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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第12章
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第44話 俺は試合会場へと向かう

 試合管理部員が控室の扉を開いて『試合の時間だ』と俺達に声をかけた瞬間、素早く動き出したのはミリーだった。


「はい、10組は9人で参加します。向こうの11人は八百長を持ち掛けられ「あっ、おい!」」


 出遅れたヴィムがミリーを止めようと声を上げたが、その動きは圧倒的に遅かった。


「ふーーん。八百長、ねぇ」


「あ、いや、その」


 上手い言い訳を思い付かずに言葉を詰まらせたヴィムを、試合管理部員は興味深そうにマジマジと見つめている。


「まっ、それならそれでも構わんよ」


「え!?」


 ヴィムの機先を制す事が出来て満足気な顔をしていたミリーは、『八百長でも構わない』と言った試合管理部員の言葉に目を見開いて、信じられないと言葉を漏らした。


 八百長をする側のヴィムもミリーと同様に驚いていたのは酷く滑稽に見えて、少し愉快だった。


「別に試合前の打ち合わせを禁じる規則は無いからな。こういう事は毎年何件か有る。かくいう俺も、2度ほどやった事がある」


「そ、そんな……」


「は、はっ、はは。試合管理部も黙認してるというなら、話は決まりだな。はっはっは」


 がっくりと肩を落とすミリーと、ほっとした後に声を出して笑うヴィム。


 数秒前と完全に立場が逆転した2人だったが、


「俺達試合管理部は大会が無事に終わればそれでいいんだが、観客達は何と言うかな」


 試合管理部員が続けた言葉を聞いて、2人の顔には同じような戸惑いの色が浮かんだ。


「試合で手を抜いているかどうかは、上級生にもなれば見れば分かる。準決勝まで勝ち上がった猛者が不戦敗ともなれば尚更、『ああ、また裏取引か』とがっかりするだろう。数年前、俺達が八百長をやった時はそれがすぐにバレて、『つまらない物を見せるな』と観客達は酷く怒っていた。八百長の依頼者だった対戦相手も、『あれでは俺達の評判が悪くなるだけだろうが』と憤慨して、約束した報酬金は酷く減らされてしまったよ」


 酷く残念そうな口振りで話す試合管理部員は、ミリー達の顔色を窺いながら言葉を選ぶ。


「これは君達より数年長く生きた経験者からの助言だが、2年生以上の観客はこの大会で八百長が起こり得る事を理解しているし、適当に手を抜いた八百長はすぐにバレるから止めとけ。そしてそれがバレると、依頼者は理不尽に腹を立てる。腹を立てた依頼者が何をするかは、さっき言った通りだ」


 ヴィムが神妙な顔をして頷いている。


 報酬を減らされるなんて御免だ。そんな気持ちだろうか。


「八百長をするコツとしては、試合開始直後から全員が全力で攻めて相手の魔導具を1つ2つ破壊する。中盤は粘り、後半疲れた姿を見せて上手く隙を作り、相手に攻めさせて逆転負けを演じる。試合時間目一杯使って演出するのが、上手い八百長のやり方だ。そうすれば観客も盛り上がり、良い試合だったと観客に褒められた依頼者は満足する」


「はぁ、なるほど」


 ヴィムは得心したらしい。ミリーは黙っているが、頬を膨らませて不満気だ。


「まあこの組はフリーグ家の魔導具が有るから、序盤の攻めは簡単だろう。後は『皆』が気持ち良く試合を終えられるように、上手く調整する事だな」


 試合管理部員が俺の方を向いて、何か言いたげに微笑んだ。


「さて、長話が過ぎた。試合時間だ、行くぞ」


 俺達の返事を待たずに試合管理部員が控室を出て行く。


 その動きに引っ張られるように、俺の足も自然に動く。


 俺に付いて行くと宣言したルッツ達も、試合に参加する気満々だったミリー達も。


「おいお前ら!勝手に……ああ、もう!俺達も行くぞ!」


 ヴィム達も控室を出て、後には誰も居ない控室だけが残された。




 通路を早足で歩く試合管理部員に追い付いて横に並んだ俺は、頭1つ分以上背が高い先輩を見上げながら、


「さっき話してくれた依頼者って、もしかして第2王子ですか?」


 なんとなく脳裏に浮かんだ、八百長なんて呼吸と同じくらい手軽にやりそうな相手の名前を口にした。


 でも、依頼者がその人だとしたら、その依頼者のクラスメイトには……。


「そうだよ、依頼者は第2王子本人だった。ああ、もしかして、八百長の話はアリーさんから聞いてた?」


「いえ、初耳です」


「そっか」


 恐らく姉さん達と同級生であろう試合管理部員は、和かに微笑んでいた。


「あのう。どうして、八百長を禁止にしていないんでしょうか?」


 俺達に追い付いたミリーが問いかける。


「まあ色々な理由が有るけど1番大きな理由は、お金に困っている者が居て、お金を払ってでも名誉が欲しい者が居るから、かな。第1王子なんかは八百長反対派だったんだけど、結局禁止に出来ずに卒業して行った」


「アリーさんは、反対しなかったんですか?」


「アリーさんは俺達の八百長が発覚した時、『へーー、そんな事が起こるんだ』と何処か感心した様子だった。それ以来アリーさんは、八百長賛成派とは言わないけど、黙認派だね」


 試合管理部員は過去を振り返って、懐かしがっている。


「多分アリーさんはこの大会を発案した当初、八百長が起こる事を想定していなかったんだろう。そして自分の想像の範疇外で起こった出来事を面白がった」


 確かに姉さんなら、その状況を面白がりそうだ。


「初めて八百長をやった試合の後、『面白い物を見せてもらったお礼だよ』と言ってアリーさんは俺達に屋台の料理を奢ってくれた。『でも次は、君達の考えた新しい魔法も見せてね。私は新しくて面白い魔法を見るのが好きなの』と言って爽やかな顔で笑っていた。学年が上がって2度目の八百長を行った後、『うん、面白かった』と言ってまた屋台の料理を奢ってくれた」


「それなら、八百長を禁止にして全員が全力で頂点を目指すようにした方が、勝つ為に考えた凄い魔法をいっぱい見られるのでは?」


 そんな説明では納得がいかないと、ミリーが食ってかかる。


 その疑問への答えは既に出ている。そんな自慢げな表情で、試合管理部員は口を開いた。


「『勝利だけを考える試合では見られない魔法も有る』。アリーさんはそう言って第1王子を説得していたよ。さあ、この扉を潜れば試合会場だ。君達がどんな魔法を使って八百長を見せてくれるか、楽しみにしているよ」


 扉の前に立って振り向き、10組総勢20人に向けた試合管理部員の表情は、俺が新しい魔導具作った時に見せる姉さんの表情と良く似ていた。

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