第21話 俺はクラス対抗戦で奇策を弄する
クラス対抗戦は円形の訓練場を『自陣』『中立地帯』『敵陣』の3つに分割して行われる。
敵陣には侵入不可。自陣と敵陣の中間に5メートル程の幅で設けられた中立地帯には侵入出来るが、中立地帯に入っての魔法使用不可であり、中立地帯内での物理的な接触攻撃も不可だ。
その為、自陣から敵陣に向けて遠距離魔法を放つ事が主な攻撃手段となる。
攻撃目標は人ではなく、敵陣に浮かぶ5つの大玉だ。互いの陣地に配置された5つの大玉を攻撃し合い、時間内により多くの玉を破壊した方が勝利となる。人や魔導具に向けた悪質な攻撃は失格となる可能性が有る。
大玉は陣地内の地面に設置された5つの大型魔導具によって作られた物で、地面から4メートル程上空に浮かんで固定されている。
5つの大玉は見た目は同じだが、内部的にはそれぞれ木火土金水の五属性で構成されていて、攻撃魔法に対して相性が有る。例えば、火属性の大玉は木や金では破壊し辛いが、水や土には弱い。
大玉を生み出す魔導具は訓練場の外周に沿って等間隔に配置される。配置場所は固定されているが、どの属性玉をどこに出現させるかは守備側が選択出来る。
試合管理部が試合開始前に魔導具を入れ替え、攻撃側や観客はどこにどの属性玉が出るか分からない状態で試合が始まる。
相手の属性玉の位置を的確に把握して弱点を突く事で相手より速く大玉を壊す、これがこの対抗戦の肝だ。
「それでは、1分後に試合を開始します。選手の皆さんは戦闘準備をお願いします」
訓練所へ入場して中立地帯に集まった俺達に、審判が指示を出す。
「よしっ、みんな位置に付いて!」
ミリーの掛け声に合わせてクラスの皆が小走りに移動し、自陣深く下がった地点で横一列に整列した。
俺達の背後には大玉が3つ並んでいる。
「さあ、午後の第1試合、2組対10組の試合前時間ですか、10組の動きが気になりますね。午前中の試合ではどの組も見せなかった配置です」
実況を担当する試合管理部の生徒が、隣に座る解説役の生徒に話しかける。
「5つ中2つの大玉を捨てる作戦でしょう。2組は40人、10組は20人。クラス毎の生徒数の違いを、奇策で埋めようとしたのかもしれません。しかしこれは悪手。去年や一昨年の大会でも最初からいくつかの大玉の守備を放棄する組は有りましたが、あまり良い結果は出ていませんね」
解説役の生徒はつまらなそうに答えた。
「午前の予選を全勝で駆け抜けた1組も20人でしたが、彼らは一塊にならず、前衛の攻撃役と後衛の防御役に分かれていましたね」
「1組は魔力検査上位者が集まるクラスですから、10組と比べてはいけません。1人で10人分の魔法を掻き消すような怪物は10組に居ないわけですから。大怪物の弟君は居るようですが、はてさて」
「実は私、彼にはちょっと期待しているんですけどね。おや、2つの大玉を捨てた10組に対して、2組は各大玉に1人ずつ守備隊を配置し、残り全員が自陣の最前列に移動していますね」
「10組の動きを見て急遽作戦を変え、速攻を仕掛ける判断をしたのでしょう。私でもそうします」
「なるほど。では早々に決着するかもしれませんね。おっと、そろそろ時間です。審判が、開始の合図を」
「始め!」
審判の合図に合わせて、両陣営が魔法を使用する。
2組の連中は火球で揃えた。俺達が守りを放棄した右端の大玉に向かって、大小不揃いな35発の火球が放たれる。
それに対する我が10組は土魔法を選ぶ。しかし、飛来する火球の迎撃用では無い。
ミリーの掛け声に合わせて、20人の生徒が右手を掲げ、声を揃えて詠い出す。
「灰燼を、糧とし肥ゆる、黄土色。肥えた大地は、地相を定む」
詠う間に飛来した火球が大玉に全弾命中し、玉は呆気なく炎上した。
「土相」
声を合わせた20人の言霊が、訓練場の観客席にまで響き渡る。
……。
数秒の静けさの後、敵陣からどっと笑いが起こった。
何かして来るのかと身構えていたのに、何も起きないじゃないか。真剣に全員で詠うだけって、なんだよそれ。
そんな笑いだろう。
敵の笑いは観客にも伝播し、解説役の生徒も笑いを堪えながら何か的外れな解説をしている。
クラスメイトに視線を向けると皆も笑っていた。ただしこちらは、ほくそ笑む方だ。
「狙い通り、火魔法を使ってくれたわね」
ミリーが可愛らしくウインクをして来た。
まだ戦いは終わってないんだ。あんまり興奮し過ぎて、作戦を忘れないようにしてくれよ。
「大丈夫、私は冷静。何も心配は無い。さあみんな、次の一手、行くよ!」
ミリーが左手を天に向かって突き出す。
10組の生徒が今度は4人1組に分かれて固まり、先導者のミリーに倣う。
俺達の動きに気付いた相手は慌てて攻撃を仕掛けようとしているが、大半はこちらを舐めているようで、様子を見ようと棒立ちしている。
先程と違って少数の火球が左端の大玉に飛んで行くが、その程度ではまだ落ちないだろう。まあ、落ちても構わない訳だが。
「白光る、鋭利な穂先、長柄槍。一点突破、敵穿ち抜け」
俺達の詠う声に、固定された土の地相が更に力を与える。
「金槍」
4人1組になった俺達10組の頭上に、5本の金属製の槍が出現する。それは通常時に4人が力を合わせて生み出す槍よりも、数段力強い魔法だった。
土生金。
地相を利用する事で人数差の不利を覆そうと提案したこの作戦。まず最初の試合の初手は上手く機能したようだ。




