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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第12章
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第46話 俺は魔導具で時間を稼ぐ

「「「炎壁」」」


 準決勝開始前1分間の準備時間が過ぎた直後、俺達3人の言霊が重なる。


 言霊に反応して、3人が装備した魔導具から小さな火球が1つずつ発射された。


 タンタンタンとリズム良く、1つの魔導具から火球が5連続で射出され、最初の1つが、突如空中で爆発する。


「どわぁっ!」


 火球の爆発が生んだ音と閃光に驚いて、ヴィムが悲鳴を上げながら尻餅をつく。


 ヴィムの反応に関係無く、火球は1つ、また1つと同じ場所で爆発を繰り返す。


 次第に大きくなる爆発音と閃光、ついでにヴィムの悲鳴。


 姉さんが喜びそうな派手な魔法だ。俺も最初に見た時は驚かされた。


 初めて姉さんに魔導具を貰った頃を懐かしがりながら、尻餅をついたままのヴィムの前に躍り出て、覆い被さるようにヴィムの視界を塞いだ。


「おい!聞いてな」


 今にも泣き出しそうな面を作ったヴィムが俺に苦情を言い始めたその時、最後の火球が爆発する。今までの爆発が瑣事に思えるような強烈な閃光が訓練場内を襲った。


 知らずに目にすると、数秒は目が眩んで動けなくなる強烈な閃光を生む魔法。とにかく派手で、派手好きな姉さんが作った、時間稼ぎにはもってこいな面白い魔法。


「うわああああ!」


 生じた閃光の強烈さに錯乱するヴィム。目の前に立ち塞がった事でそれなりに光量は抑えられたと思うが、ヴィムにはまだまだ強い光だったらしい。


 しかし、じっとしている時間は無い。


 俺はヴィムの腕を無理矢理引っ張って立ち上がらせ、ヴィムの腕を自分の肩に回して支えながら爆発に背を向けて走り出した。


 目がぁあ!目がぁあ!と叫びヴィムが五月蝿い。


 まったく。言霊を使ったらすぐに目を閉じて後方へ走れと言っておいたのに、言う事を聞かないから。ミリー達は指示通りに走り出して、既に自陣深くへ下がってるぞ。


「くそぅ!覚えてろよ!」


 はいはい、忘れないからその足を動かしてくれ。


 しかしこの魔導具の3つ同時使用は流石にやり過ぎたかもしれない。


 観客席くらい距離が離れていたらそこまで目は痛まないと思うが、中立地帯に居た審判には可哀想なことをした。多分しばらく審判の目はダメだろうな。そこはちょっと反省。




「おいおい、なんだアレは!」


 視力を取り戻したヴィムが、眼前の光景に唖然としている。


 それは、轟々と天に向かって燃え盛る火柱が連なった、自陣と中立地帯の境に立ちはだかる赤い壁。


「ちゃんと説明受けたでしょ!さっきの魔導具で作った炎の壁よ!」


 俺に変わって質問に答えたミリーは、ヴィムに対してうんざりとした様子だった。


「ゲオルグの話をちゃんと聞かないから、腰を抜かしてゲオルグの世話になっちゃうのよ。アンタが逃げ遅れたせいで、時間を無駄にしたんだからね!」


「うるせえな!ほんのちょっとだけ、どんな魔法なのか気になっただけだ。あんな凄い爆発が起こるのなら、そう言っとけ!」


「ふーーん。炎壁」


「おおういいお!」


「やーい、引っかかった。魔力補充してないから使えませーーん。オオウイイオ?ってなんですかーー?」


「うるせえ!クソが!」


 はぁ。2人とも五月蝿い。


 もう何度目かになる言い争いにクラスのみんなも慣れてしまったのか、誰も止めようとしない。どちらかが飽きるまでこの醜い争いは続くんだろうか。


 まあ俺もみんなと一緒で2人の喧嘩に深く関わるつもりはない。それよりも気になる事がある。


 俺の目線の先に有るは、高く聳える炎の壁。


 3人が3つの魔導具を使って、訓練場の端から端まで連なる巨大な壁を作ったわけだが、右側の壁だけ、何故か高さが違うのだ。地面から火柱が立ち上る勢いが違う。


 右のやつだけ、ドワーフ言語を間違えたか?


 魔導具を量産する時は1度ドワーフ言語を羊皮紙に書き留め、それを見ながら魔石に刻み込んでいくから途中で文字列を間違える事はほぼ無い。削り終わった後も何度も見返して、異常が無いかは調べている。


「おい」


 うーん。


 まあ間違えたのなら仕方ない。後で魔石を見直しておこう。


「おいって」


 しかしあれだけ激しく燃えていたら、右の壁だけ早く魔力が切れて消滅してしまうな。そこだけ注意だ。


「おーーい!」


「うわっ、なんだ!」


 ぐわんぐわんと肩を揺さぶるんじゃないよ。


「なんだじゃねえよ。ぼーっとしやがって!試合中だぞ!」


 驚いて腰を抜かした後に喧嘩を始めたヴィムに言われたくないんだが。


「で、次はどうするんだ?向こうは壁を超えて魔法を放って来てるぞ」


 ヴィムの言う通り、右の壁より1メートル程低い中央と左の壁を飛び越えて、火球や土塊が向かって来ていた。向こうの視力も回復し始めたようだな。


「アイツら、飛行魔法を使って、こちらの位置を把握してるみたいだぞ。ほっとけば当たる。迎撃するぞ!」


 八百長しようと持ちかけて来たヴィムが防衛しようと提案する。なんとも滑稽な話だが、まだ手を抜く段階じゃないという判断かな。


 ヴィム以外の八百長遂行派はヴィムの判断待ちのようで、ヴィムの後ろに並んでいる。ミリー達はヴィムの目が眩んでいる間に渡した魔導具で迎撃しようと動き出していて、俺の背後では俺に付いて行くと宣言したルッツ達が静かに控えている。


 クラスメイトは見事にバラバラだが、やれるだけやってみよう。


「よし。ガンガン行くぞ!」


 俺は背中のリュックから新たな魔導具を取り出し、みんなに配って行った。




 みんなには悪いが、俺は八百長をするつもりは無い。


 可愛い妹達に自慢出来ないような、そんな試合をするつもりは無いんだ。

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