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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第12章
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第26話 俺は背後を狙われる

「ほんとに、本当に大丈夫なんですか?」


 エステルさんの治療を受けて大丈夫だと言っているのに、マリーがしつこく後頭部を覗いて来る。


 現在、偶数組のクラス対抗戦予選が終わり、1時間程度の休憩時間に入ったところで、先に自分達の試合を終えて広場で待っていたマリーとローズさんと合流した。


 俺が後頭部を殴られた話は、試合を観戦していたクロエさんから情報が伝わったようで、俺と会うなりしつこく聞いて来た。


「頭を打って、少しは性格が丸くなっていると良いんだけど」


 ハハハ。ローズさんにそんな嫌味を言われても腹が立たないくらいには、元々懐が深い人間ですよ。


「いいえ。ゲオルグ様は優しい人ですが、すぐにカッとなって行動に移す人でもあります。普段はローゼの茶々に反応するのに、本当に大丈夫ですか?」


 急に優しいとかって評されるとむず痒いんだけど。


「やっぱりまだ頭部に違和感が!?」


 そうじゃねえんだよ。大丈夫、ほんとにあの件はなんでもないんだから。


 自身が頭部を激しく打って入院した経験が有るからか、マリーはこの件に関して本当にしつこかった。


 広場を出てから馬術施設に着き、自分の屋台に並んで肉まんを買おうとしている間もずっと、マリーは俺の背後に張り付いて後頭部を見続けていた。


 心配してくれているのかもしれないが、そこまで注意を向けられると逆に攻撃する機会を窺っているんじゃないかと勘繰っちゃうんだけど、俺の気のせいだよね?




 そっちの個人戦はどうだったの?


 屋台で肉まんと飲み物を買って近くのベンチに腰を下ろしたところで、俺は隣に座ったローズさんに話題を振った。


「最悪よ」


 ローズさんは溜息混じりの反応を返して来る。何か嫌な事でも有ったらしい。


「ほんと最悪。自分のくじ運がこんなに悪いって思わなかったわ」


「ローゼは1回戦で、王子と当たってしまいまして」


 相変わらず俺の背後に立っているマリーが捕捉した。


 マリーさん、全く落ち着かないんで、取り敢えず横に並んで腰掛けませんか?


「せめて初戦は同じクラスの代表同士が当たらないように調整するべきじゃない?全てくじ任せって、運営委員の怠慢だと思うのよね」


 俺が背後のマリーを煩わしく思っている間も、ローズさんは不満をぶち撒けている。


 まあまあ、今更試合の規則に文句を言っても仕方ないじゃない。今回は残念だったけど、来年以降また優勝目指して。


「はあ?」


 ローズさんを慰めようと言葉を選んだが、その不満の色はますます強くなっていった。


「あんた、私が王子に負けたと思ってるでしょ。随分と失礼ね」


 え?


 初戦で強敵のプフラオメと当たって負けたから、怒ってるんじゃないの?


「怒ってないし、負けてないわよ!」


 今現在は確実に怒ってますけど。


 俺は背後を振り向いて、マリーに真相を確認した。


「はい。ローズは魔導具を2つ破壊して王子を撃破しました。私と共に決勝リーグに進出します」


 あーー、それはおめでとうございます。


 でも、言い方が紛らわしくない?


 王子と対戦した事への不満を言われたら、誰だって負けた愚痴だと思うよね?


「どうだった?って聞かれたから、最悪だったって答えただけよ。王子との試合の件を言い出したのはマリーよ」


 そうだっけ?


「ローゼが王子に勝った後、取り巻きの人達だけじゃなく他のクラスメイト達からも『なんで王子に勝ちを譲らなかったんだ』って非難されまして」


「はぁ。王子の周囲が過保護過ぎて困る。早々に個人戦を敗退したおかげで馬術の方に集中出来たんだから、それで良いじゃない。それを何度も何度もぐちぐちぐちぐち。2回戦も3回戦も、試合中に野次を飛ばして来て」


 それは流石に悪質だな。試合の邪魔になるだろうし、試合管理部か警備管理部に相談した方が良いんじゃない?


「既に相談したけど、どうだか。王子相手だと委員達も腰が引けるんじゃない?」


 そんな事は、無いとも言えないな、王子に直接言った方が早いか。


「はぁ。やっぱりカチヤ先生に頼んで、10組に編入してもらおうかな」


 取り巻き達への対応に疲れているのか、ローズさんがいつになく弱気な発言をしている。


 首席で卒業する為に1組からは離れないって豪語していた人と、同一人物とは思えないな。


「この胸の中のモヤモヤした蟠り。懐が深いゲオルグにぶつけて発散しても良い?」


 えーー、嫌です。


「チッ、狭量ね」


 ハハハ。嫌だって言ってるのに、めっちゃぶつけて来るじゃない。


「もっと広量で寛容で闊達な人間にならないとモテないわよ」


 ローズさんこそ、その口と態度の悪さを改めないとモテませんよ。


「私は良いのよ。私には最悪、ゲオルグがいるから」


 えーー、嫌です。


「嫌ですって断り方有る?せっかく私が愛の告白をしたんだから、もっとしっかり考えなさいよ」


 ハハハ。今の言葉を告白と受け取る人はいませんよ。もうちょっと穏やかな気分の時に出直して来てください。俺は普段の優しい落ち着いたローズさんは好きですからね。


「ていっ!」


 いったああぁぁ!


 俺は急に生じた右脇腹の痛みに、持っていたコップや肉まんを落としそになるくらい悶絶した。


「あ、すみません。どれくらいの打撃なら気を失うのかと気になってしまって。ちょっと足加減し過ぎましたかね?」


 背後から聞こえた、感情が乗っていないマリーの声。


 いやいやいや、色々、色々と言いた事は有るけど、なんで脇腹なんだよ!


「隙だらけだけど、ゲオルグ様の左にはローズが居て、左脇は蹴り難かったから」


 なにその理由!


 もうマリーは俺の背後に立つの禁止な!


 ローズさんも笑ってないで、マリーに何か言ってください!


「ふふ、そうねえ。懐が深い人って、蹴りやすそうよね。私も蹴ればスッキリするかしら」


 懐が深いって脇腹が無防備だって意味じゃないからね!?


 スッキリはするかもしれないけど、そこは別にサンドバッグを用意していただきたい。


 なにが楽しいのか笑い合っている2人を放置して、俺は手元の食糧を片付ける事に集中した。

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