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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第12章
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第17話 俺はイルヴァさんの言葉に脱力する

 広場で喧嘩が発生中だ、と警備管理部員がゲルトさんに報せに来た。


 警備管理部が忙しくなりそうだからさっさと此処から退散しよう、と俺はレオノーラに提案したが、ちょっと待ってと止められた。


「喧嘩に屋台が絡んでいたら、私達も必要かもしれないから」


 なるほど、そういう事も有るか。


 居なくなった俺達を再び呼び出すのは面倒だもんな。出来るだけ早くゲルトさんから離れたかったが、仕方ない。


 俺はイルヴァさんの背後に隠れ続けながら、タープテントに駆け込んで来た人の話に耳を傾けた。




 話によると、屋台の店員と客が争っているらしい。


 行列が出来ていたのに後から来た客が先頭に割り込んだようだ。それを店員が注意して、喧嘩に発展したと。


 2人1組で見廻っていた警備管理部員が止めに入ったが埒が開かず、1人を現場に残して、ゲルトさんに助けを求めに来たようだ。


 なんてダメなやつだ。みんな日が照って暑い中並んでいるのに。いったいどこのどいつだ!


「その客は『俺は背後には王子が付いてるんだぞ!逆らうんじゃねえ!』と言ってまして」


 うわっ、嫌なやつだ。虎の威を借る狐って本当にいるんだな。


「ふふっ。私の背後にはゲオルグ君が付いていますがね」


 何が面白かったのか分からないが、イルヴァさんが声を押し殺して笑っている。


「第二か第三、どっちの王子だった?」


「すみません、『王子』としか」


 ゲルトさんの質問に部員が申し訳なさそうに答えた。


「分かった、取り敢えず現場に行こう。相手が第二王子の関係者だったら、部長にも来てもらう必要が有るな」


「こっちです」


 ゲルトさんが部員と共にタープテントを出る。


「私達も行くよ」


 レオノーラさんに続いて俺達も移動を開始したが、俺はゲルトさんの判断を否定したかった。


 絶対に第二王子の関係者だろ。


 プフラオメの関係者が問題を起こす筈が無い。


 大切な友人が疑われた気がして、俺はゲルトさんに不満を募らせていた。




 喧嘩の現場となった屋台は、客が暴れて一部が破壊されていた。


 屋台の営業には問題無さそうだが、客足は途絶えている。


 事情を知らない通行人が破壊された場所を指差しながらヒソヒソと話していて、そこが他者に不快感を与えて客が減っているのは間違いなさそうだ。


「1本ください」


 脂が焼ける良い匂いを放っている豚肉の串焼き。誰も食べずに捨てられるのは勿体無い。俺は焼き立ての豚串を購入してかぶり付いた。


 塩と、少しの香辛料。自分の屋台で出す料理の練習で醤油や味噌の味付けばかり食べていたが、こういう昔ながらの味付けもやっぱり美味い。もう1本いっとくか。


 屋台を破壊した張本人には、屋台の修理費だけじゃなく、売り上げ低下の分も含めて賠償させないとな。


 その暴れた奴は屋台から離れた場所で大人しく警備管理部員に押さえ付けられていたが、突然現れたゲルトさんの巨体と向き合って動揺している。


 気持ちはよく分かるよ。俺も初見ではそうだった。


「割り込み未遂だけなら注意だけで済ませたが、器物破損はやり過ぎたな」


「う、うるせえな。せっかく貰ってやろうとしたのに断るからだ。王子が食ってこの屋台を褒めればそれだけで人気が出て、元は取れるってのに」


 ゲルトさんの指摘に、戸惑いながらも言い返す彼。


 王子の威光で箔が付くって言うのは分かるが、だからと言って並んでいる客を抜かして良い理由にはならない。


 もし並んでいる客を無視して王子を優先したら、そんなズルをする店側に悪評が立つ可能性だって有る。王子側にも良い評判は生まれない。お互い損をするだけだ。


 そんな事も分からないのかコイツは。しかも貰うって。買おうともしていなかったとは。


 ゲルトさんにびびってるようだし、分別の無い1年生か?


「王子ねぇ。バンブス王子に褒められても、誰も羨ましがらないぞ」


 ゲルトさんの第二王子に対する失礼な言葉を聞いて、彼は憤慨した。


「はぁ?なんで俺があのダメ王子と。俺の名前はゲオルグ・フリーグ、俺の友人はプフラオメだけだ!」


 そう叫んだ彼は、押さえ付けていた警備管理部員を振り解こうと力を入れた。


 今まで大人しくしていたから油断したのか、警備管理部員は易々と投げられて、背中を地面に叩きつけられた。


 拘束を逃れて走り出す彼を、ゲルトさんともう1人の警備管理部員が追いかける。


 彼が叫んだ言葉は通行人や周辺屋台の耳に入り、噂が広がって行く。


「同性同名の人っているんですね。私、初めて見ました」


 アイツは偽物で俺が本物のゲオルグだっ、と叫びそうになった俺に向かってイルヴァさんが暢気な事を言うもんだから、俺は脱力して反論するのをやめてしまった。

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