第46話 俺は新たな魔導具を依頼する
「ねえ、どんな剣がいいかな。すっごく大きな剣にしようか」
姉さんからもの凄く圧を感じる。なんでそんなに楽しそうなんだ。
「姉さん落ち着いて。大きな剣を貰っても、俺は持てないから。家にも入らないし、庭に放置することになるからね」
「そっか、じゃあ雨風に強い素材にしないとね」
「気にすべき所はそこじゃない」
「でも家に入るよう折り畳みにすると、強度が落ちるよ?」
「大きな剣から離れない?」
「正直に言うと、師匠みたいに上手に出来ないから大きな剣になっちゃいそうで」
「剣じゃなくていいよ。クロエさんみたいにブレスレットとか」
「えー、剣の扱い上手だったっじゃん。ね、ジーク」
「そうだな、もったいないぞ」
まさかこんなところで2人が結託するとは。
姉さんはこの前俺の嫌がることはしないって言ってなかったっけ?
「あんなに楽しそうなゲオルグは久しぶりに見た。初めてゲオルグに魔法を見せた時以来じゃないかな。だから絶対剣が好きなんだと思ったんだけど、違うの?」
くそぅ。昨日までの俺なら、剣は好きじゃないとはっきり言うんだけどな。
でもここで否定しても姉さんは納得しないだろうから、ちょっと方法を変えよう。
「わかった、そこまで言うなら剣でいい。でも俺の言う通りに作ってほしい」
「いいよ、何でも言って」
「剣は片刃の両手剣で少し剣身を湾曲させ、斬ることに特化した剣にしてくれ。大きさは誕生日にジークさんから貰ったものより少し長めにしてほしい。柄の長さは同じで剣身を伸ばしてほしい。ジークさんに貰った剣は軽いけど、剣戟には弱いそうだ。でも俺は軽くて丈夫な剣がいい。柄頭に目立たないよう鉱石を設置してくれ。魔法は草木魔法で、隠し持っている種が成長して標的を捕縛する魔法がいい。あ、魔法は鉱石を触りながら言霊を言うと発動するようにして。言霊は、そうだなぁ、呪縛で」
思い付くままに言葉を羅列する。イメージは日本刀だ。丈夫な刀でずばっと一太刀だ。別にまんま日本刀じゃなくてもいい、無理難題を吹っ掛けたかっただけだ。
魔法についてもそう。覚えたばかりの草木魔法。言霊も指定して、発動方法も今までとは違う。無茶だってことは分かっている。
どうだ、この条件を満たせない剣は要らないよ。
諦めてください。諦めたら簡単な条件のブレスレットを頼みます。どうか剣は諦めてください。
「いいよ、それでいこう。でもせっかく火魔法の制御法を習ったから火魔法も使ってほしいな」
しばらく間を置いた後、姉さんは首肯した。さらに火魔法もどうだと提案している。
もしかしてまだ余裕があるのか?
なら追加で発注してやる。
「じゃあさっき言った剣に火魔法の鉱石を付けてよ。鍔と柄頭の2か所ね。目立たないようにして言霊で発動するようにしてほしい。その2つの言霊は任せるよ。で、もう一つ剣を作ってほしい。こっちも片刃の湾曲した剣で、さっきの剣より短く片手で振れるようにしてほしい。もちろん軽く丈夫にね。で、さっき言った草木魔法をこの剣に付けて欲しい」
「ふむふむ、大きな両手剣と小さな片手剣ね。ちょっと紙を取って来るから、後でもう一度言って」
そういうと姉さんは工房に戻った。
本気でこれを作れるのだろうか。
「俺達も入ろう」
裏庭で立ち尽くしている俺をジークさんが誘導する。
「結構無茶を言った自覚があるんですが、姉さんになら創れるんでしょうか」
「さあどうだろう。でもやると言ったらやる娘だからな。魔法を使っているアリー様をゲオルグ様が好きなように、剣を握っているゲオルグ様にアリー様は惚れてしまったんじゃないか?」
俺も惚れた1人だ、とジークさんがボソッと付け加えた。おっさんに惚れられても困る。
でも、そういうことなの?
只の気まぐれでしょ。師匠に習ったばかりだから剣に拘ってるだけでしょ?
工房に入ると紙とペンを用意した姉さんが近づいてきた。
「さあ、もう一回言って。さらに付け加えてもいいよ」
俺は大きな仕様変更はせずに、2振りの剣を姉さんに依頼した。
細かな内容を詰めていると、いつの間にか大人達に取り囲まれていた。
「ほう、なかなか楽しそうな注文だな。腕が鳴るぞい」
「ちょっと師匠。これは私が頼まれた剣だからね。手を出さないでよ」
「いつでも工房を使っていいけど、両親が心配するといけないから夜はお家に帰るのよ」
「ヤーナさんありがとう。今度からはお昼のお弁当を持ってくるよ」
「アリー様、この魔法を封じ込めるなら鉱石より希少な宝石の方がいいと思います。ただ現在アリー様が自由に出来るお金では、利用できる大きさの宝石は手に入らないと思います」
「また魚人族の親方の所で荷運びの仕事をするよ。ここでも剣を売ってもいいよね?」
「じゃあ俺は兵士達の剣を新調するように頼んで来よう」
「いや、無理に売りつけるなんてダメだよ」
ジークさんの提案をビシッと断る姉さん。肩を落としたジークさんをソゾンさんがからかっている。
どうしてみんな姉さんに協力的なんだろう。
からかわれているジークさんも含めて、みんな楽しそうだ。
俺はまったく楽しくない。何も楽しめない。
楽しめないからと言って、1人で帰る訳にはいかない。
俺はみんなのやり取りをぼーっと見つめているだけだった。
それから姉さんは仕事に鍛冶に魔法の研究と大忙しだった。
ヤーナさんとの約束通り夕飯には帰って来て、翌日の朝食後に出かけて行く。姉さんのお弁当はアンナさんが作っている。一度俺の分も作ってもらったがとても美味しかった。
ソゾンさんの弟子としてグリューンへ付いて行き、温室の魔導具設置を手伝って父さんから給料を貰ったそうだ。割の良い仕事だったと姉さんがほくそ笑んでいた。父親からぼったくってないよね?
言霊の研究ではマリーと良く話し合っていた。聞けば内容を教えてくれるが、言霊の相談はされないのが寂しい。
依頼主はどーんと構えといてと言われる。
俺が無理難題を吹っ掛けたのに頼られたいとか馬鹿らしいね。
どーんと構えていると季節は冬を迎え、年を越し、姉さんの誕生日が近づいてきた。
俺はこの期間何もしていない。
たまにクローゼットの奥を覗いて、素振りをしようかと葛藤していたのは内緒だ。




