた地上組はこちらへ魔法を放つ事も無く、黙って王子を見送っている。


 相手の動きが止まっている今が好機と判断した水壁の前に居るミリー達は攻撃を開始したようだが、プフラオメの姿を風壁越しに正面から見据えている俺やヴィム達は、不可思議な雰囲気を持つその姿に釘付けとなっていた。


 浮上を続ける王子に5人の生徒が近寄り、そのまま随行する。試合開始当初から飛行魔法を使って空にいた生徒達だ。


 お供を連れた王子は更に浮上する。その姿はどんどん小さくなるが、水壁の頂点を越えてもまだ浮上を止めない。風壁の上端は水壁よりもずっと高いが、そこまで出向くつもりだろうか。


「まさか逃げるつもりじゃ……」


 見上げる首の角度がキツくなった頃、ヴィムが感情の無い言葉をボソッと口にした。


 そんなバカな。プフラオメの考えは分からないけど、空へ逃げる必要が。


「えっ?」


 ヴィムに反論しようと口を開いた時、クラスメイトの誰かが驚愕を漏らした。


 その驚愕の元は、俺の目にも映った白い輝き。小さくなった王子の姿を覆い隠したそれは、陽の光を反射しながら徐々に大きくなり……。


「火属性防御!」


 俺は周囲に号令をかけ、すぐさま左腕に装着していた魔導具に手を添えた。


 その間にも白いソレ、金属の塊は肥大する。おそらくプフラオメが生み出したのであろうソレは、重力に引かれて、地上に向かって突進する。落下予測地点は……真後ろの大玉!


「「炎盾!」」


 炎渦巻く火属性の盾が、俺達の頭上に出現する。2重の言霊によって通常の2倍の厚みを帯びた炎の盾。俺の指示に反応出来たのは1人だったらしい。


 父親の身長をすっぽりと覆い隠すサイズで作ったそれなりに大きな盾が空中に固定され、落下物を迎え撃つ。まだ距離は有るが、それでも落下物の方が炎盾よりも大きかった。


 俺達に遅れて、数人の生徒がバラバラに炎盾を生み出す。合計7枚の盾が少しの間隔を空けて連なったところで、


「みんな逃げろ!」


 俺は誰かに腕を引っ張られ、最初の炎盾に落下物が激突した。


 炎に触れた金属塊がその身を焦がす猛火に抵抗しようと、雄叫びのような轟音を周囲に撒き散らす。


 金属に触れられた炎盾が接触を嫌がる乙女の様に身震いして、涙に似た火の粉を周囲に撒き散らす。


 真球と思われる金属塊はその滑らかな表面がドロリと溶け出しても前進する動きを止めない。


 炎盾は後方に魔力を噴射しながら空中で耐えていたが、金属塊の圧迫に耐えきれず徐々に押し込まれる。


 後方に押され、並んでいた炎盾と接触する。


 少し速度を落としたが、それでも止まらない。


 最終的に全7枚の炎盾が重なったところでようやくその動きは止まったが、金属塊はまだ半分以上その身を残したままであり、その下の地面には溶けて滴り落ちた金属が小さくはない溜まりを作っていた。


 このまま耐え切れれば金属塊は溶け切って消滅する。


 現場から距離を取って避難していたクラスメイト達に安堵と、少しの後悔が広がった。




 俺達が緊張の糸を緩めたその時、光を反射して白く煌めく金属溜まりが動き出した。


 素早く鎌首を持ち上げたソレは大蛇の形を作り、宙に浮かぶ炎盾と地面の間を素早く這い進んだ。


「あっ!」


 その動きに気付いたこちらが対応する間も無く、炎盾の下を通過したソレは一瞬身を縮め、目の前の無防備な大玉に向かって飛び上がった。


 空中でクルッと縦回転したソレは、鞭の様にしならせた尻尾を大玉に叩きつけた。


 スパッと気持ちの良い音が耳に伝わり、大玉が真っ二つに切り裂かれる。どうやら蛇の尻尾を刃に変えていたらしい。


「なあ、アイツまだ動いてるぞ」


 俺の腕を握っていたルッツがその手を離し、白い大蛇を指差す。


 そいつはウネウネと体を動かしながら、まだ壊されていない隣の大玉に向けて進んでいた。


 たった今中央の大玉が破壊されて、残る大玉は3個。炎盾と金属塊の激突から避難した俺達は、向かって右側に移動していた。こちらに残っている大玉は中央右の1つ。白蛇が向かった左側には2つの大玉が残されている。


 残り2つを壊されたら、3対4で負ける。そうはさせない!


「これ以上はダメだ!」


 白蛇を追いかけようとした俺の前に、ヴィムが慌てて立ちはだかった。


「このまま負ければいい。元々そのつもりだったんだから」


 ヴィムに賛同するクラスメイトも、ヴィムの横に並んで行くが、その人数はいつもより少なかった。


「おい、お前達もこっちに来て、ゲオルグの邪魔をしろ。まさか今更裏切らないよな?」


 ヴィムの険しい表情が俺の横に向かう。そこには、ルッツ達3人とは違う、4人の生徒が動きを止めていた。


「盾を使ってくれた4人です」


 ルッツがこっそりと耳打ちをする。4人がこちら側に鞍替えした事よりも、ルッツが意外と周囲をよく見てる事に驚いた。


 その4人は、どこか覚悟を決めた顔付きで、ヴィムを睨み返している。


 対峙するのは俺達8人と、ヴィム達7人。


「ルッツ達も、力を貸してくれ」


 4人のうちの1人がそう発言したのを合図に、4人がヴィム達に襲いかかった。


「ゲオルグ、後は頼むぞ」


 ルッツ達も4人に加勢する。立ちはだかる7人を排除しようと、ルッツ達は取っ組み合いの喧嘩を開始した。男は男と、女は女と争い合う。


 流石に仲間内で魔法を使って失格になるのは良くないと判断したのか、ヴィム達も魔法を使わずに応戦している。魔法を使って故意に怪我をさせると例え味方同士でも失格になるかもしれないからな。


「こ、このやろう!ゲオルグ、行くな!戻って来い!」


 脇を走り抜けた俺の後方から、ヴィムの言葉が耳に届く。それを無視して走り続けた。


 未だ金属塊に抗っている炎盾の横を走り抜ける。


 視線の先では、白蛇が2つ目の大玉を斬り捨てていた。


 なかなか面白い魔法じゃないか。2つの大玉を破壊してもなお動き続ける白蛇に、称賛の言葉を送ろう。


 炎に溶かされる事を予想して、あの魔法を金属塊の中に仕込んでいたのか?


 それとも、あの遠距離から溶けた金属に対して新たに魔法を使ったのか?


 ふふふ、面白い。どうやったら魔導具で再現出来るかな。魔石1つじゃまず無理だろう。


 あの白蛇を退治したら、プフラオメはまた別の魔法を使って来るのかな?


 それとも、未だ健在な金属塊に何か細工をするんだろうか。


 ほとんど初めて見たプフラオメの実力によって高まる鼓動を感じつつ、俺は白く煌めく金属製の大蛇に向けて、天敵の水魔法を撃ち放った。

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