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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第12章
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第20話 俺は他人の意外な一面に驚く

 訓練場前のタープテントには数人の警備管理部員が居た。


 流石にプフラオメ達の姿は無い。個人戦が有る仮設試合場へ向かった後だろう。


 取り巻きとは顔を合わせたくないが、プフラオメとはさっきの件について少し話したかったな。


「ゲオルグ、ちょっと時間あるか?」


 そのままテント前を通過しようとしたが、取り巻き連中と同じくらい顔を合わせたくなかったゲルトさんに声をかけられた。


 試合まで時間が無いから、と拒否しようとしたが、ゲルトさんは部下に命じて俺の進路を塞いで来る。


 抵抗する方が時間の無駄だぞって事か。


 はぁ、仕方ない。


 それに、強引な手段に出てまで試合前に時間を取らせようとする理由も気になるしな。


 いったい何の用ですか?


 俺は渋々進路を変えてテント内に足を踏み入れ、ゲルトさんに向き合った。


「さっきの騒動を起こした男の似顔絵を何枚か描いて、警備管理部員全員に危険人物の存在を周知したんだがな」


 ゲルトさんが懐から1枚の羊皮紙を出し、両手で広げて俺に見せて来た。


 表面が凸凹な羊皮紙では線に多少の歪みが有るが、目付きや口元の特徴を良く捉えていて、凄く似ている似顔絵だった。


 へー、一緒に居た部下の人が書いたんですか?絵の才能が有るんですね。これならすぐに捕まりそう。


「ちっ。俺が描いたんだよ」


 似顔絵を褒めた俺に向かって、ゲルトさんが盛大な舌打ちをして不満を露わにする。


 げっ。


 何だその罠は。


 こんなに筋骨隆々なゲルトさんが繊細な似顔絵を描けるなんて誰が思うよ。


 初見では誰もそう思わない。だから俺は悪くないと訴えたい。


 そうですよね、他の部員のみなさん!


 しかしテント内に居る他の人達は俺から目を逸らすだけで、誰も擁護はしてくれなかった。


「ふぅ。まあ誰が描いたかはどうでも良くてだな」


 どうでも良いって思ってる顔じゃないんだけど。両手で羊皮紙を持っていなかったら殴りかかられていたんじゃないだろうか。


 取り敢えず、すみませんと謝っておこう。


「学校の正面に有る校門を見回っていた部員の1人がな、こいつが門を堂々と出て行く姿を騒動の後に見たと言うんだ。昼休みとはいえ外に出る生徒は珍しいから覚えていた、と」


 はぁ、そうなんですか。まあ捕まりたくなかったら、外に逃げる事も考えるでしょうね。


「話はそれだけだ。もう行っていいぞ」


 えっ、それだけですか?


 わざわざ部下を使って呼び止めた結果が、これだけ?


 外に逃げたから、もう捜査は打ち切りって話ですか?


「ゲオルグに話せる内容はここまでだ、とういう事だ。また何か進展が有れば話すかもしれないし、話さないかもしれない」


 捜査内容は守秘義務って話か。


 まあ俺としては、ゲルトさん達がどんな手段を取ろうとも、犯人を捕まえて償わせてくれるならなんでもいい。


「ほら、もうすぐ試合時間だぞ。さっさと行け」


 はいはい、いってきます。夕方の休憩迄には、話せる情報を用意しておいてくださいよ。部下が道を塞いでも納得出来るような、大きな情報をね。


 しかしゲルトさんは俺の言葉には答えず、広げていた羊皮紙を丸めて大事そうに仕舞っていた。


 もしかして、単純に絵の才能を自慢したかっただけか?




 世の中不思議な事が有るものだ。


 別に誰が絵を描いても良いし、絵を描く事が好きになっても良いんだけどさ。


 ゲルトさんには、ちょっと似合わないっていうか。


 筋トレが趣味だと言われた方がすんなりと納得出来る。


 絵を描く趣味が有るってプフラオメが言ったら納得するけど、筋トレが趣味だって言って来たら絶対に笑っちゃう。


 それは完全に偏見で、外見からイメージ付けするのは失礼だって分かるけど。


 レオノーラさんはゲルトさんの絵心についてどう思っているんだろうか。後で会ったら聞いてみようかな。


「ゲオルグ、もうすぐ選手入場だよ!」


 ぼーっと考え事をしていたら、ミリーに肩を叩かれた。


 おっといけない。これからクラス対抗戦の初戦だ。対戦相手は、確か2組。


「しっかりしてよ。団体戦の勝敗はゲオルグに掛かってるんだからね!」


 それは言い過ぎだろ。クラスみんなの頑張りで、勝利への道が開けるんだ。


「よし、みんな行くよ!まずは初戦を突破して、次戦以降への弾みを付ける!頑張ろうー!」


「「「おーー!!」」」


 右手を突き上げたミリーの掛け声に合わせて、クラスのみんなが呼応する。


 ミリーのリーダーシップ。これも不思議な事の1つだ。いつも明るく元気なミリーの活力に、いつのまにか皆が引っ張られている。


 最初に出会った時は俺を遠慮がちに様付けで呼ぶような子だったし、皆を引っ張って行くタイプとは思わなかったな。


 いや、おとなしいアランくんをグイグイ引っ張っていたし、元々お姉さん気質でそういう素養は有ったって事か。


「またぼーっとしてる。ほら、ゲオルグも。頑張ろうー!」


「お、おーー?」


「じゃあもう1度みんなで。頑張ろうー!」


「「「「おーー!!」」」」


 突き上げた皆の右手首には魔導具が装備されている。勿論、俺の手首にも同じ物が有り、他の部位にも別の魔導具が。


 さてさて、作戦が決まるかはみんな次第。掛け声の時みたいに上手く息を合わせて行こうじゃないか。

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