第42話 俺は相手の話に疑問を持つ
「ここで判断を間違えると、お前達の親も悲しむ事になるぞ。大人しく俺の誘いに乗っておけ」
自身の勧誘を断った3人に対して、クラスメイトは脅迫めいた言葉を用いて再度勧誘した。
「しかしねヴィム君。君のあの話は大変魅力的なんだが、それを信じる根拠が無い。せめて文書に残すくらいはしてもらわないと」
誘いを断った3人の1人、ルッツと呼ばれたスラリと背の高い茶髪の少年が、申し訳無さそうに反論した。
「俺が、嘘を言っている、っていうのか?」
ヴィムと呼ばれたクラスメイトが、ルッツを不機嫌そうに睨んでいる。
「君、ではなく、そもそも君に話を持ち掛けて来た誰か、を信じていないんだ。君だって、その誰かとは口約束なんだろ?」
ルッツの指摘に、既にヴィムの誘いに乗っている他のクラスメイトがざわつきだす。
話について行けなくなったミリー側のグループは、その様子をキョトンとした顔で見守っている。
「口約束だが、皆も知っている立派なお方の言葉だ。俺の昔からの友人を介しての話だった。そのお方も友人も疑う理由が無いから、文書に残さなかっただけだ」
ん?
「しかし、その『立派なお方』が何処の誰かは、言えないわけだ」
ヴィムの言い訳を予め予想していたのか、ルッツは間髪入れずに反論した。
俺の脳裏にふと浮かんだ疑問は、その反論によって霧散して行った。
「お前に教える必要が無いだけだ」
「『立派なお方』と言われて思い付くのは、国王、宰相、王妃、王太后」
睨み付けて来る相手をしっかり見据えながら、ルッツは心当たる人物を指折り数える。
「王弟、ボーデン公爵、東方伯、南方伯、君の地元の西方伯、北方伯、第1王子、第2王子、第3王子……そう、第3王子か」
ルッツの言葉にヴィムは僅かに反応を示したが、その相手の名は俺にとっても衝撃的な名前だった。
「ふーーん。第3王子がねぇ」
ヴィムは唇を噛み締めながら、ルッツを睨み続けている。僅かにでも反応してしまった自分を恥じているのかもしれない。
「あんなに人の良さそうな顔をしてるのに、対戦相手が仲間割れするように仕向けるなんて……人は見かけによらないね。あの悪名高い第2王子ですら、武闘大会では問題を起こしていないというのに」
「ちょっと待て」
自分の意志に反して、俺の口から言葉が飛び出した。
「プフラオメはそんな策謀めいた事が出来る男じゃない。正々堂々戦う方を選ぶやつだ」
俺が第3王子を擁護するとは思っていなかったのか、ルッツは僅かに目を見開いて驚いた表情を作ったが、すぐに気を取り直してその顔に笑みを浮かべた。
「そういえばゲオルグ君は第3王子と懇意だったね。でも」
「分かった。正直に言おう。第3王子だ。だから信用しろ。ついでにゲオルグもこっちに付け」
ルッツの言葉を遮って、ヴィムが告白した。
その告白に、ミリー側に付いたクラスメイト達も動揺する。
「第3王子の願いは簡単だ。次の試合で負けるだけでいい。不戦勝だと疑われるから、上手く手を抜いてな。それだけで俺達ひとりひとりに大金が転がり込む。俺は、俺の家族の為にその金が欲しい。だから、俺に協力してくれ」
もはやコソコソと隠し通す必要は無くなったからか、ヴィムは真面目ぶった顔で心情を吐露した。
「ルッツの実家の繁盛してない宿屋も、ペーターのところの荒れた農地も、ロジーネの兄が継いだ借金まみれのパン屋も、全部金が有れば立て直せる。親が自営業じゃないやつらは、自分の学費に当てたっていい。それで家族の暮らしが楽になる。だから、俺に協力しろって言っている。これは俺の為じゃなく、家族の為だ!」
「繁盛してなくて悪かったな」
「お、俺達にもくれるのか?」
ミリー側に付いていたクラスメイトの1人が、遠慮がちに問いかける。
「ああ、騎馬戦参加者には時間が無くて話せなかったが、何人でも大丈夫だ。そういう話になってる。今ミリーを裏切れば、俺が全て良いようにしてやる。家族は、大事だろ?」
家族を前面に押し出すヴィムの誘いが、クラスメイトの心を大きく揺さぶった。
「……ごめん、ミリー。うちも家族が多くて……その、大変なんだ」
「そう。仕方ないね」
ヴィムへ鞍替えする仲間を、ミリーは引き留めなかった。
1人、また1人と、ミリーの側から離れて行く。
クラス対抗戦で優勝するという栄誉だけでは、家族の腹は膨れないのだから。
「これでこちらは11人、過半数だな。ルッツ達はもうこちらに来なくてもいいが、頭を下げたらもう1度だけ決断する機会を与えても良いんだぞ」
第1勢力となって気を良くしたヴィムが、これで最後だぞと念を押す。
「うーーん。でも俺達が今欲しいのは金じゃないんだ。それにやっぱり君の話は信じられないしね」
「金以外に、何がお前の家族を助けるっていうんだ!」
「それはね、情報さ」
ヴィムに向かって不敵に微笑み返したルッツが、他の2人を伴って移動を開始する。
その移動先は。
「俺達3人は君に味方するから、よろしくね」
俺の斜め後ろに陣取ったルッツが、俺の左肩にぽんと手を乗せながら、そう言った。




