第41話 俺は友の意外な一面を知る
クラス対抗戦準決勝の組み合わせを決めるクジ引きの結果、俺達の相手は優勝候補の1組に決まった。
その試合は準決勝第1試合で、試合開始はこの後少しの休憩を挟んですぐだ。
「あ~あ、これで俺達の大活躍も終わりだな。対戦相手は1組だし、第1試合では騎馬戦の疲労が抜け切る時間も無い。り〜だ〜のクジ運が最悪過ぎて笑える」
くじ引き前にミリーと言い争いをしたクラスメイトの男は全く矛を収める様子は無く、下卑た笑みを携えて再びミリーに噛み付いた。
これから行われるのは、予選を勝ち進んだ4組で争うトーナメント方式の準決勝。
対戦相手が1組になる確率は3分の1。
準決勝第1試合になる確率は2分の1。
両方重なる確率は、6分の1?
ま、まあその辺りの確率は難しいから置いておこう。
どちらにしろそれらが両方重なる可能性は十分に有るわけで、特段ミリーのクジ運が悪いとは言えないはずだ。
それをまあ嫌味ったらしくグチグチと。こんなに性格の悪い奴が同じクラスに居るとは知らなかった。プフラオメの取り巻き達と目くそ鼻くそだな。
「ごめんごめん、順番的にクジを引けなかったんだ」
しかし、絡むクラスメイトに対して、ミリーはそれが何でも無い事のように笑って返した。
そこにはクジ引き前に取り乱していたミリーは居らず、普段以上に明るく笑おうとするミリーが居た。
ミリーによると、クジ引きの順番は予選の勝率で決まっていたらしい。
5勝0負の1組が最初にクジを引き、4勝1負の5組、3勝1負の8組が続く。そして2勝1負1分の10組はクジを引けなかったというわけだ。
まあクジ引きってのは誰かは選べないもんだよな。
しかしクラスメイトはこんな単純な仕組みも理解出来ないようで、
「良い場所が残っていなかったのは、お前のせいだろ!」
と唾を飛ばしている。
いや、しっかりと理解した上で、ミリーに文句を言いたいだけかもしれない。恐らく理由なんて何でも良いんだ。
「うんうん、君の言い分は分かったけど、それで君はどうしたいのかな?負けると分かっている試合には参加したくないというのならそれでも良いよ。他のみんなも不参加ならその手続きをするから、今言ってね」
絡んで来る男だけでなく、クジ引き前にそいつが言った俺への嫌疑に賛成したクラスメイト達にも、ミリーは満面の笑みを向ける。
ミリーとの付き合いは春からで短いものだが、それでも、その笑顔を構成する目の奥が笑っていないのは理解出来た。
「私は、何があろうとも、1組との戦いに、挑み、勝利する!」
1度笑顔を消したミリーが、ゆっくりと、力を込めて、決意を口にする。
1組に勝ちたいという気持ちは、騎馬戦の準決勝で1組と戦った時に芽生えた気持ちだろうか。それとも何か、別の思惑があるのかもしれないが。
「1組に勝つ為にはゲオルグの魔導具が不可欠。私はその魔導具を、ううん、『魔導具技師のゲオルグ』を信頼し、信用してる。みんなも知ってると思うけど、ゲオルグが作った魔導具は、ほんとに凄いんだから」
こちらを向いて、凄いんだからと言った時の笑顔。今度は目の奥までしっかりと、笑っていた。
「他人が私の事をなんて言おうが、どうでもいい。私がリーダーの、領主の器じゃ無い事は自分が良く分かってる」
あえて領主と言い直した時、ミリーはその言葉に少しだけ悔しさを滲ませた。実家の伯爵家に関して、俺は深く聞いた事が無いから分からないが、恐らく思うところが有るのだろう。
普段楽しそうに笑って生きているミリーにも、心の奥に秘めた想いが有る筈だ。
「私に付いて来いなんて言わない。試合に参加するもしないも、みんなの好きにしたら良い。でも、ゲオルグを批難する奴は、試合の邪魔だから付いて来ないで」
取り乱した時のように叫ぶでも無く冷静に、幼い子供に言い聞かせるように、ミリーは自分の考えを吐き出した。
しかし、真顔になって話すミリーをクラスメイトは鼻で笑った。
「何が付いて来るな、だ。次の試合、排除されるのはお前達の方だ。そうだろみんな!」
ミリーに反発したクラスメイトの背後に、ぞろぞろと他のクラスメイトが集まり始める。
しかしその動きに反対するように、ミリーの後ろにも人が集まり始めた。
ミリーに賛同する者、反発する者、どちらに付くか迷っているのかその場から動かない者。
クラスは3つのグループに分かれたが、今のところ、馬術競技に参加した仲間達から票を得たミリーが最大グループを形成している。
俺はまだ移動していないが勿論ミリー側に付く。これでミリーのグループは9名だ。
対する向こうは8名で、意外と人が集まった印象。あんな嫌味な笑い方をする彼に、それほどカリスマ性が有る様にも見えないが、俺には理解出来ない美点が有るのかもしれない。
「おい、ルッツにペーター。それにロジーネも。ここは俺に従っておいた方が得だと何度も教えてやっただろうが。伯爵家に見捨てられた女に従っても、楽な暮らしは出来ないんだからな」
俺と同じでまだ移動していない者達を歪んだ笑顔で勧誘するクラスメイトだが、
「済まない。君のその話を聞く前から、俺達はもう誰に付くか決めていたんだ」
顔を見合わせた3人を代表して、ルッツが答えた。




