第43話 俺はルッツの独白を聞く
「えーっと、なんで俺?」
特に縁もゆかりも無い、入学してから今日まで朝の挨拶をする程度の付き合いしかして来なかったクラスメイトから『君に付いていく』と言われて、俺は戸惑いの色を隠せなかった。
「はっはっはっ、よりによって『能無し』を頼るとはな。そいつから魔導具を譲って貰って、家を立て直そうってか?」
「うん。まあそれも悪くないね」
高笑いするヴィムの言葉にしれっと賛同したルッツだったが、
「でもさっき言ったように、俺達が欲しいのは金でも魔導具でも無く、情報なんだ」
改めて自分の考えを、しっかりとヴィムの目を見据えて口にした。
「魔導具も、情報とやらも、金が有ればなんとかなる。貧乏では生きて行けない。世の中必要なのは、金だ」
ヴィムも負けじとルッツに言い返す。
金、金、金。
この歳で世の中金だと言い切るヴィムに、俺はほんの少しだけ同情していた。
父さんと母さん、みんなのおかげだな。
しかしそれと同時に、生活に苦労した事が無いのは両親や祖父母のおかげだと、改めて感謝する気にもなっていた。
「ヴィム君の言いたい事はわかるよ。金は大事だ。でも、金では買えない情報も有るんだよ。ね?」
それなりに整った顔のルッツに微笑みかけられる。
俺が女性ならその笑顔にときめいたのかもしれないが、俺の頭には疑問しか生まれていない。
ルッツはどういう情報を欲しているんだろうか。
「ヴィム君は西の出身だから知らないと思うけど、王都では毎年9月9日に誕生祭が行われていてね」
「そんなことは知ってる!」
地方出身をバカにされたと捉えたヴィムが声を荒らげる。
「じゃあ、その誕生祭の屋台で、フリーグ家が毎年新しい料理を販売してるのは、知ってる?」
「それは……」
ルッツの指摘にヴィムは口籠った。
確かに毎年誕生祭では新しい料理を考えて提供している。今年はこの武闘大会で出している肉まんや餃子をそのまま出そうかなと考えているけど。何しろ小麦粉がまだまだ沢山余ってるからね。
「誕生祭が終わるとその新しい料理は王都中の店で真似される。勿論ウチの宿屋の食堂でも出してる。でもね。どんなに頭を下げても、お金を積んでも、その新しい料理の正確な調理法をフリーグ家は教えてくれないんだ。だから、真似している店は全て紛い物」
眉尻を下げて話すルッツの言葉に、誰も口を挟まない。
屋台で出した料理のレシピは全部父さんが管理している。氷結魔法や重力魔法の魔導具の時もそうだけど、父さんは各方面と話し合って、情報を極力広めずに希少価値を高めようとしていた。
その情報を独占にするおかげで俺達は不自由無い生活が出来ているんだから、父さんに止めろとは言い辛いよね。
料理に必要な魔導具、フライヤーなんかは良心的な価格で一般販売されているから、それで許してほしい。
まあウチの魔導具が安く販売されている理由は、真似て作られた安価で低品質な魔導具のせいで火事や爆破事故が発生すると評判に傷が付くからで、結局はフリーグ家の為なんだけど。
「でも、この王都内で1軒だけ、その料理の数々を完璧に再現して、更には屋台で売られていた時よりも美味しくして、それらの料理を販売している店が有る」
ああ、エマさんのところだ。
「『鷹揚亭』という食事処兼酒場さ」
本当は魚人族が経営している食事処でも、魚をメインにしたフライ料理なんかが楽しめるんだけど、俺が行く時はいつも魚人族しかいないから、王都ではあまりその店の情報が出回っていないのかもしれない。
「ウチの宿屋も俺が産まれた頃は随分と繁盛していたらしいが、鷹揚亭がフリーグ家の料理を出すようになって、随分と客足が減った。客は宿屋の食堂で飯を食わなくなったし、鷹揚亭で深酒しようとその店に近い立地の宿屋に客が流れたからだ」
それは、なんというか……申し訳ない。今度父さんに相談してみるか。
「それでもウチに泊まってくれる常連もいる。その常連の商人から仕入れた情報によると、あれらは全てフリーグ家の娘のアレクサンドラさんが考えた料理で、その娘と鷹揚亭の娘が同級生で友人だから調理法が伝わっているというんだ」
その情報は、姉さんとエマさんが友人だという点以外は間違ってるぞ。あまりその商人は信用しない方がいいかもな。
「友人だから、そんな理由で情報を貰えるなんて、狡いじゃないか」
いや、たぶん、父さんが気兼ね無く酒を飲みたくて、姉さんが産まれる前から通っている鷹揚亭に情報を漏らしたんだと思う。家で飲み過ぎると母さんに怒られるから。
まあ飲み過ぎて帰って来て、母さんに怒られているんだけど。
「だから俺はゲオルグ君の友人になって、後にお姉さんを紹介してもらい、お姉さんの友人となって調理法を教えて貰うんだ」
うん、清々しいほどに、俺を利用する気だな。
「将来料理人を目指しているペーターも、兄を助けたいと思っているロジーネも同じさ。今日、アレクサンドラさんの屋台で食べたあの素晴らしい料理を食べて、俺達の決意は固まった。あれはまだ誕生祭にも出していない料理だ。俺達はあの料理の調理法を知りたい。あれは王都の新しい名物になる。それとも、ヴィム君に協力したら、あの料理の調理法を教えてもらえるのかな?」
独白を終えて満足したのか、ルッツが大きく息を吐いた。
自分達の考えを代表して話したルッツに贈る、ペーターとロジーネの拍手。
ポカンとしてルッツ達を見つめるミリー達と、これからどうするんだとリーダーに視線を送るヴィムに付いたクラスメイト達。
背後からの視線に押されたヴィムが何か喋ろうと口を開いたその時、
「魔導具の設置が終わったので、10組は入場してください」
試合管理部員が控室の扉を開いた。




