第32話 俺は魔植物を預ける
「はい、お預かりします。ところで、この子達を育ててみて何か気になる点は有りましたか?」
特には。みんな火魔法にも恐れず勇敢に立ち向かってくれたので、とても感謝しています。
「そうですか。そう言って頂けたら、この子達も生きた意味が有りますね」
燃えて黒ずんだ魔植物を撫でながら、エステルさんはぎこちない笑顔を作っている。
すみません。無茶な使い方をして。
「いえいえ、種のまま保存され続けるよりは。それにまだ頑張って種を残せる子達もいますから」
それは良かった。後はよろしくおねがいします。
「はい。ゲオルグさんも決勝戦頑張ってくださいね」
まだ少しぎこちなさが残る優しい笑顔に見送られ、俺は訓練場の医務室を後にした。
おや?
医務室から選手控室へ向かうと、控室から出て来たクラスメイトと鉢合わせた。
ミリーとアランくんだ。
アランくんはいつも通りだが、ミリーは頬を膨らませて機嫌の悪さを訴えていた。
あぁ、きっと試合に負けたんだな。
「準決勝お疲れ様」
エステルさんがやっていたように笑顔を作って2人の労をねぎらうと、
「まだ終わってない!」
ミリーが苦虫を噛み潰したような顔で憤慨した。
終わってない?
どういうこと?
「引き分け再試合」
地団駄を踏んでいるミリーに変わって、アランくんが答えてくれた。
お互い破壊した魔導具が同数だった、って事か。
「でもアレは、私達の勝ちだったのに」
「審判に逆らうのは良くない」
「それは分かってるけど……でも」
ミリーは審判に対して不満が有るのか。
「1組は魔法使ってるのに、審判が見逃したの」
アランくん、ほんと?
「たぶん」
「騎馬であんな動きは出来ないって、アランも言ってたじゃない!」
「僕は出来ない。でも、僕が知らない技術が有るのかもしれない」
なるほど。おかしな動きが有ったのは本当っぽいな。
カチヤ先生はなんて言ってるの?
「もう1回頑張ろうって」
そっか。じゃあ再試合を頑張るしかないね。
「納得いかない!」
そう言われても、俺にはどうしようもない。
試合管理部に相談出来る知り合いも居ないしな。せめてミリー達の試合を観ていれば。
そうだ、姉さんが居るじゃん。姉さんに相談したら?
「アリーさんは準決勝が始まる前からずっと居ない」
そうなの?
こんな肝心な時にどこに行ったんだろ。屋台は姉さんが居なくても大丈夫だろうが。
「ねえゲオルグ。用意して貰った魔導具、使ってもいい?」
姉さんの行方について考えを巡らせていると、ミリーがぐいっと真剣な顔を近づけて来た。
「1組が再試合でも不正をして来るようなら、私達も」
そうか、それでわざわざ試合の合間にこっちまで来たのか。
でも、用意した俺が言うのもなんだけど、魔導具使用が見つかったら反則負けになるんだろ?
「どちらにしても、このままじゃ勝てない。だから次の試合には秘密兵器を持って行きたい」
まあ同じ試合をしても勝てないって言うのは分かるけどさ。
「借りても使わないかもしれないしさ。御守り代わりに。ほらアランも、頭下げて」
あーー、わかったわかった。御守りだよ、使っちゃダメだからね。
「ありがとう」
魔導具の使い方は覚えてるね。言霊も。
「うん、大丈夫。アランが覚えてるから」
ミリーに視線を向けられたアランくんは、黙って首を縦に振った。
魔導具を5つ渡してミリー達と別れた俺は、控室の扉を開いた。
控室内には、決勝戦の対戦相手、マリーが居た。独りで長椅子に腰掛けて、ぼーっと壁を見つめている。
「ああ、ゲオルグ様」
入室した俺に気付いたマリーが、おいでおいでと手招きした。
別に離れて座る理由も無いなと、同じ長椅子に並んで腰掛ける。
「ミリー達が探していましたが、外で会いましたか?」
荒れ狂うミリーと違った和かな表情で問うて来たマリーに、会ったよと短く答えた。
「すみません。1組にはどうしても王子を優勝させたい勢力が居るんですよ。たぶん今回も何かやっている筈です」
すみませんと言いながら表情は全く謝っていない。むしろ嬉しそうだ。
「そんなことないですよ。不正が見つかって退学になれば良いのにとか思っていません。ところでゲオルグ様。次の試合はどうやって戦うつもりですか?」
どうって、今まで通りに。
「そうですかそうですか」
毎試合戦法を変えられる程器用じゃない事は知ってるだろ。
「ええ、私はゲオルグ様の1番の理解者ですから」
そんなに自慢げに胸を張る事でも無いぞ。
「でもゲオルグ様と戦うのは久しぶりですね。いつ以来でしょうか」
さあ、記憶に無いね。もしかして初めてじゃない?
「では今回は、しっかりと記憶に刻み込んでみせましょう」
マリーは高らかに宣言をして、にんまりと口角を吊り上げた。




