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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第12章
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第36話 俺は試合管理部に不満を感じる

 マリーの剣が舞う。


 振り上げ、振り下ろし、払い、突く。


 本体とは別の生き物のように動く2本の剣が、俺の左肩の魔導具を執拗に狙って来る。


 剣を投げるような変則的な動きはせず、正面から愚直に。


 その本気になったマリーの剣速と足捌きに対して、俺は左腕を犠牲にしながら防御するだけで、精一杯だった。




「決まりました!マルグリット選手の優勝です!」


 実況者が興奮気味に宣言する。


「試合後半になって、ゲオルグ選手はマルグリット選手の動きに全く反応出来ず、苦戦を強いられていましたね。まあ、試合時間ギリギリまで良く粘ったんじゃないですか?」


 解説者がやや嘲笑を交えて分析した。


 負けた。


 試合内容は解説の言う通り。本気になったマリーの動きに俺は全くついて行けていなかった。


「ふぅ、ふぅぅ……。ゲオルグ様……お疲れ様です」


 試合終了間際に俺の懐に飛び込み、右手の剣で俺の左肩の魔導具を破壊したマリーがそのまま離れる事無く、顔を紅潮させて俺に凭れかかって来た。


「力……使い過ぎて……」


 数秒前まで元気に動き回っていた人間とは別人のように脱力したマリーを両手で受け止める。


 熱い。


 マリーの身体が熱を持ち、着ている服からも汗が滴り落ちている。熱と同時に耳に届く荒い呼吸が、俺の不安を掻き立てた。


 何がどうなったらこんな体調に。と、取り敢えず急いでエステルさんのところへ。


 自作した回復魔法の魔導具の存在を忘れ、意識を失っているマリーを背負って医務室に運ぼうとモタモタしていたら、異常を察した審判員が手を差し伸べてくれた。


「マルグリット選手はこれで、『一度も自身の魔導具を破壊される事無く相手の魔導具を全て破壊する』、という所謂完全勝利を成し遂げました。1年生では初の快挙です」


「大会最終日に行われる学年対抗戦が今から楽しみですね。組み合わせ次第では良い所まで行けるでしょう」


「しかし次は派手な戦いを期待したいですね。剣術が悪いとは言いませんが、正直決勝戦としては、少し盛り上がりに欠けた感が有りますよ」


「まあ次の試合は皆上級生ですから、マルグリット選手も剣で遊ぶ余裕は無いでしょう。上級生の胸を借りて、必ず全力の魔法が見れますよ」


 何言ってんだアイツら。今のマリーを見ずに適当な事を言いやがって。


 こんなグッタリした状態のマリーが、剣で遊んでいた?


 あの2人の目は節穴だ。遊びでこんな状態になるかよ。


 俺が負けたからそう言ってるんじゃない。マリーは剣で戦っても上級生に負けない強さが有る。


 後で試合管理部に苦情を言おう。試合を盛り上げる目的が有るんだろうが、個人的にあの2人の実況解説を面白いとは思わない。


 暢気な声を拡散させている2人に怒りを覚えながら、背中のマリーを医務室まで送り届けた。




「意識を失ったのは魔力切れの為です。しばらく眠っていれば意識は回復するでしょう」


 マリーを医務室に送り届け、医務室の外で待っていた俺にエステルさんが診察結果を教えてくれた。


 どうして外で待っていたのかというと、汗で濡れているマリーの服を脱がせて着替えさせたりする間、医務室内が男子禁制になってしまったからだ。因みに医務室で働く保険管理部の男達も皆、俺と一緒で外に追い出されていた。


「しばらくってどれくらいの時間でしょうか。マリーはこの後、クラス対抗戦も有るんですが」


 俺の疑問にエステルさんが首を横に振る。


「どのくらいで目覚めるかは個人差が有るので、確かな数字を伝える事が出来ません」


 魔力を使い過ぎて倒れた人間の意識回復は、自身の呼吸で空気中の魔力を取り込み、体内の魔力量が一定値を上回るまで待つ必要が有る。


 もし患者が身体的異常で呼吸出来ない状況になっているならばエステルさんの回復魔法で治療出来るが、魔力を与える事は出来ない。


 魔力切れの治療に必要なのは時間なんだ。


 丁寧に話してくれたエステルさんの解説を、保険管理部の男どもがウンウンと頷きながら真剣に聞いていた。もう中に入って良いんだから仕事に戻りなさいよ。


「なので、怪我の治療や解熱を行った後の私には、これ以上何も出来ません。ごめんなさい」


「あっ、いや、エステルさんを責めたんじゃないんです。頭を上げてください」


 周りの男どもの視線が痛い。エステルさん、人気者だな。


「でも、マリーは魔法を使わずに試合していたんですよ。どうして魔力切れになったんでしょうか?」


「おいお前。アリーさんの弟だから、百歩譲ってエステル様と話す事を許しているが、エステル様の診断を疑うのは我慢出来んぞ!」


 俺が再び疑問を口にすると、保険管理部の1人の男が、眉間に皺を寄せた顔をグイッと近づけて凄んで来た。


 おー、おー。もしかして、エステルさんの親衛隊的な?


 へー、なるほどなるほど。


「やめなさい」


 マジマジと相手の顔を見ていた俺の胸ぐらを掴みかかろうとしたその男は、エステルさんの一言で大人しくなった。2人がどういう関係なのかちょっとだけ気になる。


「ゲオルグさんの言葉が本当なら、その答えはあの子が答えてくれますよ」


 エステルさんが指差している通路の向こう側には、心配そうな顔でこちらの様子を窺っているクロエさんが居た。

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