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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第12章
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第24話 俺は医務室に運ばれる

「外傷は無いようですが、頭部への打撃は危ないので、念の為に魔導具を使っておきますね」


 訓練場に併設されている医務室のベッドに寝かされた俺に、エステルさんが回復魔法の魔導具を使用する。


 自動治癒が有る俺に治療は必要無いが、必要無いと言い切る上手い言い訳を思い付かず、そのまま大人しく治療を受けてしまった。


「補水液と栄養剤も飲んでくださいね」


 エステルさんが持って来たコップには、植物の茎を使って作ったストローが付いている。横になったままでも液体を口に含めるようにと作られたが、真っ直ぐな形状なストローは少し飲み難くい。途中で折れ曲がるストローって便利だったんだな。


 ところでエステルさん。


「はい、なんでしょうか?」


 可愛らしい笑顔で応対してくれたエステルさんに、俺が倒れた経緯を質問した。


「対戦相手に後頭部を殴られて倒れたそうです。意識を失っていたのは10秒も無かったと聞いていますが、攻撃された覚えが有りませんか?」


 有りませんね。


 怪我はすぐに自動治癒するが、殴られたり斬られたりすると痛みを感じて来た。


 しかし今回は痛みも感じずに意識を刈り取られた。


 どうして痛みを感じなかったんだろう。


 今までと今回とで、何か受傷時に違いが有ったのか?


 それにしても、後頭部への打撃が俺の弱点とは知らなかった。酸欠と同様に今後気をつけないとな。


「ゲオルグさんに手を上げた男の子は審判の制止を振り切って逃走したようです。訓練場担当の警備管理部員が追いかけたそうですが、捕まえたかどうかは分かりません」


 ふーん。


 殴って来たのは、多分あの喧嘩腰だった奴だろう。かなり興奮していたし、俺への恨みを募らせていたし。


 まあでも、殴った奴は8組の人間だって分かっているんだから、逃げるだけ無駄ですよね。


「そうですね。すぐに捕まるでしょう」


 それから俺は犯人の事を一時的に忘れて、エステルさんと他愛もない会話をしながら時間を潰した。


 クラスメイトが誰も面会に来てくれないのは寂しかったが、面会を控えるような指示でも出ているんだろうと、勝手に納得していた。





 最近育てている新しい植物の話をエステルさんから聞いていると、医務室に試合管理部員とゲルトさんがやって来た。試合管理部員は俺が殴られた試合で審判を務めていた人だ。


 ゲルトさんが一緒に居る意味はよく分からないが、殴った犯人を捕まえたという報告だろうか。


「体調は問題無いか?」


 審判からの問い掛けに、俺は問題無いですと答えた。


 問題無いとの太鼓判をエステルさんからも貰った審判は、悲痛な顔で頭を下げた。


「すまない。俺があの時、もっと警戒していれば」


 あの時とは、俺が殴られる前の話かな?


 俺は審判から割と離れた位置に整列していたから、止められなかったのは仕方ないと思いますが。


「そう言ってもらえるとこちらも気が楽にはなるが、本当に申し訳ない」


 頭を下げたままでいられたらこちらも居心地が悪いから、サクッと話題を変えよう。


 俺を殴った犯人は、もう捕まったんでしょうか?


「いや、それはま「その話は俺が引き取ろう」」


 話に割り込んだゲルトさんが、懐から羊皮紙を取り出して開いて見せた。


 それは、昼休みに広場で俺とプフラオメの名を使って騒動を起こした奴の似顔絵だった。


 何度見ても良く描けているが、なぜ今それを?


 こんな時に、また自慢ですか?


「ゲオルグを殴った犯人は、こいつだそうだ」


 はっ?


「因みに、まだ捕まっていない」


 はぁ。


 取り敢えず言いたい事は、俺が想定していた犯人と違うって事。あの騒がしかった奴じゃないのか。


「更に言うと、試合に参加していた8組の連中は口を揃えて、こいつは8組の人間じゃないと言っている」


 全く意味が分からないのは、俺が後頭部を打たれて頭が悪くなったから?


「つまり、こいつは一度学校から出る姿を人に見せた後、こっそり戻って来て8組の試合に紛れ込んだってわけだ。この程度も分からないのなら、もう一度頭を検査してもらったらどうだ?」


 上から目線で説明出来たことが嬉しいのか、ゲルトさんは得意げな顔を作っている。


 やっぱり意味が分からない。自分のクラスに知らない顔が混ざっていて、どうして誰もこいつを排除しようとしなかったのか。なぜそのまま試合を行おうとしたんだ。


 全く理解出来ない。


「8組の女の子が1人体調不良で試合を休む事になったから、その代わりを誰かがこっそり頼んだ。皆、そう思っていたらしい。こいつが誰かは知らないが、1人休んで負けるよりは良いと思ったとか。まあその結果、暴力沙汰で反則負けになったわけだが」


「俺達が試合前に、もっと念入りに参加者と名簿を確認すれば良かったんだ。『時間が無いから参加者の確認は参加人数だけで良い』なんて今年規則が変わらなければ。アリーさんが反対していたのは、きっとこういう事を想定していたんだ」


 審判は頭を上げず、悔しそうに心情を吐露した。


 今年になって規則が変わったのか。ふーん。犯人はなかなか内部事情に詳しそうじゃないか。


「まあそういう事で、犯人はまだ捜索中だ。ああそれと、ゲオルグが運ばれた後、10組の連中が8組と喧嘩を始めてな。そうしたくなる理由も分かるから今回は厳重注意で済ませたが、次は何かしら罰を与えると伝えてある」


 あら、そんな事が。医務室に来ないと思ったら。


「勿論、その場に居なかったゲオルグがこれから8組と問題を起こしても駄目だからな。色々と思うところはあるだろうが、8組の連中と関わる時は注意しろよ」


 ご忠告、ありがとうございます。気をつけます。


 言いたい事を言い終わったらしいゲルトさんは、結局頭を上げてくれなかった審判を引き摺って医務室から出て行った。


 ゲルトさん達が出て行ったのと入れ替わりに入って来た10組のみんなは、俺の体調面が問題無いと知って喜び、余計な事をしたと言って謝罪して来た。


 もう謝罪はお腹いっぱいだな。


 俺はすぐに皆の謝罪を止めさせ、次の試合をどうするか話し合う事にした。

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