第30話 俺は疑念を抱かれる
ふー、ふー、ふーー。
よしっ、今!
「土壁!」
既に数個完成している土壁の合間を縫うようにして、人頭大の3つの火球が左方向から飛来する。それらをギリギリまで引き付けたところで、新たな土壁を生み出す。
突如地面から迫り上がった土壁に、1つ、2つと火球が激突して音と風を生む。が、3発目の音が無い。
3発目の火球は激突寸前で止まって進行方向を変え、壁をぐるっと回り込むように動き出していた。
これだ。この遠隔操作能力が、リンダさんの売りだった。そしてあの複雑な動きは、残念ながら魔導具ではまだ出来ず、空中で確実に迎撃する事が難しかった。
盾にしていた土壁を蹴って横に飛ぶ。耳を塞ぎながら、試合開始数分で凸凹になった地面を転がり逃げ回る。
数秒前まで俺が居た地点に火球が着弾し、地面が抉れて弾け飛ぶ。
たとえ直撃を避けても、爆音と熱風、そして飛び散った土塊が近くに居る人間を追撃する。
この火球の威力。遠隔操作能力に特化するだけではなく、火球1つ1つをしっかりと作り上げる基礎力も有る。
しかし、リンダさんの能力に感心する暇は無い。俺はすぐに立ち上がって、手近の土壁に身を隠す。
ふー、ふー、ふーー。
息を整えろ。冷静になれ。まだまだ、焦る時間帯じゃない。魔導具も、まだ有る。
が。
大きな炸裂音と共に凭れていた土壁がぐらりと揺れて、衝撃を背中に受けた俺は目の前の地面に投げ出される。
うつ伏せに倒れた俺に向けて、土壁を乗り越えた2つの火球が斜めに降って来る。
土壁でこちらは見えていない筈なのに、随分と狙いが正確だ。
「土壁!」
俺が倒れている真下の地面が勢い良く盛り上がり、俺の体をそのまま持ち上げる。
土壁に乗った俺は降って来る火球達とギリギリですれ違い、なんとか火球は回避出来た。しかし土壁に2発の火球がぶつかり、その衝撃で揺れた土壁から放り出された。
なんとか両足で着地しようと体を捻ったところで、視界の先から新たな火球群が接近していた。
「ゲオルグ選手は防戦一方。全く反撃出来ていません。試合時間がまだ半分近く有るとはいえ、厳しい戦いですね」
爆発音の切れ間に、実況担当者の声が耳に届く。
連続で飛来する火球から逃げ回り、土壁を建て続けた結果、リンダさんの攻撃間隔が徐々に開き始め、俺の心に少し余裕が出て来た。
リンダさんは土壁の乱立で俺の位置把握が難しくなり、どうやって攻めようかと悩む時間が増えたに違いない。
俺はこの隙に背中のリュックから魔導具を取り出して使用済みの物と入れ替える。まだ攻めるつもりは無いが、いつでも反撃出来る用意はしておかないと。
「しかし、1年生にしては頑丈というか、根性が有りますね。あれ程何度も火球が間近で爆発していたら、戦い慣れていない1年生は心が折れそうなものですが」
解説担当者の言葉を聞きながら俺は移動を開始した。
高さ、幅、共に2メートル程の厚い土壁。
試合開始直後からリンダさんの火球を防ぐ為に建てまくった土壁は、自分でも把握出来ないような迷路を形成し、リンダさんの視界を大きく制限している。
「リンダ選手、攻撃の手が止まりました。流石に手当たり次第土壁を爆破していく行為は諦めたんでしょうか」
「試合も大詰め。このまま何もしなくても常に攻撃していたリンダ選手の判定勝ちは硬い。決勝戦を見据えて、魔力はなるべく温存したい。賢い選手なら無茶はしないでしょう」
魔力温存とは言うが、既に大多数の土壁がリンダさんの火球連打で倒壊されているんだけど。
土と相性の悪い火魔法でこれだけ壊せば流石に息切れして動きが止まるよ。もっと違うやり方が有ったんじゃなかろうか。
「がんばれー!」「リンダちゃーん!」
「ちゃんと戦えー!」「能無し」「逃げんな!」
動きを止めたリンダさんに向かって観客から声援が飛び、俺に対して罵倒が舞う。
「ゲオルグ選手はここ数分、隠れて逃げ回るだけで一切魔法を使っていません。この戦わない姿を観客が不満に思うのも無理は有りませんね」
「戦略と言えば戦略でしょうが、ゲオルグ選手は魔導具使いですから、相手の魔力だけを削ろうとするその動きは、ちょっと悪役っぽく見えてしまうのかもしれませんね」
随分と言葉を選んでくれたが、解説者も不満に思ってるらしい。
しかし、これは解説者の言う通り戦略なんだ。真っ向勝負は素晴らしいが、それだけが勝負では無いんだ。
「情報によると、既に決勝進出が決まっているマルグリット選手はゲオルグ選手の知り合いだそうで。なのでそういう、援護、的な」
「休憩時間が短いと、魔力が、的な?」
ハハハ、そんな事するかよ。マリーの決勝戦を援護するなんて、実況者も解説者も適当な事を。
そんな事言うから、観客席からのブーイングが倍増したじゃないか。
言われなくたって攻めるさ。そろそろ時間切れだし、疑念を晴らすには勝って決勝に行くしか無さそうだしな。




