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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第12章
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第35話 俺はマリーに攻撃を仕掛ける

 1撃目。


 右肩の魔導具を狙う左手剣の突き攻撃。


 2撃目


 連続して右肩の魔導具を狙うと見せかけて、右太腿に狙いを変えた突き攻撃。


 3撃目。


 回避の為に意識を右太腿に向けた俺の頭上に振り下ろされる右手剣。


 4撃目。


 頭上への攻撃を剣で受け止める為に両腕を上げた隙を狙う左手剣の胴薙ぎ。


 5撃目にはまだ早いが、マリーの流れるような攻撃を止める為に、素早く前進して距離を詰める。


 マリーと急接近した結果、両腕を上げた俺のガラ空きな左脇腹に当たるのはマリーの細い左前腕のはず。剣で薙ぎ払われる事と比べたら、痛みなんて無いに等しい。


 このままマリーにくっついて動きを封じ、先にマリーの肩の魔導具を。


「ぐっ、っはぁあ」


 当たっても痛くないだろと油断していた俺は、想定外の痛みに思わず悶絶して吐息を漏らした。


 それでも俺は踏ん張ってマリーの追撃に備えようとしたが、俺の予想に反してマリーは大きく後方に下がって距離を取った。


 下がったマリーが右人差し指で、左手剣のある部分を指差している。


 そうか、柄か。


 俺の接近に対してマリーは剣を振る為に伸ばした腕を折り畳み、剣の柄頭を俺の脇腹に突き立てたらしい。それは痛いわ。


 しかしあれくらいの痛みで動きを止めてしまうとは情けない。肉を切らして骨を立つつもりなら、あれくらいは我慢して攻撃を続けないとな。痛くても、俺の体はすぐに治るんだから。


「ふぅぅ」


 息を整え、構えを中段に戻す。


 冷静さを取り戻そうと努める俺に対して、マリーはニンマリと口角を釣り上げ、こちらに向かって勢い良く左手を横薙ぎに振った。


 それによって投擲された左手剣。


 切先を俺の胴体に向けて真っ直ぐ飛んで来る剣を追い掛けるように、マリーも駆け出している。


 なんだその面白くない攻撃は。そんな距離から剣を投げて、誰がそれに当たるっていうんだ。


 俺は右前方に足を動かし、投げられた剣を難無く回避する。


 そのまま剣を上段に構え、無防備に近寄って来たマリーに向かって振り下ろした。


 体を捻って俺の剣をギリギリで回避したマリー。俺は振り下ろした剣を左手一本で振り上げて追撃する。


 マリーは剣の動きをしっかりと目で追いつつ左足を持ち上げ、下から迫る剣に靴底を合わせた。


 俺の振り上げる力を利用して、マリーは空へ飛び上がる。屈伸姿勢でクルクルと縦に回転しながら大きく飛翔したマリーは、投げた剣が転がっている地点にどすんと音を立てて着地した。


 曲芸のようなマリーの動きに観客が盛り上がっている。


 あの飛び上がり方。流石に俺の力だけではあそこまで飛ばせない。飛行魔法を使ったんじゃないのか?


 攻撃に使ったわけじゃないから狡いとは言わないが……いや、やっぱりちょっと狡いぞ。


「ゲオルグ様、そろそろ本気を出しても良いですか?」


 左手剣を拾い上げたマリーが遠くから声を張って、和やかな表情で挑発して来た。


 おいおい、まさか魔法を使って攻撃するって意味じゃないよな?


「この試合は魔法や魔導具を使いませんと約束したじゃないですか」


 でも、さっきの動きは飛行魔法だろ?


「いいえ、違います」


 飛行魔法じゃないなら重力魔法か。どちらにしろ、アレは魔法を使った動きに違いない。


「違うんですけど、おしゃべりは時間の無駄なので、早速行きますね」


 無理矢理話を切り上げたマリーがこちらに向かって走り出す。


 本気と言った割には今までと変わらないマリーの動きに少し戸惑う。


 ある程度接近したマリーが再び左手剣をこちらに投擲した事で、戸惑いは更に大きくなった。


 全く同じ手で仕掛けて来ておいて本気とは、流石にハッタリが過ぎる。


 飛んで来る剣を弾き飛ばして、今度こそマリーに一撃を加えてやる。


 俺は軽い足取りで右に避けつつ剣を振り上げ、飛んで来た剣を下から叩いて弾き飛ばした。


「ありがとうございます」


 背後から聞こえるマリーの声。


 振り向く間も無く右肩に走る衝撃。それに続く審判の声。


 マリーを称える観客の声援。


 混乱している脳が耳に入って来る情報を処理し切れない。いったい何が。


「ゲオルグ様、私から目を離してはダメですよ」


 何を見る訳でもなく呆然としていた俺の視界に、嬉しそうな笑顔のマリーが割り込んで来た。


 目を離したつもりは無かった。投擲された剣に狙いを定めながらも、視界の端にはマリーを捉えていた。


 あの時のマリーは、確かに攻撃が届く距離には居なかった。やっぱり何か、魔法を使ったんじゃないのか?


「さあ、試合終了までまだまだ時間は有りますよ。しっかりと、私を見ていてくださいね」


 買ったばかりの服を見せびらかす少女のように、マリーはその場でクルクルと回転しながら楽しそうに舞っていた。

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