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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第2章 俺は魔法について考察する
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第47話 俺は自慢される姉を羨む

 2月は姉さんの誕生月。

 8歳を迎えた日も、姉さんは朝食後に家を出て行った。今日は親方の所でアルバイトらしい。


 姉さんは自分の好きなことをせず、剣の材料を買うためにせっせと働いている。

 申し訳ないとは思うが今更止めることは出来ない。

 家族みんなも協力態勢に入っている。完成がいつになるかわからないのに。




 誕生日の翌日、お昼を過ぎた所で2人の訪問客が現れた。

 父さんと姉さんに話があって来たらしいが、残念ながら2人は不在。

 父さんは姉さんの誕生日を祝った後、今朝早くグリューンへ向かっていった。姉さんはいつも通り朝から外出している。

 代わりに母さんが応接室で対応している。何食わぬ顔で同席しようとしたが、退室させられた。


「では主人と娘とよく相談してご返事致します」


 廊下で中の様子を窺っていると扉が開き、会話しながら退室して来た。

 玄関へ向かう母さん達の後ろに付いて行き、一緒に客人を見送る。


「ではルトガーさん、グリューンへの連絡お願いね」


 母さんと一緒に接客していたルトガーさんが承知しましたと頭を下げ、自室の方に戻った。これから冒険者ギルドへ向かうんだろう。外は寒いからコートでも取りに行ったのかな。


「どんな話だったの?」


 周りに2人しかいなくなったところで母さんに質問する。


「学校の関係者が、アリーの入学を勧めて来たの。普通は10歳の4月に入学するんだけどね」


「飛び級ってこと?」


「そうね、8歳で入学するのは珍しいんじゃないかしら。ちなみに私とあの人も10歳で入学しているわ」


 あの人ってのは父さんのことだね。


「学校って、お城の西にある建物だよね」


「そうね、ラーゼン王立学校。ずっと昔にラーゼン王が開校した由緒ある学校よ」


「父さんと母さんは学校で知り合ったの?」


「在学中は知り合ってなかったわね。どこかですれ違っていたのかもしれないけど、学年が違うとあまり交流が無いのよ」


「俺もそこに入れるの?」


「王都には学校がそこしかないからね、10歳になって手続きをしたら貴族庶民関係なく誰でも入れるわ。まあ校内でいくつもの派閥に分かれるでしょうけど」


「王都中の子供が集まったらすごい数になるね」


「そうね、私の同級生も沢山いたわ。入学金や毎年の授業料が払えなくても奨学金制度があるし、王都以外の子供が通いたかったら寮もある。わりとこの国は教育に熱心なのよ」


「キュステには学校は無かったの?」


「あるわよ、大きな領主の領都には小さくても学校があるんじゃないかしら。でもどうしても教師や設備の質に差が出るから、貴族の子弟は王都の学校に通うでしょうね」


「どうして姉さんに飛び級を勧めたんだろう。授業料が必要なくなるってこと以外に、早く入学する利点が思いつかないんだけど」


「そうねぇ。飛び級で入学させて自分の派閥に取り込もうとか考えている人が居るのかもねぇ」


「そういうやり方があるのか。同学年の方が接近しやすいから」


「さっき来た人たちは何も言わなかったから私の想像だけど。魔力検査で歴代1位を誇る自慢の娘ですもの。引く手数多でしょうね」


「なら無理に飛び級させない方がいいでしょ。母さんから断ればよかったのに」


「あの人に相談せずに決めると後で拗ねるからね。それにアリーが入学したいって言ったら飛び級させるつもりよ。その前に私の考えはしっかり伝えて良く考えさせるけど。耳聡いお父様も口を出してくるんじゃないかな」


 うん、父さんなら絶対に拗ねるな。


「爺さんが口を挿む様な問題かな」


「ゲオルグはまだ分からないと思うけど、貴族の派閥争いって面倒なのよ。それにアリーの1学年上には第一王子、同学年には第二王子が居るはず。2人の王子に対抗できるのは誰か、そう私の娘よ」


 母さんが満点の笑顔で娘を自慢している。そこまで自慢されるなんてちょっと羨ましい。俺は母さんに自慢されるような息子だろうか。


「姉さんは自分で派閥を作ってしまいそうだけどね」


「まあ私達がここで話し合っていてもしょうがないから、アリーの帰宅を待ちましょう」


 そう言って母さんは自室に向かって行く。

 去っていく後姿なんだか嬉しそうで、鼻歌が聞こえて来た気がした。




「学校なんて行かないよ。そんなところに行くほど私は暇じゃないから」


 夕食が並んだ食卓で昼間の出来事を母さんから聞かされた姉さんは、すぐさま反対意見を述べた。


「俺が頼んだ剣の事は気にしなくてもいいよ」


 俺の剣が理由なんだったら考え直して欲しい。寧ろ完成しなくていいんだからね。


「そうは行かない。依頼された仕事は最後まで全うしなければ」


 ふんすと鼻息が荒い姉さんは、剣以外の理由もちゃんとあるようだ。


「飛び級したらエマと離れちゃうじゃない。折角できた友達なんだから学校も一緒が良いよ」


 そうか、エマさんが居たな。

 姉さんを取り込みたい派閥の皆様、将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、ですよ。


「アリーの気持ちは分かったわ。あとはグリューンからの連絡を待って返答しましょう」


 母さんがそう締めくくるが、父さんは姉さんにボーイフレンドが出来るのを嫌うと思うんだ。

 アリーの歳で学校に行くなんてまだ早いよ、とかオブラートに包んで否定しそう。




 翌日父さんからの連絡が来た。


「アリーに男友達が出来るなんてお父さんはまだ許しません」


 思った以上にストレートな内容だった。

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